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【179話】始まる異変


 火柱のような閃光がガツンと上がり、思わずミアが悲鳴を上げた。


 しかしそんなことはお構いなく、躊躇なく何度もハンマーを振るったモルドフは、恐ろしい速度で金属を叩き上げ、数分のうちにルービックキューブほどの小さな塊へと変貌させてみせた。


「え゛、ど、どんな手品ですか……?」


「この程度のこたぁ、酒屋の俺でもできる。だが難しいのはこっから先よ。残念ながら、俺には()()()()()()()()みてぇに器用なマネはできねぇ。要は適性の差だ、酒作り以外のよ」


 叩いて小型化した金属片を拾い上げてポイと投げ捨てると、重量感のなかった小さなキューブが地面を割ってめり込んだ。その音に反応し、奥の部屋から野太い声が聞こえてきた。


「おいボケナス、工房の床を削んじゃねぇ。テメェの馬鹿力くらい加減しろ」


 姿を現したのはゴルドフで、パシンと弟の肩を叩いてから、隣に突っ立っていたミアのことを蔑んだ目で見つめた。そしてモルドフと同じように無視を決め込み、大慌てで動き回るチャマルに声をかけた。


「おぅ、若ぇの。まーだ続いてたか。感心感心」


「お久しぶりっす。相変わらず半端ない腕っすね、その太さ憧れっす」


「ガーハッハ、そう褒めんな。にしてもよ、今度の弟子は随分と続くじゃねぇか。テメェも少しは丸くなったってことか、弟よ」


「知ったことか。弟子なんぞ、おってもおらんでもどっちでもええわ。重要なのは、そいつに芯があるか、ないかだけだ。軸になるもんがありゃあ、わざわざ弟子など続ける意味はねぇ、さっさとひとり立ちすることだ」


「ちげぇねぇ!」と肩を叩き合った二人は、弟子のことなど忘れて打ち合わせを始めてしまった。チャマルも忙しく作業に奔走するなか、完全に放置されたミアは、「だったらどうして私を呼んだんですか」と誰にも聞こえないほどの小声で呟いた。


 カツンカツンと金属を叩く音と、人が走り回る音だけが響き、ただ時間が過ぎていった。


 ミアは一人工房の端で腰掛け、皆々が動き回る様を眺めていた。



 どうして私はここにいるのだろうか。

 どうして私は来てしまったのだろうか。

 私は今、何をしているのだろうか。



 巨大な金属の塊を両肩に担いだモルドフが、邪魔だと素っ気なく手払いしてからミアの隣にドスンと荷物を置いた。わざわざここに置かなくてもいいでしょとムッとしたミアは、少し反抗心を露にして、視線を逸らした。


「どれだけ優れた野郎やアイテムも、中身が伴わねぇんじゃ意味はねぇ。必要なときに使えねぇモンは、手元にあっても邪魔なだけだ」


 誰とも目を合わせることなく天を仰ぎながらゴルドフが言った。


 流石に不穏な空気を察知したチャマルは、引きつった笑顔で「ハハハ」と割って入り、「まぁまぁ少し休憩でもどうですか」と話の流れを切った。


「ええと、ミア氏ぃ、一旦外の空気でも吸おっか?」


 ミアの手を掴んだチャマルは、腕組みしたまま鬼のような表情を浮かべた二人にへこへことお辞儀してから、慌てて工房を飛び出した。


 のさのさ着いてくるミアを二人から見えない場所まで連れ出してから、冷や汗が流れる額を拭い、「いい加減にしてよさ」と忠告した。


「なんでずっと何もしないで座ってるんすか。ただでさえ親方たちはウジウジしたのが嫌いなのに!」


「へぇ、……そうなんですか」


「何がそんなに気に入らないんすか!? 街を守るお手伝いをするのが、そんなに嫌っすか!」


「言っておいたはずです。そんなこと、……関係ありませんから」


「よくわかんないけど親方たちもずっと不機嫌だし、ミア氏は喋らないし、もうアタシにどうしろってのさ。こっちは冷や汗止まんないし、勘弁してくださいよ!」


 あわあわと落ち着かないチャマルをよそに、ミアは心底沈んだように黙りこんでしまった。


 ガックリ肩を落としたまま項垂れたチャマルは、それならとミアを工房の出入口前に座らせ、「そこで見張っててください」と最低限の指示を出した。


「……」


「お願いっすから、これ以上親方たちを怒らせないで。とばっちりは全部こっちにくるんだから、頼むっすよ」


 聞き分けのない赤ん坊に言い聞かすように両手のひらを見せてどぉどぉと宥めたチャマルは、動くなよ動くなよと後退りした。瞬き一つせず静かに腰掛けたミアは、静かにそっと目を閉じた。


 その時だった――



 突如、頭上の岩盤が揺れるほどの地響きが轟いた。


 輪をかけて慌てるチャマルは、その場でぴょんぴょんと小さくジャンプしてから、頭のぼんぼりを振り乱して工房へ駆け込んだ。少し不安そうに黙って様子を眺めていたミアは、それでも我関せずを貫いて口を結んだ。



「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ、親方、なんですか今の音!?」



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