表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/41

012 メスブタファイルその2:昼間瞳子

 昼間瞳子(ひるまとうこ)

 我が富が丘高校における美少女四天王の一角を担う男子ウケ抜群の激カワメスブタ。

 そして、俺の初恋を一目惚れで奪った初恋メスブタでもある。


 背中の中ほどまですとんと落ちる艶やかな黒髪。その内側にはライトブルーのインナーカラーが入っており、髪を掻き上げた時、結んだ時、宵闇の蛍を思わせる鮮やかな青を放つ。その怪しげな蛍光色が、彼女の雰囲気を気取らず飾っているものだから、思わず視線を誘導され惹きつけられてしまうのだろう。

 小さな体に小さな顔。まだまだ幼さの残る顔立ちの中で、異様な存在感を放つ、くたびれた瞳。半月のように落ちる重そうな一重瞼が灰色の瞳を半分隠すものだから、彼女はいつもどんな時も、眠そうで、退屈そうで、世間様に胡乱げな目を向け続けているのだ。リングピアスが左に2連、右にひとつ。左にイヤーカフ、右にインダストリアルピアス。すべてのアクセが黒で統一されていて、身に纏う黒のセーラー服も真っ黒だ。ミニ丈のスカートから伸びる肉感のある締まった足、生える白の生肌、包む黒のニーソックス。残念だが、おぺぇはねぇ。

 墨染の髪。小柄な体。生意気そうな目。だるそうな雰囲気。黒のファッションアイテム。それらがすべてが合わさることで、より際立つインナーカラーのライトブルー。青い瞳を持つ黒猫のようなしなやかな魅力が、彼女には詰め込まれていた。


 四天王で一番モテる女。

 それが昼間瞳子への世論であり、客観的事実であった。

 小動物を思わせる小柄な体躯、野良猫を想起させる追いかけたくなる魅力。多くの青少年たちの心を射止めて、そのすべからくをなんの感慨もなくはたき落として逃げ去る、失恋収集家の名を冠する罪深きメスブタなのである。


 彼女と対面するにあたり、もっとも気になるのがその一人称だろう。「ぼく」という呼称は聞かぬわけではないけれど、広く一般的に使われているイメージはない。どちらかといえば異端だし、そこはかとなくイタい感じもする。だが本人の気質が、社会に迎合し丸くなるようなものではないため、幼少の頃からの「ぼく」という呼称を貫かせるに至っているのだろう。そもそも、彼女が自分のことを「ぼく」なんて男のように語るのは、男兄弟の中に育ったからだと調査にて判明した。ヤンチャと噂の兄弟らしく、彼らに負けることのないよう、舐められることのないように「おれ」と「わたし」の間をとって「ぼく」を選んだのだ。そんな環境が育んだのか、メスブタは黒猫のような愛らしい容姿に反して男っぽい言動を垣間見せる。


 短パンを履いているからといって普通に足を組む。乙女座りはせずにあぐらをかく。腹が立つと誰にでも中指を立てるし、気に食わないことがあれば下まぶたを指で下げ舌を出す。口調は荒っぽいし、手が出るのも早い。媚びることも可愛こぶることもせず、群れることを嫌い、その日の己が気分のままにブレずにまっすぐ自分を貫く。

 だからだろう。

 メスブタには友達がいなかった。


 元々男子からモテるということもあり、女子からの好感度は低い。

 それもまた、メスブタの孤立の原因であるのだろう。

 だけど、当の本人はまるでそんなこと気にしていない。一人で弁当を食っている時も日向ぼっこをする猫のような緩い態度なのでまるで悲壮感が感じられない。好きで孤立している。ぼくに構うな、とでも言わんばかりだ。


 体育でペアを組む時は、たいてい同じくぼっちの日暮奈留が相方を務めている。メスブタ二匹の柔軟は男子の目を惹きつけてやまないビックイベントだったりする。長座体前屈をする金髪メスブタの背中に小ぶりな尻を置いて面倒くさそうに負荷をかける黒メスブタ。その間に挟まることができるなら教職人生を捧げてもよいとは校長談である。さすがに腐っても教育者の長、願望を吐露するまでに留める節度は持ち合わせているようだが、この国の未来のためにもぜひ逮捕されてほしいところだ。


 世の中、例外というものは必ず存在するもので。

 誰にも懐かない気分屋の黒猫にも思わず尾を立て喉を鳴らしてしまう人物がいた。

 手塚悠馬である。

 仏頂面ばかりの彼女も、彼との会話中は匂やかな笑みに彩られる。親交を好まない素っ気ない態度も、彼との場合は例外のようでいつまでもその背に引っ付いて回る。マタタビにとろけた猫のように、手塚悠馬の前でだけ、昼間瞳子の鉄面皮は崩れ去るのだ。屈託のない彼女の笑顔を観れるのはその時だけである。そして、そのギャップにやられ告白に至る無関係な男子生徒が後を立たないのはご愛嬌である。


 さらなる深淵を覗くべく、メスブタの身辺調査に乗り出そうとしたのだが、メスブタそっくりの目をしたヤンキーたちに捕縛されそうになって以来、心臓のポンプ運動が止まることを知らぬ勢いになっちまったもんで調査を中断せざるを得なくなった。

 というわけで、メスブタファイルその2:昼間瞳子の情報は以上とする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ