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【165話】仲の悪い二人


「国を巡る戦闘の最前線に馳せ参じた経験のある者ならば、恐らくは知る者もあるでしょう。国のトップという立場にも関わらず、自ら手を下すことを信条とする特異な人物であり、性格は好戦的で残忍。殺戮や強奪、卑劣で下劣な蛮行も躊躇なく実行する人物として世に知られています。我らの国も、幾度となく彼の手によって被害を被っています」

「そんな人物が……。しかしそれを信じていいのか?」

「わかりません。しかし一つ言えることは、彼らが宝具のルールを変えたのが事実であるということ。それだけは言い切れます」

「なぜそんなことが言い切れる。まだ奴らがパナパ兵でないと決まったわけではない」

「確かに、貴女の言うこともわかります。ですがつい数刻前、私のもとに耳を疑う情報が入りましてね――」


 ロディアが眉をひそめた。

 クレイルは一つの表情も崩さぬまま、ただ淡々とその事実を伝えた。


「つい数時間前、ナダンの領主であるジジリアが何者かに殺害されたと」


「何だと?!」と声を荒げるロディアに注目が集まり、皆が彼女を見つめた。


「そんな馬鹿なことが……」

「信用できるスジからの情報です。事実であれば、つい数分前に宝具が使用できたということ事態、おかしなことになります。なにせ宝具は、五国トップの存在なしでは成立しないはずの力ですから」


 訝しそうに見つめる面々の注目を逸らすように、クレイルがわざとらしくポンと手を打った。そしてマリヤーラに成り代わり、目の前の事実から導き出される結論を述べた。


「どちらにしましても、事態は刻一刻と進んでいるということです。殿下を始めとするジャワバの民も、我々も、成すべきことを一つひとつ解決していくほかございません。違いますか?」


 頷いたマリヤーラは、落胆する兵たちの肩を叩き、「すぐ帰国の準備を」と命じた。

 不服さを隠しつつ動き始めた兵を尻目に、マリヤーラは一人立ち尽くすプフラの肩に手を回しながら、クレイルに語りかけた。


「クレイル殿、それにロディア殿にムメイ殿も。確かに我々は、姑息な手段を講じあなた方を自軍に引き入れようとした。しかし挙げ句にも、為す術なく争いに破れ、惨めに敗走する弱者だ。無様なことは認めよう。……しかしどれだけ無様だったとしても、我々にも絶対に守らねばならぬものがある。それだけはわかってほしい」


 クレイルは男を(おもんばか)り深く頷いた。

 その上でマリヤーラは、地面に膝を付き、土下座するような格好で両手をついた。


「で、殿下、一体何を。頭をお上げください!」


 プフラが慌てふためく中、肩を震わせながらマリヤーラは続けた。


「道理に合わないことは重々承知している。しかし我らにはもう方法がない。……どうか、我々に手を貸していただけないだろうか。どんな形でも構わない。どうか我が民たちを救うため、宝具の力を無きものにしていただけないだろうか、……頼む」


 手をつき深々と頭を下げたマリヤーラの肩に手を置いたクレイルは、頭をお上げくださいと諭した。ムザイはフンと素っ気ない顔でやり過ごし、ロディアも無言で男の懇願を見つめていた。


「さぁ困りましたね。お二人とも、これから如何なさいます?」


 クレイルがいたずらに質問した。

 二人は返答せぬまま、頭を下げたままいる男を残し、スクカラの街を出るのだった――



   ◆◆◆◆◆◆◆



 ―― 同じ頃 スクカラ近くの街



「これはなかなかひでぇ状況だな。中心に近付けば近付くほど、ダンジョンの影響が色濃くなっていやがる」


 モンスターに襲われたのか、街中のところどころが破壊された風景を横目に見ながら、モリシンが呟いた。同じように緊張感なく頭の後ろで手を組むウィルは、鼻歌交じりに歩きながら、足元に落ちていた石を思い切り蹴飛ばした。


「あまり余計な音をたてるな。どこに敵が隠れているともしれん、もう少し緊張感を持て」

「うるさいな。命令しないでくれるかい、ムサヒューの分際で」


 どうにも反りの合わない二人は、少ない手掛かりを頼りに街を渡り歩いていた。

 スクカラの街からスタートした情報収集の旅は、未だ実りの少ないままだった。


 のどかな田園風景だったであろう街の姿は閑散としており、住民の姿はほとんど見られなかった。

 ギルドキャンプが敷かれたスクカラは、冒険者に守られている街の住民が数多く残っていたものの、抗う術のない人々は既に他所へ移っているようだった。


「こっちの店もとっくにもぬけの殻だ。ちっ、人っ子一人残っちゃいねぇ」

「だから言ったじゃないか。スクカラで話を聞けばよかったって」

「そうもいくかよ。そもそもテメェの不用心が招いたタネだろうが、人のせいにすんな」


 わざとらしく天を仰ぎため息をついたウィルに苛立ったモリシンが背中の剣に手をかけると、タイミングよく、遠くの建物の影で何かが揺れた。


「またモンスターかい。僕ねぇ、少し疲れてるんだけどなぁ」

「知らん。今やこの国全体がダンジョンみたいなもんなんだ。昼夜問わず集中してろどアホ」


「僕のことをアホって言うな」とわかりやすく怒り心頭なウィルを放置し、モリシンが建物の裏を狙って斬撃を放った。


 荒屋を一撃でなぎ倒した攻撃を躱して、何かが空気の壁を蹴り逃亡を謀った。


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