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【097話】フレア・ペトラ編その8


「はぁ?」とペトラがまた口を挟んだ。

 しかしマママは、話は以上ですと一つ頷き、その場を立ち去ろうとした。ペトラは黙っていられず、すぐに思い切り身体を開いて進路を塞いだ。


「ちょっと待った。フレアなら開けられるって、無責任なこと簡単に言ってくれるなよ」

「ですが事実です。フレア殿ならば、瓶を開けられます」

「それは聞いた! だからそいつをどうやるか聞いてんだろ」

「簡単です。フレア殿が瓶にかけられた術式と同じ波長で魔力を加えてやればよいだけです。まだ説明が必要で?」


「まだって……」と言いかけたところで、今度はフレアが会話に割って入った。


「でも私、魔法なんか使えません。なのに波長とか魔力とか言われても、どうすることも」

「それは依頼とは関係のないことです。私が手を下すことができぬ以上、依頼を遂行することは不可能。よって今回の依頼は不成立です」

「だったら、私に魔法の使い方……、いえ、瓶の開け方を教えていただけませんか。お金は依頼達成で全部お支払いします。それでもダメですか?」


 数秒考えたマママは、「明日(あす)一日ならば」と端的に返事をした。


「でしたら明日(みょうにち)、街の西にある森へきてください。詳しくはまたそちらで――」



 たったそれだけ伝え、マママは道を塞ぐペトラのことなど無関係に、風と共に姿を消してしまった。

 逃げられたと(いきどお)るペトラが地団駄を踏む中、またのっそりと現れた店主は、二人の視線を自分に向けてから、テーブル奥を指さしペトラに手を差し出した。

 テーブルの奥には、二人の知らないカップと皿が置かれていた。


「な、なんだよ?」

「お連れ様の代金。クク湯とパンのお代をいただいていないので」


「アイツ、食い逃げかよ!」とペトラが叫んだ。

 そうして何も進展しないまま、夜はただ更けていった――



    ◆◆◆◆◆



 ―― 翌日


 二人はただただ苛立っていた。

 言われるがまま森を訪れたは良いものの、森の低ランクモンスターに襲われるわ、待っても待ってもマママが現れないわと、意味なく時間だけが経過していた。


 マママは一向に姿を現さず、そんなことをしている内に陽は落ち、ついに夜になってしまった。


「あっのクソ野郎、俺たちが子供だと思ってバカにしやがって。どこにもいねぇじゃねぇか、やっぱ騙されたんだよ俺たち!」


 怒りのままペトラが近くの木の幹を叩くと、ガサガサと上で音が鳴った。

 なんだと見上げたのもつかの間、何かがドンとペトラに落下した。


「よくここにいるのがわかりましたね」


 転んだペトラの上で正座していたのは、昨晩パブで約束したマママだった。

「な~にがわかりましたね、だ!」と背中のマママを押しのけたペトラは、ビシッと指さして言った。


「この食い逃げ女、テメェのおかげで、どれだけ時間を無駄にしたと思ってんだ。今は一分一秒が惜しいんだよ!」

「そ、それは申し訳ないことをしました。ですが私は身を隠している身分故、夜の行動が基本となります。よって陽が高い内は行動を制限しております」


「テメェの身の上知らねぇから!」とツッコミを入れたところで、「ウォッホン!」とフレアが大きめの咳払いを入れた。

 ただでさえ時間がないのに、これ以上無駄な時間を使っている暇はない。フレアは前置きを省き、いよいよ本題に踏み込んだ。


「それで、私は何から始めればよろしいのですか?」

「もちろん魔法を使えばよろしいですよ。どうぞ、何か使ってみてください」

「え? いや、ですからどう……」

「人それぞれ潜在的に流れている力を魔力へと変換し、体内で魔法という媒体に変え放出する。たったそれだけのことです」

「いや、ですから、それをどうやるか教えてください!」


 こうしてフレアとマママの噛み合わない会話を眺めていたペトラは、ある時、ズズーンと頭に衝撃が走った。そして気付いてしまった。これまでどこか感じていた衝撃的な事実に――



「ですから、私がこれからすべきことを、順を追って教えてください!」

「ですから、思うままにドンと、ドスンと力を開放してしまえば良いのです。ドンッと!」


 進まない会話を続ける二人の間にゆっくりと身体を押し込んだペトラは、なるほどねと一人頷き腕を組む。

 訝しげにペトラを見る二人をそれぞれ確認してから、改めてマママの顔を下から覗き込んだペトラは、マママの鼻先をこれでもかと押し込みながら宣言するのだった――



『 ()()()()()だ……。間違いねぇ、コイツはウチにいる誰かさんと同じ、()()()()()()()()に分類される変わりもんだ! 』



 一瞬の空白の後、フレアの顔がハッとなった。

 そして怯えたようにワナワナと顔を震わせ、これと似たような光景を幾度となく目撃した過去の自分を思い描いた。



「始めからおかしいと思ったんだ。ちゃんとしたギルドの紹介だってのに、名前は()()()。待ち合わせ場所は裏の裏の()()()()()で、しかもなぜか席の隅っこで姿を隠してた上、コソコソ隠れてる身分の癖に()()()()()()()()()()。せめて黒を着ろよ黒。しかもよく見りゃ()()()()()()()()()()だし、天然で()()()()する始末だし。今日だって誰にも伝えてねぇ自分ルールで遅刻するわ、なんなら待ち合わせ場所も森っておかしいだろ。森のどこだよ?! 散々歩き回された挙げ句、木殴って落ちてくるってどんな珍プレーだ!」


 未だ言い足りないペトラが肩で呼吸する中、当のマママは何を言われているのかさっぱり検討もつかないようだった。


「いいかフレア、コイツにはまともに話しても通じやしねぇ。()()と話す時みたいに、懇切丁寧に、一から十まで説明しねぇと自分ルールの闇に引きずり込まれるぞ。そもそもおかしいと思ったんだ、あんな無茶で無謀な依頼に即座に反応してくるなんて、そもそもからして変人に決まってんだよ!」


「それはそれで依頼出した私に失礼じゃない?」と据わった目でスンとしたフレアは、心の切り替えに大きく深呼吸をしてから、いつもミアにするように言葉を省かず、一つひとつマママに質問した。

 すると意外なほど親切丁寧に返答したマママは、「なるほど、そんなことならもっと早く言えばいいのに」と天然特有の相槌をみせた。


「ならば最初から参りましょう。良いですか、魔法というものは、誰しもが持っているエネルギーの流れを具現化し排出したものを表します。ですから、ひとくくりに魔法と言っても、人それぞれ特色もあれば、同じ名の魔法であっても、それぞれ違う性質を持っていたりします」

「必ずしも、同じじゃない……?」

「そうです。たとえば同じ水吹(ウォーター)を使ったとしても、修練度やその者のレベルに応じて威力や性質が違うのはイメージできますね?」

「なんとなくは……」

「もう少し踏み込んだ話をしますと、水の味が違ったり、粘度が違ったり、色が違ったりということもありえます。要はそれが個性の違い、とも言えるのでしょう」

「へ~、同じ魔法っつっても色々あんだな。あ、ならついでに俺も聞いていいか?」


 ペトラが横から口を挟み、人さし指を立てながら質問した。


「よく《スキル》だの《魔法》だの言ってるけどさ、厳密にどんな違いが違いがあんだ?」


 ペトラの質問に軽く頷いたマママは、落ちていた枝を手に取り地面に絵を描いた。


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