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【180話】排除くん


 少しだけ眉をひそめたモルドフは、ゴルドフを一瞥してから頭をボリボリと掻いた。そして気にするなと言わんばかりに肩を叩いた。


「ありゃあ手癖の悪い兄ぃの仕業だな。いつものアレ、か?」


 一瞬の間が開いてから、ゴルドフは「ああ」と返事をした。


「アレってなんすか、それにここって前に親方が話してくれた、昔々街の地下に作った工房なんすよね。そんな地下深くまで響いてくる衝撃ってなんなんすか!?」


「そ~らアレよ。……対魔物用排除魔道具、『排除くん』だな」


「なんすかそれ、そんな軽い名前。それにしちゃ凄い音でしたよ!?」


「いちいちうるせぇ。んなこと気にする前に、さっさと処理が終わったパーツを本体にセットしろ。ダラダラ準備やってる時間はねぇ!」


 チャマルの尻を叩いたモルドフは、小さく加工した金属片を担がせてから、「急げ!」と一喝した。音の正体も知れぬまま、後ろ髪を引かれたまま指示に従うしかないチャマルは、半べそをかきながら設置した器具と工房とを何度も往復した。


「しかし、兄ぃ。こいつぁ少々想定外、……なんじゃねぇのか?」


 身動き一つしない兄の半歩後ろでモルドフが呟く。

 無表情のまま遠くを見据えて腕組みしたゴルドフは、小さく舌打ちしてから、袖に積まれていた道具の中からガサゴソと何かを探し始めた。そして拳大の箱を見つけ出し、忙しく走り回っていたチャマルへとトスした。


「すまねぇが、あとの準備は俺がやっとく。ねぇちゃんは、そいつを持って今すぐ東門へ行ってきてくんねぇか」


「え? なんすか、突然に」


「な~に、ちぃと街の様子を見てきてほしいと思ってな。たまには外の様子も確認しとかねぇと、時代に置いていかれっちまうからよ」


 わざとらしくトントンと腰を叩いたゴルドフは、通信用の魔道具をチャマルに握らせ、「頼んだ」と素っ気なく言った。親方であるモルドフの様子を視線だけで窺ったチャマルは、どうやら外へ出ることを許可した主人の姿に慌てながら、工房の出口を飛び出した。


「……で、兄ぃ。()()が作動する条件ってのは、どの程度なんだ?」


「最低でB。……いや、Aか」


「Aね。それはまぁ、アレだな」


「アレ、……だな」


 二人の話を少し離れた場所で聞いていたミアは、それでもあごをクッと引いたまま、体育座りを続けていた――



  ★ ★ ★ ★



「気にするなとか、見てこいとか、親方も親っさんも、何がなんだかわけわかんない。一体なんなんだよ、もう!」


 地上へ繋がる梯子を上りながらぶつぶつ文句を言うチャマルは、えっほえっほとリズムよく確実に体を持ち上げた。しかし地上へ近づくにつれ、小刻みに感じ始めた振動が指先に伝わり、チャマルは地上へ顔を出す直前のところで動きを止めてしまった。



「……や、やっぱ何か変っすよ。さっきから遠くで、ズーン、ズーンて地響きしてる」


 様子を探るようにそっと顔を出したところで、また耳をつんざくほどの爆発音が鳴った。

 思わず地下へ顔を埋めて制止したチャマルは、「なんなんすか」と怯え、今度は少し慌てながら這い出した。


「親方は何もないって言ったけど、親方がないって言うときは、絶対あることくらい知ってるよさ。……いつものことだけどさ、恐いものは恐いんだよ、私だって」


 再びの地響きに、チャマルは床に這いつくばってうずくまった。

 部屋に散らばっていた藁が顔に刺さって思わず顔をしかめたが、ブルブルと首を振りながら、落ちている藁をこれでもかと掴み肩に担いだ。


「でも女は度胸っす、いちいちビクついてても始まんないっす!」


 小屋を飛び出してキョロキョロ辺りを窺ったチャマルは、意を決して東門へ向かって走った。

 するとどこに隠れていたんだというほどの住人が、東門方向から走ってくるではないか。

 慌てたチャマルはすぐ建物の陰に隠れ、集団が通りすぎるのをやり過ごした。


「な、何が起こってるんすか。絶対大丈夫って言ったじゃないっすか。どこが安心なんすか?!」


 泣きべそをかきながら飛び出したチャマルは、ようやく街外れに辿り着き、初めて東の城門を見つめた。高くそびえた壁の先の空は闇に覆われたかのように曇り、さらに先には雷鳴が轟いていた。


 明らかな異変に尻込みして足を止めた次の瞬間、地面から立ち昇った巨大な光が闇を引き裂き、轟音となり周囲を襲った。


「壁の外……、凄い衝撃っす、なんすか今の」


 足は自然と駆け足になり、すれ違う人々と肩が擦れあうのも忘れて走ったチャマルは、呆然と立ち尽くした城門の上に陣取った兵たちに呼び掛けた。しかし兵はただ呆然と塀の外を見つめるばかりで、反応すらなかった。


 城壁へ続く階段に、既に守りの兵の姿はなかった。

 躊躇なく駆け上がったチャマルは、肩で呼吸しながら、もう一度兵士へ呼びかけた。

 するとようやく気付いた一人が振り返ってチャマルの顔を見た。しかし顔は糸で引っ張られたかのように壁外へと戻ってしまった。


「なんなんだよ、もうっ!」


 ずらりと並んだまま微動だにしない兵の肩を借りて城壁のてっぺんによじ登ったチャマルは、ついに遮るものがなくなった闇の先を見つめる。


 そこにあったのは、彼女が予想だにしない異様な光景だった。



「なに、これ……。こんなのおかしい、絶対変だよー!」


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