ショタパン!コラボ 当方完結御礼 迷い込んだクレアと再会のマリカ
カオス饅頭様の作品
ショタパン!【ショタのスチームパンク恋愛喜劇】〜無口系ショタで蒸気世界の貴族なボクが、領地内でお忍び探検ラブコメをする〜
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との御礼コラボ。
リオン救出&結婚式の後。フリードが生まれる前のひとこま。
ご許可ありがとうございます。
「……ここ、どこだろう?」
迷子の少女は途方に暮れていた。
見知らぬ街並み、見知らぬ人々。
それは別に、脅威ではない。怖くも無い。
自分に害を及ぼす存在ではないと解るし、自分に害を及ぼせる者などそういないと知っているから。
ただ、解らない。怖い。ここは一体、どこだろう?
生まれた時から、彼女はアースガイアの女神だった。
ほぼ全能、と言ってもいいだろう。
物心ついた時から呼吸するように何でもできて、自分の周囲は全て自分の味方。
何をしようと思っても困ったことは無い。
空を飛ぶことも、星の上を移動することも簡単にできた。
水の中も、なんだったら宇宙空間だって平気。むしろ職場だ。保護者同伴ではあるけれど、何度も銀河の海を飛び越えて星海を守る家族の手伝いをしている。
「クレア。貴女のその力は、お父さんから受け継いだ、星を守り、皆の幸せを守る為の希望なの。貴女が自由に使っていいけれど、人を傷つけたり悲しませることに使ってはダメよ」
繰り返し、繰り返しそう教えられてきた。
その教えに逆らうつもりはこれっぽちもないし、自分は皆を助ける存在になるのだと決めてもいた。
お父さんのように、お母さんのように。
星を助け、護る保育士になる。
なのに。
「うそ……。なんで、何にもできないの?」
身体がなんとなく重い。自分の周りに誰も何も『精霊』がいないことが解る。
今までは常に自分の周りに、お父さんの『精霊』がいた。彼らはみんな自分の言う事を聞いて助けてくれた。
なのに、ここにはそれが欠片も無い。
生まれて初めて感じる。それは正しく彼女クレアティーネにとっての『異世界』であった。
「ここ……、どこ? 誰か、助けて! お母さ~~~ん!」
彼女は知らなかったが、実は運が良かったのだ。
もし、道を一本二本、ずれていたら裏町に迷い込んでいただろう。
ほんの少し、奥に行っていたらさらに治安の悪い一角に迷い込んでいた。
管理されているとはいえ、風俗ギルドやその手の生業の者達のエリアに8歳の女の子。
しかも金髪紫眼の美少女が、サファイアかと思わせる細工のついた指輪をして、上質のオーダーメイドの服を着て泣いていたら、それは間違いなく攫われる。
誘拐か、売り飛ばされるか、もっと酷い事か、とにかく良くない事になっていたのは間違いない。
さらに彼女は運が良かった。
「ほえ? どうしたのじゃ? 何を泣いておる? もしや迷子かや?」
後ろから、そんな優しい声がかけられたのだから。
「え? あなた、誰?」
振り返り、迷子の少女は定番かつ、もっともな疑問を投げかける。
けれど、質問に返ってきたのは質問。
「! マリカ? いつの間に金髪になったのじゃ?」
太陽を紡いだような金のツインテールが跳ねるように揺れ、指に嵌った精霊の結晶石よりも澄み切ったブルーアイが好奇心満々の眼差しで自分を見つめていた。
「マリカって、お母さんを知ってるの? お姉さん?」
「ほへ? おかあさん? マリカが? なのじゃ」
瞬きを二回。少し考えるような仕草をした少女は、首元から服の下を探り、なにやら引き出した。
「もしかしてこれ、を知ってたり持ってたりするのじゃ?」
「あ! お母さんがいつもつけてるペンダント! いい匂いのお花の香りがするの!」
クレアの瞳がキラキラ、イキイキとし始めた。右も左も解らない土地で、やっと見つけた『知っているところ』だ。
「やっと、お父さんを助けたから次の大祭には、アルケディウスに連れて行ってくれる。そして、お祭りで買ってくれる、って言ってた!
大事なお姉さまと、お揃いなんだって!」
「ということは、やっぱりホントにマリカの娘なのじゃな? まあ、その外見からして間違いないとは思っていたのじゃが」
うんうん、と納得したように頷く少女。クレアには意味がよく解らないが、とにかくこの少女が「お母さん」の知り合いであることには間違いなさそうだ。
安心したと同時、クレアの、これでも我慢していた緊張の糸がぷつん、と音を立てて切れた。
「おねーさん、お母さんを知ってるの? 私迷子なの? どうやって帰ったらいいのか解らないの? ざひょうが、ここ、全然違って跳べないの! おかあさああん!」
周囲も憚らず、クレアは大号泣を始め、それを少女は大慌て&必死で宥める。
「ああ、泣かない、泣いてはダメなのじゃ。……そうそう。泣くのなら、あっちの家に行くのじゃ。そこにいけば、お兄様もいるからきっとなんとかしてくれるのじゃ」
「ぐすん。ほんとう?」
「本当なのじゃ。だから、ほれ、いっしょに行こう」
「うん、ありがとう」
躾が行き届いている子だな。と少女は思う。
そして、クレアの手のぬくもりを感じながら、彼女にとってはまだ、そんなに昔では無い話。
でも、もしかしたら、彼女の母親には随分と時間を経たかもしれない、昔のことを思い出していた。
「へえ~。マリカの娘かあ」
「お母さんのこと、知っているの? お兄ちゃん」
とある女錬金術師の館。
焼き立てのチョコレートホットケーキを寸度なく頬張り、やっと泣き止んだクレアを見て少年。アダマスと名乗った彼はうん、と頷いた。
「ずっと、以前ね。マリカ。君のお母さんかな? も子どもの頃、ここに迷い込んできたんだよ。同じようにシャルが見つけて拾ってきて。そしてここで君の食べているチョコレートホットケーキを焼いてくれた」
昔、というには彼らにはまだそれほど時間は経ていない。
半年からせいぜい一年というところ、だろうか?
でも、マリカ達にとってはかなりの時間が過ぎているのだろう。
やはり以前、迷い込んだ彼女の知人がもうすぐ結婚する、と教えてくれたことを思い出す。時空の歪みなどは良くあることだ。
ちなみに、彼、アダマスは嘘を見抜く読心術が使えるが、そんなものを使わなくてもこの娘がマリカの子であることは疑っていない。
髪の色以外は瓜二つ。大きく見開かれた瞳はまったく同じ紫水晶の色をしている。
疑う余地はない。
リオンも黒髪だった筈だけれど、隔世遺伝とかそんな感じなのかな? と思うくらいだ。
ただ、あの当時8歳か9歳にしては大人びていたマリカと違い、目の前の少女はごく普通に年相応に見えた。知らない土地で、知らない人間に出されたお菓子を遠慮なくパクつく姿は明らかに、貴族以上の生まれ育ちであろうに警戒心が無い。
よほど、周囲に愛され、護られているのだろう。自分が害されるという心配をまったくしていない姿に、マリカの子育てが成功していることを感じる。
と、同時に、この少女の内側に秘められている力にも気付く。
「クレア、だっけ? 君の名前?」
「あ、はい。そーです。ごめんなさい。ちゃんとご挨拶もしないで」
忘れてた、というようにカトラリーを置き、クレアは立ち上がり、優美なお辞儀をしてみた。
「アースガイア大神官マリカと、神官長リオンの娘。クレアティーナと申します。
この度は、助けてくれてありがとうございました」
「これはご丁寧に。僕はアダマス。君を助けたのはシャル。シャルロットだ。君のお母さんとお父さんの、その古い知り合いだね」
「マリカは、妾の妹なのじゃ!」
「へ? いもーと? おねえさん、ではなく?」
クレアが小首を傾げるのを見て、苦笑いするアダマス。クレアにとってマリカは「お母さん」であるはずだ。自分とそこまで変わらないシャルロットが妹、と呼ぶのに疑問符を浮かべても不思議はない。
「まあ、その辺は帰ってから話を聞くといいよ。長い話になるし。
まずはホットケーキを食べてしまうといい。
君をお母さんのところに返すことは、請け合うから安心して」
「ありがとうございます……。あ、言われてみればこのナイフとフォーク。お母さんとお父さんが大事にしてるのとそっくり」
椅子にパタンと座り直したクレアは、カトラリーを納得したように眇めた。
アダマスの頬に微笑が浮かぶ。どうやら、異邦の迷い人に渡した結婚祝いは、無事二人の元に届いたようだ。
「うーんとね、説明が難しいけれど、君の世界と、この世界は似ているようで、全く別の世界でね。時間の流れや法則が微妙に違うんだよ」
「あ~、だから、この世界には精霊がいなくって、私、何にもできなかったんだ……。力が無くなったわけじゃなかった?」
「多分ね。君の世界に帰ればちゃんと使えると思うから心配しないで。
ただ、何が起きるか解らないから、君の世界の法則をこの世界に広げようとはしないで欲しい。例えば『精霊』? を無理に呼び出そうとしたりとか」
「解りました。なんだか、エリチャンも調子悪そうだし。ちゃんとおうちに帰してくれるんですよね」
「それは間違いなく、約束する。もしかしたら、君の家族が迎えに来る方が先かもしれないけれど」
右手の薬指に嵌められた蒼い結晶石の指輪を見ながらクレアは頷く。
確かに自分が迷子になったのなら、お父さんもお母さんも助けに来てくれる。
迎えに来てくれる。
それについて、クレアはまったく、欠片も疑ってはいなかった。
「お母さん、お腹大きいから、来るとしたらお父さんかも……」
「へえ、マリカは二人目の子どもができておるのか?」
「三人目。私の下に、妹がいるから。次に生まれるのは弟。あと、五ケ月くらいって言ってた」
「三人目か、仲睦まじくて結構なことだ。リオンにもちゃんと告白してマリカを抱く甲斐性があったのも喜ばしい」
「……お兄さん、本当にお父さんとも知り合いだったんだ」
楽し気に含み笑うアダマスにクレアの警戒が徐々に解けて行く。
「まあ、色々とあってね。
そうだ。もしよければ、帰る手続きをする間。もしくは迎えが来るまでの間、向こうの世界の話を聞かせてくれないかい? 僕達、一度向こうに行ったこともあるんだよ。フェイは元気にしてる? リオンにベッタリかい?」
「フェイ伯父様は、大聖都とアルケディウスの奥さんとハルトの所を行ったり来たりしてるから。大聖都の事務仕事でとっても忙しい」
「へえ、彼のようなタイプは主に忠誠を誓って生涯独身とかかと思ってた」
「妾も興味があるのじゃ! 魔王城で、マリカと一緒にお風呂にも入ったのじゃぞ!」
「そうなんだ。大聖都のおうちのお風呂は小さいから、私もお城のお風呂好き!
あのね。お母さんと、フリュッスカイト薔薇石鹸で、洗いっこしたりするんだよ」
それから、クレアはチョコレートホットケーキを食べながら、アースガイアの話を色々してくれた。アダマス達には多分、要領がよく掴めない話もあっただろう。
だが敵に奪われたリオンをマリカは8年がかりで取り戻したという話に、心から安堵の笑みを浮かべた二人を、クレアは『間違いないお母さんの大事なヒト』と認識。
『地球』の文化復興が進んで、様々な技術が生まれているとか。子どもがたくさん生まれて、学校で誰でも学べるようになったとか。色々な話をしてくれた。
嬉しそうに。
アダマスとシャルロットの話術に乗せられた、というのもあるけれど、
「ほへ~。マリカもがんばっておるのじゃのお~」
特に、水雫よりも煌めく瞳で相槌をうってくれるシャルロットにもっと話を聞かせてあげたいと思ったのだ。
そして、どれくらいの時が経ったのか。
「!」
部屋の隅で空気が歪む音がした。音と言うか、気配と言うか。
「まさかとは、思ったが……、こんな所に」
「お父さん!」
椅子を蹴り飛ばし、カトラリーとお姫様教育を投げ捨てて、少女は駆け出していく。
迎えに来てくれた父親と
「クレア! 心配したのよ。でも、跳ばされたのが……ここで良かった」
母親の腕の中に。
迷子の娘を抱きしめた母親は、顔を真っすぐに上げると微笑する。
「お姉さま、アダマスさん。お久しぶりです」
「やあ、マリカ……」
「こうして、また会えて……本当に、嬉しく思います」
胸元から薫る薔薇の香りのような、爽やかで甘い笑顔と思いを向けて。