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episode 02

「ただいま」


言ったところで誰もいないのに、習慣のように一人呟く。

無造作に鍵を置いて、リビングのソファに座ったらなんだか凄く眠くなってくる。


(あ、お風呂……入らなきゃ……でも、もう限界かも……)


そのまま私の瞳は閉じていき、着替えもしないままソファに

横たえて眠ってしまった。


(陽菜)

夢の中で誰かに呼ばれた気がして、ゆっくりと目を覚ますと目の前に真帆さんがいた。


(あれ……夢?)

少し寂しい気持ちになっていたから、きっと私がこんな夢を見るんだろうと思った。


「んっ……」


目が覚めると、外は真っ暗になっていた。


「あれ?私なんで?」


焦ってソファから起き上がろうとする身体を優しく包む腕。

「……っ!」


真帆さんの腕を枕にして眠っていた私の身体には、タオルケットがかけてあった。

(真帆さんが掛けてくれたんだ……)

とても安心する。

真帆さんに抱きついて顔を覗き込むと、「あっ」と思わず声が出てしまった。

真帆さんの目の下にはクマができていて、とても疲れているように見えた。

目の下のクマに優しく触れると、ゆっくりと目を開けて真帆さんは私の頭を優しく撫でた。その優しさが嬉しくて、思わず強く抱きついてしまった。


「真帆さん……」

「おはよう」


真帆さんはそう言ってほほ笑んだ。


「お、おはようございます」


私がそう言うと、真帆さんはゆったりとした手つきで抱きしめてくれる。それが気持ちよくて、思わず目を細めてしまった。


「いつ……帰ってきたんですか? あと、私のこと起こしてくれてもいいのに!」


少し怒ってそう言うと、真帆さんは少し申し訳なさそうな顔をして言った。


「ごめんね。仕事が終わらなくて……」

「……そう、ですか」

「ねえ、陽菜」


私を呼ぶ声に誘われるように顔を上げると優しい瞳と目があってしまった。その途端に鼓動が早くなるのを感じて下を向く。

「陽菜、顔見せて?」

「……っ」


ゆっくりと顔を上げると真帆さんが私を抱きしめた。そして、そのまま背中を撫でられる。


「あの……私、えっと……その……」


そう言うと、真帆さんの手が止まった。

うまく感情を言葉に出来なくて、真帆さんの顔を見ては俯き、また見ては俯きを繰り返してしまう。

言いたいことはたくさんあるのだ。

寂しい、もっと一緒にいたい、他の子と私より仲良くしないで欲しい……たくさんあるのに、いざとなると言葉に出来なくて、もどかしくて涙がこぼれてくる。


「陽菜、泣かないで?」

「……っ」


私は泣きながら首を横に振る。

すると、困った顔で私を見る真帆さん。だけどすぐに優しい顔になって……優しく抱きしめてくれる。


「寂しかったんでしょ?ごめんね……」


その言葉に首を何度も縦に振る。そして、そんな私を真帆さんはさらに強く抱きしめてくれたのだった。


「陽菜。寂しかった?ごめん、最近構ってあげられなくて……でも、もう大丈夫!今日で仕事は一区切りついたのよ」

「えっ?」


その言葉に思わず顔を上げると久しぶりに見る真帆さんの満面の笑みが飛び込んできて、私は固まってしまった。


その隙に私のまぶたにキスをしてから、真帆さんは嬉しそうに私に言った。


「明日は休みになったし……たくさん、一緒に過ごしましょう」


そう言ってにっこり笑う真帆さんに私は嬉しくてつい抱きついてしまった。私を優しく抱きしめたまま、真帆さんは続ける。


「私も陽菜との時間を作りたくてズルしちゃった」

「え……?」

「後輩に仕事頼んでたの。陽菜と過ごしたいのは私も一緒だったの。早く終わらせたくて」


真帆さんはそう言って私の頭を優しく撫でる。


「……それで、後輩とたくさん一緒にいたんですか?」

「え?そうよ」


あっさりと肯定されて私は少し落ち込んでしまう。

私が嫉妬したあの時間は何だったのだろうか。

(真帆さんは知らないから仕方ないけど……)

なんだか釈然としない。

そんな私の表情を見て察した真帆さんは「もう」と言って、私の頬をつねった。


「いたっ」


思わず声をあげると、真帆さんが笑う。


「陽菜ったら、もしかして……ヤキモチ妬いてたの?」

「うっ……」


直球で言われて私は顔を赤くする。そして、小さく頷く私を見て、真帆さんは意地悪な笑みを浮かべていた。その顔に少し腹がたって、勢いで言葉が出てしまう。


「ヤキモチ、ダメなんですか?嫉妬します。私はあんなに側にいられないんですから」

私の言葉に怒るどころか、凄く嬉しそうに笑って私をきつく抱きしめてくる真帆さん。


「陽菜、可愛い」

「わ、私は真剣にっ!」


私がそう言うと真帆さんの顔が近づいてきて、私の唇と重なる。

そして、ゆっくりと唇を離してから、私を見つめて言った。


「……ごめんね」

「……はい」

「じゃあ、仲直りのちゅーしてもいい?」

「今、したじゃないですか」

「もっとしたいの。ダメ?」

「もう……仕方ないですね」


ゆっくり目を瞑る。すると唇に再び柔らかい感触がして、ゆっくりと離れていった。


「ふふ……ちゅーしちゃった……」


真帆さんが私の頬を優しく撫でてほほ笑む。

そんな姿を見ていると、さっきまでのヤキモチや寂しさなんてどこかに吹き飛んでしまった。


「ねえ、陽菜……今日はもう遅いから早く寝ましょう。明日のお休みはずっと一緒に過ごして離さないから……」

「う、うん」


真帆さんの言葉に私は頷く。そして、二人でベッドに入る。私の頬や首筋を優しく撫でる手が幸せでくすぐったい。


「おやすみなさい……ま、ほさ……ん」

「うん。おやすみ、陽菜」


私は真帆さんの腕の中でゆっくりと眠りについたのだった。



■■■



翌朝、目が覚めると、目の前には真帆さんの顔がキスできそうなくらいの距離にあった。


「っ!」


驚いて思わず飛び起きると「あ……」という声とともに、「おはよう」と真帆さんの声。

私はまだ寝ぼけた頭で「おはようございます……」と言ってから、ゆっくりと目を擦った。

(あれ、真帆さん……エプロンしてる?)

初めて見る姿に私は驚いた。

いつも真帆さんは朝が弱くて、私より早く起きることなんてない。


「あの……エプロン……」


そう尋ねると、くすりと笑った。


「朝ご飯、作ったのよ」

「えっ」


驚いた。だって、朝の真帆さんはいつもコーヒーだけしか飲まないから。

私は嬉しくて思わず顔がほころぶのを必死に我慢する。そんな私を見て、嬉しそうに微笑む真帆さん。そして、私の頭を優しく撫でて言った。


「陽菜が好きなフレンチトーストにしたわ」

「あ、ありがとうございます……」

「さ、起きて。一緒に食べましょう?」

「はい」


私は嬉しい気持ちを抑えてゆっくり起き上がり、そのまま二人で洗面台に向かったのだ。

大好きな恋人の背中が近くにあることが幸せで、私は思わず名前を呼んでしまった。

真帆さんは振り向いて、ほんわりとほほ笑んだ。


「なあに?」

「あのう、私……真帆さんが好きです」


そう言って抱きしめると、真帆さんは「私も」と返してくれた。そうして、しばらく真帆さんに抱きついてじゃれあう。そして、二人で手をつないでリビングに向かった。


「今日は手をずっと繋いでいましょうか」


そう真帆さんに言われて、私は嬉しくて頬が緩んだ。

嬉しくて握った手をふにふにと握り返すと、真帆さんは私に顔を近づけてくるから、目をぎゅっと閉じた。


唇が触れるくらいの距離に真帆さんを感じる。

でも、触れ合うはずの唇に熱がいっこうに落ちてこない。

(あれ……?)


不思議に思い、目をゆっくりと開くと、目の前には意地悪そうに笑う真帆さんの顔があった。


(なんでっ……!)


そんな私の顔を見て、さらに楽しげに笑ってから静かに私の唇を塞いでくるキスはとても甘く、幸せの香りがした……。

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