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ショタパン!コラボ 当方完結御礼 遠くて近しい友へ

 アースガイア。

 大神殿、神官長執務室。


「なるほど。それは随分と楽しそうな話ですね」

「ああ。クレアが突然姿を消した、と聞いた時には冷汗をかいたが最終的には、これ以上ない家族旅行を楽しませて貰った」


 異世界親子旅行から戻ったリオンは、親友達にその土産と、土産話を早速披露していた。


「僕も連れて行ってくれればよかったのに。流石に、異世界の座標を記録、再構築できる自信はありませんが、錬気術、ですか? 異世界の、精霊に寄らない特殊技術には触れてみたかったです。アダマスにもまた会いたかったですし」

「オレもいきたかったなあ。オレは一度もそっちに行けてねえんだぜ」

「それは悪かったと思っているが、行こうと思って行ける場所ではないからな。あの時はクレアが向こうにいたから、その座標を目指して行けただけだ。

 向こうの世界には『精霊』が基本存在しない。もう一度行って辿りつける自信はなかなかないかな」

「まあ、並行次元、異世界にそうそう簡単に行けるものではないと解っていますが……」


 口ではそう言っても、やはりフェイも悔しいらしい。

 まだ不満に膨れた頬は萎む気配を見せない。


「それで? 駅? とやらに戻ってからはどうしたんだ?」


 一方で悔しさよりも興味が勝るアルは、並べられた土産物とリオンの顔に視線を行き来させながら話の続きを促す。


「駅で『蒸気機関車』という大量高速移動機関を見せて貰い、昼時だったから、食事を奢って貰った。

 アダマスの所は、大真珠湖っていう湖を管理しているらしいんだがそこの名産。

 マスのクリームパスタ、というのが本気で美味かった」

「パスタか~。いいよな。麺をベースに色々な味が楽しめるから。で、そのクリームパスタっていうのは魚を使ってんの?」

「ああ、こっちでいうとサーマンの近似種じゃないかと思う。紅色の身が多分牛乳ベースかな? のソースとよく合う。他の具はシンプルに青菜だけ。

 でもコクがあって舌の上で旨味が蕩けるような感じだな。クレアなんか、黙ってたら皿まで舐めかねない勢いだったぞ」

「魚とホワイトソースか~。マリカも食ったんなら、レシピの見当つくよな。後で教えてもらお」


 アルは食品扱いゲシュマック商会の商人だから、こういう話に目ざとい。

 でもマリカが必死に味を覚えようとしていたのは事実だし、こちらで同じにはならなくても近い味のものが食べられればなかなかに嬉しいと、リオン自身も思っていた。


「それから?」

「大真珠湖のほとりに降りて、水に足を浸したり遊覧船や足漕ぎボートに乗せて貰ったり。アダマスの所は観光地。所謂、他所の領に一般市民が風光明媚な環境や、楽しい遊び施設、美味な料理を目当てに遊びに来る。そんな環境が整っているんだ。

 マリカは、オリエも遊ばせてやりたかった、と残念そうだった」

「遊び、楽しむための施設、ですか。それはいいですね。今まで、アースガイアは生活基盤を整えることを中心にしていましたが今後はそういう余暇の部分に力を入れてもいい」

「マリカもそう言ってたな。

 昔、子どものアダマスと出会った港町オリオンにはもっと遊びに特化した施設があると聞く。前の時は見る機会がなかったが、次の機会が許されたら見てみたいものだな」


 フェイは相槌を打ちながら心の中でアダマスに感謝していた。

 どうやら、本当にリオンとマリカ、そしてクレアは家族でのバカンスを堪能したようだ。

 家族水入らずの幸せな一時。しかも、こっちの世界では何かと目立ち、制限がかけられるマリカ達親子が、当たり前の家族として、幸せに楽しめる。

 それはきっと値千金の時間であったことだろう。


「最後に領主館に戻って、マリカの希望もあって、子ども達の学ぶ学校、ではないか。

 訓練所めいたものを見せて貰った」

「マリカはやっぱりマリカですね」

「ああ。一般の子どもの学校などは無理だったが、アダマスの領主館には自分の家に仕える貴族の子ども達に教育を与える施設があってな。そこは良くも悪くも活気があったと思う」

「良くも、悪くも?」

「アースガイアの貴族の学び舎は、どちらかというと王族と、その側近の教育の場だろう? 自分の責任と将来背負う役割を認識していて、それに相応しい存在になるための知識を身に着ける場所だ」

「そうですね」

「ただ、そこの連中は違った。貴族がこっちの世界よりも明確に高い位置とされているからか、子ども達もけっこうギラギラしていた。

 いつか上に上がってやる。親も、超えてやる。みたいな」

「なるほど。そういうやる気は先に進む原動力になり得ますが、自分の周囲を敵のように思い攻撃したり、上下の序列を作ったりもしますからね」

「そういうこと。だが、悪い事であるとは言い切れない。だから、マリカも凄く真剣な顔で見ていたぞ」


 アースガイアは優しい世界、と称したのは確かクラージュ師だった。とリオンは思い返す。今後、子どもが増えて行けば、人間同士の世界だ。意思や、考え方のぶつかり合いでトラブルなども増えて来るだろう。

 マリカはそれをイジメと呼び、撲滅を目指しているがなかなか根絶は難しいと、リオンは感じていた。だが、マリカはめげない。


「今回の訪問で、色々とヒントを貰った気がするの。

 アースガイアをもっと良くしていけるように工夫していきたいな」


 異世界の様々な物を見て、触れて。

 目を輝かせていた。

 子どもの頃のように。

 あの眼差しを見れただけでも、異世界転移という無理をやらかした価値はあった気がする。


「それで、この写真と本と種は?」

「ただ、世話になるのも悪いからな。少しでもお礼がしたい、ってマリカが言い出して。

 でも、まさかアダマスの異世界に行くことになるとは思わなかったから、俺達も大したものは持ってなかった。なもんで。財布の中に入れてたカレドナイトと、俺の手袋を置いてきたんだ。一度他人の手が触れたものを贈り物にというのは失礼じゃないかと迷ったし、娘を助けてもらい、観光までさせてもらった礼には足りないかと思ったが」

「リオン兄の手袋? アレ、一応、アースガイアの精霊技術の粋を極めた高級品だぜ。

 防刃、防熱、防寒、防炎。耐衝撃。精霊の力でコートもがっちりかけてある。宇宙空間で仕事をする兄貴の為に、ってマリカが色々と惜しまず用意したもんだ。ベースは精霊上布だから柔らかいし、指も動かしやすかっただろ?」

「ああ。だから、アダマスに使って貰えればと思って置いてきたんだ。

 あれがあれば多少の危機があっても、手指は守れる、守ってくれると思ったから」


 さんざん、楽しい思いをさせて貰ったお礼の何もなしでは申し訳ない。

 せめて、感謝とこれからも無事でいて欲しいという思いを残したいとリオンは考えたのだろうと、フェイは納得した。リオンの手袋は、後で新しいものを作ろう。


「そしてマリカが財布に入れて持ち歩いていたカレドナイトの結晶石を、アダマスと妹と、色々と身の回りの手伝いをしてくれた女性にペンダントに仕立てて渡した。そしたら、なんだか倍返しで色々と土産を用意してくれてな」


 不思議な花の種と精霊古語で綴られた本が一冊。

 それから、皆で写真を撮ってその写真も貰ってきてしまった。


「……これ、湿板写真かな? うちのと似ているようでビミョーに違う感じ?

 しかもカラーだし」

「それはメイド女史が色を付けてくれたらしい。

 あの人も……きっと……」

「リオン?」

「いや、何でもない」


 コンコンと叩くアルの手に伝わる固い感触はアースガイアの写真と同じガラス板を使って似た原理で作っているからだろう。

 あの世界にリオンは、最初からどこか懐かしさ、既視感を感じていた。

 まるでスタート地点が同じで、別のコースを進み別の場所に辿りついたような兄弟星。

 メイド女史も、ごく普通を装っているが『特別な存在』なのは明白だ。同種、と言ったら相手が気を悪くするかもしれないけれど。


「リオン。この本、少し研究してみてもいいですか? とても興味深い。

 流し読んだだけでは半分も理解が及びませんがじっくり研究すれば、向こうの世界の技術を理解して、こちらで生かすことができるかもしれません」

「花の種、ミカガミ草、だっけ? はオレが責任をもって育てる。アースガイアの生態系に影響しないように。でも大事に。絶対枯らしたりしないから」

「ああ、頼む。せっかく俺達を信じて託してくれたものだからな」


 リオンは親友二人に頷いた。

 軽く目を閉じると瞼の裏に浮かぶ、懐かしい笑顔。

 輝く虹色のミカガミ草。

 その中で、少女達は涙を必死に堪えながら、別れを惜しんでいた。



「シャルお姉ちゃん。……また会えるかな?」

「だいじょうぶ! なのじゃ。一度あることは二度ある、三度あるというからの。

 また、きっと会える。その時は、また一緒に遊ぼう! クレアも。そして、マリカもな……」

「はい。お姉さま。いくつになっても、どんなに歳が離れても、私にとってお姉さまはお姉さまですから……」

「ん。また会おうなのじゃ。マリカ」


 涙ぐむ少女達の後ろで、アダマスはリオンにそっと囁いた。


「……何が在ろうとも、マリカの事をちゃんと大切にしてあげないとダメだよ」

「ああ、肝に銘じる」

「あと、こっそりと秘密の隠れ家を作ることをお勧めする。いざという時、彼女と二人きりの時間を楽しむ為にもね」

「おい!」

「ははは。元気で!」


 どんなに変わっても、歳が離れても変わらない態度で迎えてくれた友。

 彼にはやはり敵わない。色々な意味で。


「でも、もし、また向こうとの扉が開いた時、こちらからでも、向こうからでもまた、対等の友人として胸を貼れる存在でありたいからな」


 彼らとの夢のような、奇跡のような思い出をリオンは心の奥に刻み込む。

 クレアも、マリカも、きっと同じだろう。


 永劫の時を生きようと忘れない、忘れられない、忘れたくない思い出。

 創世の闇を照らす、大事な灯が、また一つ増えたのだから。


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