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【164話】嘲笑う男の声


 大声で叫びながら走る者の姿もあり、気付いたジャワバ兵たちも同じように窓の外を覗いた。


「勿体ぶらず教えろ。一体何があった」

「恐らく、ではございますが、ジャワバの拠点が襲撃されたのと同じタイミングで、ナダンの拠点も同じく攻撃を受けたものだと」

「ナダンの……? それは本当なのか」

「ですから、本日の私はツイていると。様々な選択肢がある中で、偶然にもあそこで御二人に出会えたのですから」


 遠くナダンのキャンプがあった方向を見上げれば、立ち昇る煙のようなものが見えていた。

 どうやら何らかの諍いが発生しているのは明らかだった。


「しかしどういうことなのだ。奴らの同士討ちは、宝具の特性上起こり得ないはずではなかったのか?」


 ロディアの言葉にムザイも頷いた。

 しかしそれを聞き入れてから、クレイルが一つの結論を口にした。


「恐らくは何らかの方法によって、宝具のルールが破られたと捉えるのが自然かと。わたくしが殿下にお伝えしたのはそれだけのことです。もはや宝具はあなた方のコントロール下にはない、と」


 唯一の後ろ盾である宝具のコントロール権を失えば、国力で下回るナダンやジャワバを同列でのさばらせておく理由はなくなる。それどころか、他三国からすれば、これは格好のチャンスでしかない。敵対する国を公に捻り潰す機会を得たも同義だった。


 青褪めたマリヤーラの表情から読み取れる悲壮感を鑑みれば、思い当たる節があるのか、これから起こるであろう国難に苦慮しているようだった。

 動揺したプフラをよそにクレイルに目配せしたロディアは、唐突に進み始めた現状を踏まえて言った。


「宝具のルールが破られたとあれば、国力で劣るジャワバとナダンはダンジョンどころではなくなるだろう。すぐにでも本国へ戻り、自国の守りを固めねばなるまい。絞られるとはそういうことか」

「そうです。しかし他の三国とて最優先すべきはダンジョンの攻略。ジャワバやナダン侵攻を本格化させるにしても、それらが片付いてからとなるでしょうけども」

「どちらにしても奴らはここで脱落、か」


 未だマリヤーラをなだめるプフラを横目に、ムザイが壁から背中を離した。

 そして(おもむろ)にジャワバの者たちに話しかけた。


「奴らはどこの者だ。お前たちは気付いているはずだ」


 一斉に黙りこくったジャワバ兵を制し、マリヤーラが一歩前へ出て言った。


「……良いでしょう。我々の知る情報をあなた方に差し上げよう」

「お待ち下さい殿下、なぜそのようなことを?!」

「良いのだプフラよ、……我々に残された選択肢は少ない。宝具の後ろ盾が無くなった以上、もはやどうすることもできん」

「後ろ盾がなくなった? それはどういう……」


 ジャワバの兵たちがざわつき注視する。

 観念したように目を瞑ったマリヤーラは、全てを白状するように呟いた。


「先の戦いの中で、私は賊へ向けて宝具の力を使用した。しかし力は賊に及ばず、反対に我々だけが宝具の力によって抑え込まれてしまった」

「だ、だとしたら、考えられるのはパナパの兵だけです。やはりまだ秘密裏にパナパが動いていることにほかなりません。領主であるエレファンも未だ見つかっていません。奴ら以外には考えられません!」


 プフラが鼻息荒く反論した。

 しかしマリヤーラは首を横に振った。


「プフラ、お前は私の側近となってから、まだ日が浅かったな。我らジャワバの民は、長年他国の侵略に耐えながら、これまでどうにかやり過ごしてきた。特にあの国の動向には常に気を配り、緊張感を持って対処してきたつもりだ」

「あの国……?」

「クープだ。ことあるごとに他国への侵略行為を繰り返すクープには、我々も常に目を光らせている。特にトップである()()()に関しては、各国相当な警戒をしていた」

「マリヤーラ様、一体何を……?」

「一度でもあの男と対峙したことがあるならば、恐らくは永遠に忘れぬことがある。全てを蔑むような卑屈な笑い声……。どれだけ隠そうとも、奴を知っている者ならば、まず間違うことはないだろう」


 黒服の集団を思い浮かべたプフラは、漏れ聞いた男の卑屈な笑い声を最も近くで聞いていた。

 宝具によって抑え込まれる自分たちを嘲笑う男の声を――


「まず間違いなくクープの、しかも中心となるザジルで間違いないだろう。それが事実とすれば、我々の宝具がなんらかの方法で無力化されたというのを意味している。そうなれば、もはや一刻の猶予もない。……我々は宝具を巡る争いに破れたのだ」


 愕然としたプフラが、膝を付き項垂れた。

 ほかの兵たちも同じように肩を落とし、目の前の事実を受け入れられず呆然としていた。

 マリヤーラの言葉を聞いていたロディアは、クレイルの耳元で呟いた。


「貴方はザジルという人物を知っているのですか?」


 少しだけ遠い目をしたクレイルは、軽く二度頷いてから答えた。


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