表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

172/206

【171話】無力で無策


「どうしましょう、どうしましょう?!」


 文字どおり慌てるフレアは、顔をムニムニいじくりながら、足をバタつかせて同じ言葉を繰り返す。対照的に落ち着き払ったペトラは、旧型の通信魔道具をポンと叩き、小さく舌打ちした。


「通信は切れちまった。でもあいつらに何かあったとは限らねぇ。あのバカも、筋肉ジジイだって、それなりに修羅場はくぐってるはずだろ」


「だけど、だからって、わざわざ通信を切っちゃう理由なんてないよ!」


「そうなんだけどさ。……おっさんはどう思うよ」


 ペトラが袖で居眠りを決め込んでいる男に珍しく意見を求めた。しばし視線をそらして考えを巡らせたイチルは、思いつく中で可能性の高い二つを提示した。


「敵にぶっ殺されたか、何者かに捕まったか。そんなとこだろ」


「簡単にぶっ殺されたなんて言うなよ」


「しかし可能性として最も高いのがそれだ。冒険者なんてものは常に死と隣り合わせにいる。いつ死んでもおかしかないさ」


「でもよ、わざわざモンスターが通信用の魔道具を壊したりするか?」


「身体ごと潰されてりゃ当然壊れる。ごく普通のことだ」


 苦々しい顔で黙りこくる二人は、他人事で口笛を吹きつつ耳をほじる男の両脇に並び、手にした魔道具に向かって話しかけた。


「マティスさん……、聴こえますか?」


 不意の言葉に飛び起きたイチルは、すぐに二人から道具を拝借し、通信を切った。


「余計なことをするな。いちいちマティスに連絡してたら話がこじれる」


「……そんなこと言って、告げ口されるのが嫌なだけのくせに」


「うぐっ、それはそれ、これはこれだ。なにより、まだ奴らがやられたと決まったわけじゃねぇ。動くのはもう少ししてからでも遅くはねぇ」


 悠長に話していると、徐にペトラの袖で音が鳴った。クレイルから預かった新型の魔道具を握り、慌ててすぐにボタンを押した。


「ペトラだ。どうした、何かあったのかよ、おっさん?!」


『今しがた、ロディア様とムザイ様と合流いたしましてね。それよりも、そのように慌ててどうしました。これから残りの御二方を探しにいくところでしたが』


「いや、それがよ……。肝心なその二人と連絡が途切れちまって。どうすべきか迷ってたとこなんだよ」


『ほう……。ちなみに、お二人がどちらへ向かったかはわかりますか?』


「ええと、スクカラから北へ街を辿ってみると仰っていましたから、おそらくそれほど遠くではないかと」


『北ですか。ふむ、それは少々面倒ですね』


「なにかあるんですか?」


『実は少々前に、我々も小規模な戦闘に巻き込まれましてね。早速ではありますが、ナダンとジャワバの二国が覇権争いから離脱をしました』


「え……。どうして、そんな」


『少々状況が変わりまして。ところでイチル殿はおいででしょうか。可能であれば、お代わりいただきたく』


 ペトラとフレアは、これまで以上に苦々しい顔で道具を突きつけた。嫌々受け取ったイチルは、二人に背を向けて耳に押し当てた。


「わざわざなんの用だい?」


『端的に。今回の騒動、少々事情が変わりつつあり』


「というと?」


『既に均衡が崩れた、ということです』


「へぇ……。で、どうしろと?」


『察しが早くて助かります。まずは、そうですね――』


 二人に聞こえぬようクレイルの言葉に相槌を打ち、不服な表情を浮かべつつ仕方なくわかったと承諾した。訝しげに足元で見つめた子供たちは、蚊帳の外にされ腹を立てながら、男のズボンにしがみついた。


「クレイルのおっさんは何て言ってたんだよ!?」


「……出てくる。お前たちはここで待機だ」


「納得できるはずないでしょ、私たちも行くんだから!」


「駄目だ。お前らはここで待機、連絡に備えろ」


「うるせぇ、駄目だって言われても俺たちは行くからな!」


 聞き分けのない二人を前に、右手を掲げたイチルは、クレイルから支給されたモンスター転送装置に魔力でロックを掛けた。すぐに二人が解除を試みるも、未熟な子供の力ではどうにもならなかった。


「他人の力がなければ進めない奴らなど足手まといだ。どうしてもついてくるというのなら、それも構わん。しかしお前らに力を貸す者はいない。意味がわかるな?」


 悲壮感に塗れた表情でペトラが組み付いた。


「また置いてけぼりかよ。いつもいつも、俺たちは蚊帳の外じゃねぇか、もう嫌なんだよ、そんなのは!」


「人はそれぞれに成すべき役割がある。ロディアにはロディアの、ムザイにはムザイの、バカにはバカにしかできんことがある。当然、お前らも、だ」


 二人の足元に凝固(フリーズ)の魔法をかけ、イチルは気怠く一つ息を吐いてから、後ろ手を振り振り本部を出ていった。


「待て、待ってくれよ、頼むから連れてってくれよ。必ず役に立つ、だから頼む!!」


 虚しく響く叫びを背中に受けつつ、イチルはゼピアの本拠地へと戻った。すぐに応援をと依頼されていたものの、欠伸をしながら事務所の扉を開けるなり、たったひとりポツンと佇んでいた人物に声をかけた。



「よぉ……、タダ飯食らい。ま~だいじけてやがんのか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ