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【202話】即席AD


 声の主はずっと黙っていたフレアだった。

 彼女は恐ろしく不貞腐れた顔で言葉を付け足した。


「この国の当主が誰か、覚えていますか。ここはあの()()()()が治めている国ですよ。……護りにお金を使うなんてあり得ません」


「は、はは、手厳しい意見だな。確かに俺もそこは懸念してるよ。ただ、さすがにそこまで愚かではない、はず……」


 本部ギルドの屋根に着地した四人は、そこから改めて眼下の様子を見下ろした。


 各所で発生した爆発に端を発し、激しく人が行き来する様は正にパニックと呼ぶに相応しく、とても統制のとれた動きには見えず、呆れたようにフレアは天を仰いだ。


「"守るより攻めろ、ガンジラって男はそういう人物だ"って、今回の話をもってきた()()()()が言っていました。お金がなにより大好きで、人よりもまずお金を優先するタイプで、真っ先に突っ走ってから考えるタイプだとも。そんな人が、大人しく自分の国でジッとしていられると思いますか?」


 目の前の現実を突き付けられ、かつ子供二人に自分の読みの甘さを指摘されてしまう始末に、マティスは頭を掻くほかなかった。しかし既に頭を切り替えてペトラに目で合図したフレアは、即座に二人で両手を繋ぎ合い、大きな円を形作ると、そこに魔力をためて覚えたばかりの炎と氷の魔法を応用し、空中に簡単な花火を打ち上げた。


 頭上で鳴ったボンッという音に、行き来する民衆の動きが止まり、視線が一斉にギルドの上へと集まった。すると皆の目線は四人が並んだ中で最も背の高いマティスへと集まり、何事だと足を止めて注目した。


「はいはい、ではマティスさん、まずは皆さんを落ち着かせてください。戦える人は建物の外に並んでいただいて、そうでない方々はギルドの中へ避難させてください」


 冷静かつ淡々とした口調でフレアが促した。

「うわ、マジすげぇ」と、どこからか拝借したアイスを食べながら硬直したミントは、あまりに場馴れした子供二人の様子に度肝を抜かれていた。


「あ、ああ、わかった。お、おい、みんな聞こえるか、俺の言葉を聞いてくれ!」



――――――

――――

――


 統べるもののなかったギルド周辺は瞬く間に落ち着きを取り戻した。


 ようやく横並びになった冒険者たちが敵の襲来を見越して身構えるが、不自然なほど動きのない街は、先の爆発を忘れたように静まり返っていた。


 何かの間違いだったんじゃないかと人々が口々に噂を始めるが、屋根の上で遠く一点を見つめていたペトラは、誰よりも早く異変を嗅ぎとった。


「おっさん、北東の方向、あっちから何かくる」


「何かってなんだよ。俺には何も見えんが」


「あんたら遠距離のスナイプ使えないのかよ。しゃーねぇ、だったらこいつで」


 ペトラは亀狩りの時にちゃっかり拝借した魔力確認用の魔道具を覗き、目を凝らした。


 ぼんやり透けて見えてきた遠くの風景に、少しずつ光沢を帯びた何かが映り混み、ペトラは裸眼と魔道具とを交互に見比べながら相手の姿を探った。そして数秒後、片目で覗き混んだレンズの中に、はっきりとその対象が映し出された。


「なんだあれ……、やべぇ、おい誰でもいい、一瞬で壁を作れる奴とかいないのか!」


 自分が子供であるという体裁すら忘れ、ペトラは額に冷や汗を溜めて叫んでいた。


 屋根の上で騒いでいる子供の様子に注目は集まるが、当然名乗り出る者はなく、なんだというんだとマティスはペトラの指先から魔道具を拝借して覗き込んだ。


「そんなに焦っていったい何が、……っておい、マジかこれ」


 顔色が急激に曇り、嫌な予感を感じ取ったミントは「聞こえない聞こえない」と耳をパタパタしながら現実逃避を繰り返した。彼らの視線の先には、パナパ方向から迫りくる多数のモンスターの姿が、ゆらゆらとその巨体を揺らしていたのだった。


「敵さん、どうやら相当本気みたいですね」


 ペトラと同じくイチルの魔道具で北東方向を眺めていたフレアは、確認を終えた流れのまま、周囲の地形と建物の有無、そして冒険者の数と守るべき街の人々の数を目算し、頭の中でそろばんを叩いていた。そして最善の方法へと導くべく、不器用にミントの背中に飛び乗った。


「ペトラちゃんはマティスさんと、私はミントさんと街を守ります。ペトラちゃんは土属性の魔法が使える冒険者さんを集めて北東(あっち)の方向へ。マティスさんはペトラちゃんの言うことを聞いて、必要なバリケードを準備してください。私たちはその間に、ギルドの守りを固めます!」


 言い終わる前に阿吽の呼吸でマティスの肩に飛び乗っていたペトラは、「おっさん、フレアの言うとおり行くぜ」と叫んだ。


 エターナルダンジョンの内部を経験し、それなりの力も持っている自分とミントを差し置いて、圧倒的思考力で迷う間もなく自らを先導する二人の行動力を初めて肌で体感し、マティスは背中に冷たいものを感じながら、「イチルの奴め」と苦笑いを浮かべた。


 確かに戦闘能力は圧倒的に足りていない。

 しかしそれを補って余りある行動力と判断力、そして一瞬で現状を読み取る決断力は、高ランクの冒険者すらゆうに凌いでいる。


 話に聞くだけでは伝わらない異常すぎる子供たちの能力を目の当たりにして、大人二人だけが遅れを取るわけにいかなかった。切れ長の眼をさらに細め、腹の底から響くような声で冒険者に呼び掛けたマティスは、圧倒的な存在感をみせつけ、冒険者を先導した。


「それで、わたくしめは何をしたらいいのでしょうか、隊長!」


 マティスを先頭に、一斉に動き出した冒険者たちを見下ろしながら、ミントがフレアに尋ねた。


 いつしか隊長に就任したフレアは、北東方向に見えている特徴的な背の高い建物三ヶ所を指さしながら、残っている冒険者の頭数を確認しながら言った。


「ペトラちゃんが時間を稼いでいる間に、まずは相手を欺きます。人だって、モンスターだって、相手を攻撃しようとするときは、まずわかりやすい目標を決めます。よっぽどわかりやすい相手がいない場合は、背の高い建物や、人が沢山いそうな大きな建物を狙って進みます」


「なるほど、確かに一理ありますね」


ギルド本部(ここ)を絶対守らなきゃいけない一番大事な場所だとすると、まずはここへ来るまでの途中にある、あの三ヶ所が敵の狙い目になります。でもそれがわかっていれば、手の打ちようもあるってものです」


「手の打ちようですか。実際何をするんですか、隊長?」


「ミントさんは私の職業をご存じですか?」


「しょ、職業、ですか、職業、……(子供?)」


「忘れていただいては困りますよ」


 フレアはミントの背中によじ登り、肩車される形で堂々と胸を張りながら言った。


「私は世界一のADを造り出す、最強最悪の"だんじょんくりえいたー"です」


「だ、ダンジョンクリエイター、ですか……。でもそれ、何か関係あるんでしょうか?」


「当たり前です!」


 ヒューと吹き荒ぶ風を全身に浴びながら、

 フレアの顔が悪どいデビルのような表情へと変貌し、くっくっくと微笑んだ。


「た、隊長……?」


()()()()()、です」


「だ、ダンジョン?」


「これからこの街を、即席のADに作り替えます! ふふふ、腕がなりますなぁ、ふふふ」



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