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ショタパン!コラボ 当方完結御礼 蕾と華と花の冒険記

 大したものだ。

 とアダマスは思う。


「へえ~、姉ちゃん、胎の中に子がいるんだ?」

「ええ。四ケ月。大体赤ちゃんって十ヶ月くらいお腹の中に入っていて、その後出てくるの。触ってみる?」

「あ、どもです。うわ~。やわらけ~」

「パーラ。僕達にも」

「あんまり汚れた手でお母さんに触らないで。ちゃんと手を洗った?」


 お母さんを見知らぬ子に取られると思ったのか、クレアが膨れっ面で、子ども達に言い放つ。慌ててごしごしと服の裾で手を拭く子が増えたのは可愛らしい所だ。クレアの言い分が、絶対に触らせない、ではない所も。

 初対面の相手には人見知る事が多いメルクリウス錬金術店の留守番達が、突如玄関を介せずに入ってきた不審人物にもう懐いている。

 以前、出会った時彼女、マリカは確かに自分は、子どもと接する専門家、保育士だと名乗っていたがその実力をアダマスは垣間見た気分だった。


 そもそもは買い物と街歩きの休憩に、ちょっと近くにある家庭教師の家を借りて休んでいたところ、妹 シャルが


「なんだか、子どもの泣き声が聞こえるのじゃ!」


 と、外に出て迷子の少女を連れて来た事に端を発する。

 留守番の少女に不審の目で見られていたが、迷子の子を保護したからと説明し奥の部屋を借りた。甘いもので涙を止めようとホットケーキを出してもらったのだが、気を利かせてお代わりを持ってきてくれた彼女が来る直前、迷子の『迎え』がやってきたのだ。

 玄関を使わずに、ダイレクトで。


 転移術、空間転移。そんな技が向こうにはあると聞いたことがある。

 この世界にはそこまで便利なものは実用化されていないが、異世界の人間を送り返す技術などはその応用というか原理は近いのではないだろうか? 領主の息子である彼には理解が及ばないわけではない。

 ある種の不法侵入ではあるけれど


「うわっ。女が増えてる。また連れ込んだんっすか?」

「またって何? それに彼女は旦那さんと子供もち。さっきの迷子の子のお母さんだよ」

「申し訳ありません。娘の気配を感じてとるものもとりあえず入り込んでしまって。私はマリカと申します。

 どうかお見知りおきを」

「あ、これはどうも。ご丁寧に」


 明らかに格の違う『プリンセス』いや『クイーン』かな?

 貴婦人に丁寧な礼を取られて、先手を奪われて。後はマリカの思うつぼ。

 子ども達はすっかり心を鷲づかみにされていた。

 でも……


「いろいろ、あったみたいだね。リオン」


 横に立ち、娘と妻の様子を眩し気に見つめる夫にして父。

 そして友にアダマスは声をかける。

 前に出会った時はショートだった髪は腰まであって、後ろで無造作に止めている。身長もだいぶ伸びた。180cm、いや、190はあるだろうか?

 白い布手袋に、袖なしのレザー風のツナギスーツが精悍さを引き立てている。

 細身ではあるが鍛え上げられた体躯には無駄な贅肉など一つも無い。顔の造形も整っている。前がそうでなかったとは言わないけれど、確実に上を行く。

 立派な『大人』だ。そう、感じる。


「ああ。なんだかんだで十年以上になるからな」

「そうか、そんなに経つんだね」


 自分達にはまだそんなに昔のこととは思えないけれど、彼らの上に確かに流れた時間に思いを馳せる。クレアの説明を完全に理解したとは思っていない。

 けれど、リオンが上位者によって人質にされ、その身と引き換えに星を守ろうとしたこと。その過程で人の身を棄てることになったらしいことだけは理解してた。

 こうして隣に立っていても彼が、かなり気を使い『人間のフリ』をしてくれていることは理解できる。

 かつて、彼らの世界に迷い込んだ時、戯れに戦いを仕掛け、なんとか勝ちを拾ったこともあるけれど、今は絶対無理だ。あちらがその気になってくれない限り勝負にならないどころか同じ場に立つ事さえできない。

 次元が違いすぎる。

 ただ……。


「うん、随分、カッコよくなって、背も伸びたんじゃない? 

 良かったね。前は小柄な事、気にしてたでしょ」

「うるさい! 本当にイロイロあったんだ」


 本質的な所は変わらないと感じる。

 力でも、称号でもない、本物の『勇者』でありながら、不器用で照れ屋で、潔い割に負けず嫌いな少年。似た者同士と感じたあの頃のまま。


「それで、マリカ? どのくらいまで、こちらにいられるんじゃ?」

「クレアを見つけたら、直ぐに戻るつもりではいました。

 私達、異世界人がこの世界に長居してもいいものかどうか、解らないので」

「え~。せっかく来たのじゃ。少しくらい遊んで行っても良いのではないか?

 お兄様はどうおもうかや?」


 不満げに頬を膨らませる妹と、未来の領主としてこの時空の見えない不安を天秤にかければアダマスの場合、完全に妹の笑顔に傾く。

 目の前の者達も、積極的にこの世界に傷をつけることを良しとする存在では無いし、何よりこの世界が受け入れ、招いた客人だ。もてなすのも上に立つ者の役割だろう。その為にクレアは自分達の前に現れた可能性だってある。


「いいんじゃないかな? さっき、クレアにも言ったけれど、この世界を変えたり傷をつけるような力さえ使わなければ、少しくらい遊んでいったって」

「やった! この世界で遊んで行ってもいいんだって! お母さん」

「本当に、いいの? リオン?」

「……折角だ。お言葉に甘えさせて貰ってもいいと思う。

 この世界は俺達の世界とまるで違うからこそ、学べるものがあると思うしな。

 ただ、クレア。精霊の力は撒き散らすなよ。この世界にどんな悪影響を齎すか解らない」

「はーい! 

 というわけで、お姉さん。一緒に遊んでくれる?」


 さっきまでの大泣きはどこへやら。保護者がいると子どもは強気になるものだ。

 満面の笑みを浮かべながら甘えるようにシャルロットを上目で見るクレア。

 無垢な眼差しにどこか、懐かしいモノが過ったのはきっと、自分だけではないだろうとアダマスは思う。シャルも、もしかしたらマリカやリオンも。


「勿論じゃ。久しぶりじゃからな。さあ、皆で遊ぶのじゃ!」

「おーー!」


 嬉しそうに手を上げたクレアの頭を撫でてから、シャルはクレアに手を指し伸ばす。柔らかい子どもの掌を右手でしっかりと握ると


「ほれ。マリカも!」

「え? あ、はい」


 左手をマリカに向けて躊躇わず差し出す。

 少し、戸惑い、どこか頬を赤らめながらもその手を掴むマリカ。


「よーし! しゅっぱーつ!!」


 両手に蕾と華を連れ。花のような少女は元気に外に飛び出していった。



「前の時はいっぱいいっぱいで、周囲を良く見る余裕もありませんでしたが、面白い形の建物が多いですね。スチームパンクの世界のよう」

「スチーム? 何、それ?」

「あ、えーっと、蒸気を主力にした機械技術が発展した国、かな?」

「あながち間違ってはおらんのじゃ。この世界を動かしておるのは錬気術。つまり特別な力を帯びた蒸気じゃからの」


 個性的な建物が立ち並ぶ錬金術師街の表通りを手を繋いだ三人は歩いていく。

 真ん中のシャルともかく、左右の二人はきょろきょろ。右左上下左右と視線が動き、少しも止まらない。


「蒸気がメイン。だから、面白い建物がいっぱいなんですね」


 巨大な樽に煙突が沢山付いていて、それぞれに異なる色合いの煙を吐き出す建物があったかと思えば。


「見てみて、お母さん。あれ、キレイ」

「あら、ホント。クレアの瞳の色みたいね」


 紫水晶を削り出して作ったかのような塔も見える。巨大なキノコ笠の上に建っているのでいるのでどうやって作ったのだろうと興味津々の様子だ。


「アースガイアとは全然違うね」

「そうね。見ていて楽しいわ」


 二人の様子にシャルの頬が微かに緩む。自分達の町を楽しんで貰えるのは嬉しいものだ。


「えっと、駅への近道は……あっちなのじゃ!」


 シャルに先導を任せ女の子組を、少し後ろから見守るように着いていく男二人。歩幅を合わせて歩くのも悪くないが、こういうのも男の醍醐味かもしれない。

 のんびり微笑ましく、時に石畳のタイルでけんけんぱなどしながら歩いていく様子を楽しんでいた彼らであったが、どちらも危険の察知に関しては人一倍敏感。


「あ、シャル!」


 微かにアダマスが眉を上げて手を伸ばしかけたのを見て、リオンが前に出た。


「道が違っているのか?」

「イヤ、合ってるんだけど少し治安がよろしくないエリアだからね。シャル達だけだと……大丈夫、かな?」

「解った」


 スッと、まるで瞬間移動したかのように、いや実際にそうしたのだろう。

 リオンの姿がアダマスの横から消える。

 どこに行ったかとアダマスが目を見開けば向こうの路地の影にそれらしい人影が見えた。転移術、だっけ?

 便利なものだと感心する。前と後ろから護衛していればそんなに危険は無いだろう。あれば、追い払えばいい。

 アダマスは納得して、少しだけ距離を詰めながら少女達の後ろをついていく。


 幸い、シャル達は特に誰に呼びかけられることも無く、足止められることも無く駅前通りに辿り着いた。


「うわ~、お店がいっぱい。おまつりみたいね」

「ここは、駅前市場。お祭りじゃなくっていつもこんな感じで面白い所なのじゃ」

「それだけの人の行き来があって、客が見込めるってことなのね。

 凄いなあ。駅に列車。なんだか懐かしい感じ」

「お母さん?」

「ああ、なんでもないわ。クレア。まだアースガイアは列車まで行きついてないから、興味深かっただけ。向こうに帰ったら、線路の敷設は検討してもいいかもね」

「マリカ。ほれ、みるがいいぞ。この花、お辞儀するのじゃ」

「わ~、面白い。糸引っ張るとピコピコするんだね~」

「うわ。こっちは綿あめ。なつかし~」

「コーヒーは好きか? マリカ。クレアには砂糖入りが良いかや?」

「私もコーヒー飲みたい。お母さん、子どもはダメって飲ませてくれないの!」

「そうかあ。でも、たまにはきっといいのじゃ。ほれ、缶コーヒー買ってくるから待ってるのじゃぞ?」

「凄い、缶コーヒーまであるんだね?」


 楽しそうに屋台を見て回りはしゃぐ少女達を見つめながら


「お前の所も、大変だな」

「まあ、ね。でも、そういうのはどこも一緒でしょ? ああいう笑顔を守る為の下の力持ちってね」


 男達はそんな会話を静かに交わす。


 どんな世界も、平和はタダではない。

 路地裏にも人込みにも、治安維持の為の暗部や精鋭たちが紛れて、密かに維持していることを、彼女達は知らなくていい。気にしなくていい。

 例え、気付いていたとしても。


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