【098話】フレア・ペトラ編その9
「端的に言ってしまうと、魔法は現象として捉えられる場合が多く、またスキルはより内面的な現象として発生することが一般的で、視覚的に捉えることが難しいという特徴をもっています」
「ええと、……よくわかりません」
「単純に言い換えるならば、魔法は目に見え、スキルは見えない場合が多いということです。厳密に言えば異なりますが、その程度の認識で構いません」
「見えるか見えないかってことか。でもスキルも色々種類があんだろ。パッシブとかなんとかって」
「スキルは基本的に《アクティブスキル》と《パッシブスキル》の二種類に分けられます。アクティブスキルは自らの意志で発動されるもので、反対にパッシブスキルは使用意志に関わらず常時使用状態にあるものを指します」
「へ~。あ、そういやスキルって魔力使うのか?」
「基本的に必要ありません。ただ意図的に魔法と組み合わせて使うことができるスキルもございますので、増幅効果を狙い、魔力を込める場合もございます」
フレアとペトラがこれまでの経験を思い浮かべながら「なるほど」と呟いた。
単純にスキルや魔法と言っても組み合わせ次第で無限の可能性があるんだなと、二人が初めてイメージした瞬間だった。
「なぁなぁ、だったらさ、スキルはどうやって覚えるんだ。せっかく少し魔法が使えるようになったんだから、スキルも使えるようになりてぇじゃん?!」
しかしマママは首を横に振った。
「スキルに関しましては、大まかな方法論は確立されているものの、個人の資質や性格、能力や生活する環境により、取得できるものとそうでないものがございます。ごく初歩的なものとして凝視というスキルがございますが、これも取得自体は簡単なものの、高レベルなものへと進化させようと思うと決してそうではありません」
「バカウィルが使ってたやつか。……あれ、実は結構凄かったのか。色々奥がふけぇんだな」
そこまで聞き、フレアはいよいよ本題に話を振った。
「それで、私がこの瓶を開けるために必要な魔法は……?」
「特にこれといったものが必要なわけではありません。単純に魔力を瓶のフタに流すことさえできれば、自ずと結果は見えてくるでしょう」
「へ~」と言いながら、ペトラがフレアより先に瓶のフタに魔力を集中し回そうと試みた。しかしマママと同じように火花が走り、ペトラは思わず仰け反って顔をしかめた。
「ちょ、ちょっとペトラちゃん、今のどうやったの?!」
「どうって……、指に溜めた魔力を瓶に当てるイメージっつーか。正直俺も覚えたばっかで人に教えられるもんじゃないって言うか」
「ズルいよペトラちゃんばっかり、私にも教えてよ!」
しかしそれは無理とペトラがマママの背後に隠れた。
仕方ないですねとフレアの背中側に回り込んだマママは、背後からそっとフレアの両手を握った。
「魔法を覚える方法は色々ございますが、私が指導する場合の始まりとしましては、まず魔力の流れを感じるのが一番だと思っています。手始めに、私がフレア殿の身体を使い、火弾を使ってみせます。まずは一連の流れを感じてみてください」
フレアの背中に触れたマママの胸が熱くなり、エネルギーが高まっていく。熱はフレアの手に触れたマママの指先に流れるように進み、思わず両目を見開いたフレアは、あまりの違和感に声を漏らした。
今度はフレアの指先から滑るように溢れ出たエネルギーが小さな火の玉となって空中に浮き上がり、微かな光を放った。その光景があまりにも綺羅びやかで、フレアは目の前に浮かぶまばゆさのほか、何も考えられないほどの感動に包まれ、言葉を失った。
「これが魔力の根幹であり、魔法を生み出す力です。己の心の臓から発生させたエネルギーを熱に変え、またそれを魔力という力に落とし込む。そして最後は、自らが望む魔法という形に昇華させ出力する。至極単純な魔法の原理です。魔力自体は生きとし生けるもの全てが持っていますし、どれだけ小さな生き物でも必ずコントロールできます。もちろんフレア殿も例外ではありません。まずはイメージし続けてみてください」
フレアからそっと手を離したマママは、一歩二歩とそのまま後退した。
指先に炎を宿したまま魔力をコントロールしたフレアは、自ら生み出した力を指先から注ぎ込むように、イメージし目を瞑った。
「おいおい、嘘だろ。一発で成功ってマジかよ。俺なんてそこまで行くのに三日もかかったのに……」
静かに集中力を高めたフレアは、炎の玉を高く掲げ、そっと風船のように解き放った。
小さな太陽のように浮き上がった光は、蛍のような一瞬の輝きを放ってから、フッと吹いたように消えてなくなった。
「お見事です。まさか私も一度でそこまでコントロールできるとは思いもしませんでした。それにしても、フレア殿の魔力は本当に穏やかで美しいですね。私も貴女のように、常に優雅で気品のある力の流れを描いていたいものです」
マママの言葉も早々に自分の手のひらを見つめたフレアは、目の前で起こったことが本当のことではないように感じて、しばし呆然としていた。
しかし先に痺れを切らしたペトラが「すげぇなおい!」と首にしがみつき、穏やかな余韻の時間は過ぎていくのだった。