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【094話】フレア・ペトラ編その5


   ◆◆◆◆◆


 リールの街を離れたフレアとペトラは、やはり一番人口の多い街に行くしかないと決心し、今や近隣最大の都市となったロベックを訪れていた。


 ゼピアの受け皿として急速な発展をみせるロベックの街は、近郊するダンジョンやギルドへ渡る中間地として人が溢れかえり、元からロベックを拠点としていた者たちと新参者の権力争いも度々起きており、いよいよ都市としての過渡期を迎えていた。


 そんなこととはつゆ知らず、街に入るなり魔法商の店を訪ねた二人は、マリザイの街でゴルドフに投げつけられた酒瓶を店主に確認させていた。


「こいつは珍しい品だね。四世紀ほど前のリーゲル製の水筒だ。しかし残念なことに、口の部分だけが別のものに付け替えられているね。よって骨董品としては無価値だが、中に入っているものによっちゃあ別の価値も生まれるよ」

「じゃなくて、おっさんにそのフタが開けられんのかって聞いてんだ。俺たちは、フタが開けたいだけなの、フタが!」

「さぁどうだろうね。そもそも売る気がない客の商品を、なんで私がわざわざ苦労して開けてやらなきゃならんのだい。それともなにか、他に金目のものでもあると?」


 ペトラが目配せするが、残念ながら余分な持ち合わせがないフレアは横に首を振った。


「うぐぐ、だ、だったらこの瓶だ。用が全部済んだら、コイツをくれてやる。な、頼むよ、一生のお願い!」

「だ~から、コイツは無価値の二束三文って言ったろ。金がねぇんなら帰んな、シッシッ」


「どーせテメェには開けられねぇよ」と悪態をつきながらぺっぺっと唾を吐くペトラの手を引っ張り店を出たフレアは、これからどうしようねと項垂れた。

 様々な者たちにフタの開け方を聞いて回ったものの、やはり為す術もなく、堂々巡りが続いていた。可能性の幅は次第に狭くなり、二人に取れる行動もいよいよ少なくなっていた。


「腹立つぜ、どいつもこいつも俺たちがガキだと思ってまともに話すら聞いてくれねぇ。なぁフレア、どうするよ?」


 う~んと悩む素振りをみせながら、フレアは前方の建物を指さした。


「やっぱり、もうあそこしかないと思うんだ。良くも悪くも、一番人が集まってるのはあそこだから」


 指さす先にあったのは、今や地域最大規模となったロベックの中央ギルド本部だった。

 大幅に敷地面積を増やし、増設した急ごしらえなテントが並ぶ中、それでも捌ききれず溢れた人々の列を眺め、ペトラは眉をひそめ苦い顔をする。


「でもよぉ、他でも全部門前払いだったじゃん。しかもここ、地域最大のギルドだぜ。どーせまた厄介払いされて終わりに決まってるよ」

「だけど避けて通るわけにはいかないよ。……それに、私だってこのまま大人しく終わるつもりないもん」


 何やら含みをもたせギルド本部の重厚な扉を開けたフレアは、むせ返るような人の波をかき分け、中でも最も人の少ない場所を探して歩き回った。

 フロアの端に不思議と人の少ない一角を発見し、二人は慣れた様子で一直線にそこへ移動すると、暇そうにしていたギルドの担当者に話しかけた。


「あの、少しお話を聞いていただきたいのですが」

「ん、あ、……はい? ああ、迷子か。いなくなったのはお父さん? それともお母さん?」

「俺たちが迷子に見えるかよ。なぁおっさん、ちょっと話聞いてもいいか?」


 しかし口を挟んだペトラの言葉も聞かず、担当者は「はいはい、冷やかしなら帰ってよ坊っちゃんと嬢ちゃん」と眠そうに言った。


「だーかーら、話を聞いてくれって言ってんの!」


 窓口に置かれている案内板を担当者がコツコツと指先で弾いた。


「ここ、()()()()()()()()()()()()()()なのね。子供の恋愛相談所じゃないの。さぁさぁ、わかったら帰った帰った!」


 わざわざ立ち上がり二人の背中を押した担当者は、わりかしにこやかに手を振った。

 しかし「やっぱダメじゃん」と諦め半分のペトラに対し、少しだけ自分の足先を見つめて何かを決心したフレアは、「まだよ」と呟き、再び窓口の椅子に腰掛けた。


「……まだ何か?」

「こちらでは、私の()()()に答えてくれる人も募集してもらえるんですよね?」

「え、相談って、お嬢ちゃんの? ないない、ここは冒険者を求める真面目な大人が集まる場所なの。お嬢ちゃんの相談は、街の総合案内にでも行ってみな。話くらい誰か聞いてくれるかもよ」


 まだバカにされていると鋭い目をしたフレアは、持参した荷物の中から自らがADアトラクションダンジョンの管理者であることを示す書類を提出し、「これでもまだダメですか?」と聞き直した。


「これは……? ええとなになに、登録番号……、ゼピアのAD。登録者は10歳の…………、え、これ、キミ?」

「そうです。それで、話は聞いてもらえますか、聞いてもらえませんか?」


 偽造じゃないよなと一頻り書類を確認し終えた担当の男は、記された人物と目の前の子供とを比べてから、少しだけバツの悪そうな顔をしてコホンと座り直した。


「……まぁ、……確かに。で、フレアさん。今回はどのようなご用件で?」


 やったぜとペトラが前のめりに身を乗り出したところで、いよいよ腹を決めたフレアが話を切り出した。


「実は急ぎで魔道具を扱える方をさがしています。募集期間は今日の午後、お金は即金でお支払いします!」


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