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【162話】紳士は常に紳士たれ


 集団の中心でずっと何かを掲げている男は、一気に傾いた流れを察し、初めてクククと声を漏らして笑った。その時、男の声に反応したムザイの耳が微かに動いた。


「なぜだ、なぜ宝具の効力が我々に及ぶ?!」


 間一髪のところで相手の攻撃を捌きながらプフラが叫んだ。

 その背後で自らの手を動かしたロディアは、つい数分前に感じたものと同じ感触を味わいながら、自分がどう動くべきかを憂慮していた。


「やはり分が悪いな。力が使えない状態で奴らに勝つには相当に骨が折れる」


 ロディアの分析を後押しするようにムザイが呟いた。

 互いにどう動くかの算段を立てるうちにも、いよいよ本丸へと迫った集団の攻撃が、マリヤーラを狙って襲いかかった。


「殿下ぁ!」


 プフラの隙をついて、黒服の一人がマリヤーラの懐へと踏み込んだ。

 腹をえぐり取らんと振るわれた短刀が迫る中、舌打ちしたムザイは、既のところで黒服の手元から武器を蹴り上げた。


「す、すまん、助けられた」

「礼など後にしろ。それよりどうするつもりだ、このままではジリ貧だぞ」


 しかし戦闘経験も薄く老齢なマリヤーラには対処のしようがなく、どうにか平静を装いながら冷や汗を流すしかなかった。


 全ての情報を整理した上で、ロディアは自分の取るべき行動を決めた。

 宝具の効力が続く限り、どうやら直接戦闘でジャワバ兵が勝つ可能性は薄い。

 たとえロディアとムザイが加勢したところで、大勢が簡単に傾くとは考えられなかった。


 そうとなれば、自ずと取るべき行動は限られた。

 隙を突き一矢報いるか、どうにかこの場を切り抜けるか。

 選択肢は二つに一つしかなかった。


「ジャワバの兵を囮に、私たちだけ逃亡することは容易い。……しかしそれでは意味がない」


 ムザイとアイコンタクトで意思疎通を取ったロディアは、どうにか時間を作ってくれとマリヤーラを抱えた。

 ジャワバの兵を隠れ蓑にして飛び上がったムザイは、どうにか宝具の効力を打ち消すため、集団のリーダーを狙って斬りかかった。


「それさえ無効化させてしまえばどうにでもなる。くたばるがいい」


 しかしムザイの思惑に気付いた集団が接近を許すはずはなく、すぐに強固な壁を作ってムザイの攻撃を弾き返した。

 やはり簡単にいかないと壁を蹴って反撃を試みるも、宝具を無効化するには最後の一手が足りなかった。


「スピードで上回れない以上、奴らから石を奪うのは難しい。どうする?」


 マリヤーラを守ることで手一杯であるロディアを頼ることはできそうもない。

 かといってジャワバ兵も黒服の攻撃を耐えるだけで精一杯となれば、ムザイ一人の力で突破を図る以外方法はなかった。

 しかし守りを固められた状態で、相手の本丸を崩すのは多大な労力と時間を要する。


「こんなところで無駄な力を使ってられん。何か突破口は……?」


 ムザイが黒服の集団を俯瞰に見つめる。

 するとその時、集団の奥の奥で、誰とも知れない一つの影がゆらりとはためいた。



『 突破口ならば、ここに一つございます 』



 闇の奥に目を凝らしたムザイは、空中で回転しながら無数の照明(フラッシュ)を放ち、暗闇を眩い光で埋め尽くした。

 攻撃に警戒し、相手が一所に集まった瞬間を見計らって、集団の背後を取った何者かは指先から細長く青白い魔力の網を放った。


「どうやら本日の私はツイています。これほどの偶然があるでしょうか、ねぇ御二方?」


 背後から魔法の網を被された黒服の集団が慌てふためく最中、ムザイと共に勢いよく地面を蹴ったロディアは、マリヤーラを連れて集団の頭上を抜け出口へと走った。

 同じように隙をついて敵を(また)いだプフラと一部の兵たちも、優雅に鼻下のヒゲに触れる老紳士を横目に見ながらムザイらを追った。


「さて、では(わたくし)も参りましょうか。皆様はもう少し、ここでジッとしていてください」


 黒服に手を振ったのはクレイルだった。

 魔法の網を魔力で締め付けたクレイルは、集団をその場に貼り付けたまま、すぐに追いつき最後尾についた。


「どなたか知らぬが助けられた。すぐに帰還する、殿下をこちらへ」


 ロディアからマリヤーラを受け取ったプフラは、出口付近に集まった一向に粉を振りかけた。

 すると途端に景色が歪み、一瞬にして地上へと舞い戻った。


「あれしきの網ですから、すぐに破られてしまうに違いありません。皆さん、まずは身を隠しましょう。詳しい話はそれからです」


 先手を打ったクレイルの言葉に皆が頷いた。

 それぞれぶつけたい質問があるのはやまやまだったが、初見にも関わらず落ち着き払って冷静に状況を読んでいる老紳士の言葉に納得し、全員が男の後に続いた。


 切り立った山肌を抜け、木を隠すならば森がいいと指を立てたクレイルに導かれるままスクカラの街へと戻った一行は、「秘密のアジトです」と朗らかに微笑む紳士に連れられるまま、何の変哲もない石造りの建物に入った。


 全員が逃げ込んだのを見届け、クレイルは入口でパチンと指を鳴らし、「これでよし」と頷き皆に笑いかけた。


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