【157話】烏合の衆
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「それにしても……。烏合の衆とはまさにこれのことだな」
ギルドキャンプ内にひしめき合う冒険者の数々を斜めに見つめたムザイは、どこの誰とも知らない面々から距離を取ったまま、伏し目がちに話しかけた。
同じく目立たぬように建物の影で腰掛けたロディアは、上下差の激しい冒険者のレベルを見極めながら、混沌としている状況を具に読み取っていた。
第三国から入国した冒険者が情報を集める手始めとして集まっているのは、確認するまでもなく、誰の目からも明らかだった。それぞれがどこか野心に溢れた顔をしており、一攫千金を求めて集結しているのは間違いなかった。
しかしそれ以上も以下もなく、ここで得られる情報は上辺だけの薄いものだけだろうと諦めたロディアは、首を振り合図を出した。
「長居は無用か。しかし……、判断は奴らの話を聞いてからでも遅くはなかろう」
ムザイが覗く視線の先から、集められている面々と明らかに雰囲気の異なる男が近づいていた。
男は青と緑色の二羽の鳥が折り重なるマークを象った腕章を両の腕に携え、引き連れた部下を冒険者を囲むように配置させてから、わざとらしく一つ咳払いをした。それから部下が敬礼したのに合わせ、声高に話し始めた。
「こちらに注目いただきたい。まずはこの度の呼びかけにお集まりいただき感謝する。しかし時は有事につき、挨拶はここまでとさせていただく。早速、クエストの説明に入る」
視線が男に引かれる中、舌打ちしたロディアが肩を落とし俯いた。
たった一言のニュアンスに潜んだ事情を読み取り、これ以上は無駄だと項垂れた。
「キミたちに集まっていただいたのは言うまでもない。我らナダン国は、いつでも他国に門徒を開き、受け入れてきた。有用なる者は分け隔てなく登用し、相応の富を与えることを約束しよう。何人たりとも条件は変わらない。全ては結果で応えていただく、それだけだ」
それだけ伝えた男は、後のことを部下に任せ、さっさと戻ってしまった。
集まった冒険者からは、男の言葉に呼応し張り切る者もいた。しかし、要するに体の良い裏方仕事を頼まれるだけかと呆れたムザイは、首に巻いていたターバンで顔全体を隠し立ち上がった。
「時間の無駄だったようだ。ロディア、これからどうするつもりだ?」
「もう少しまともな連中の集まる場所を目指すしかないでしょうね。私たちは、わざわざ雑用をこなしにきたわけじゃない」
パワーバランスで言えば、ナダンは五国の中でも最下層に位置する国。
そんな末端組織の、しかも雑用クエストを継続する意味はないとキャンプを離れようとしたところで、不意に何者かが二人に声をかけた。
「あの、……どちらへ向かわれるつもりで。やっとクエストが始まるというのに」
声をかけたのは、ムザイと同じように濃紺のターバンで顔を隠した女だった。顔だけでなく全身を長い布のようなものでカモフラージュした女は、無視しようとするムザイを再度引き止めながら続けた。
「勝手に出ていくのはマズいかと。一応、入団の意思があってテストを受けているのですから」
「……誰だか知らんが、気安く話しかけるな」
「そ、そんな好戦的なことを言わないで。私はあなた方のことを思って言っているのに」
「ならば放っておけ。この程度のクエストを無視したところでなんの影響もない。未熟な雑魚と行動する気はない」
「雑魚……、口が悪いですね。まぁ、否定はしませんが」
覆われた布地の隙間から覗く口元を微かに緩めた女は、「これからお話でも?」と二人を誘った。集められた他の冒険者とは明らかに様子の異なる女に興味を覚えたムザイは、ロディアの態度と対照的に、「生意気な」と提案を受け入れた。
「おい、勝手なことを」
「別にいいじゃないか。どうせ行くアテもないんだ、ここに留まるよりずっといい」
ギルドキャンプの外を指さしたムザイは、闇に紛れるようにひとり姿を消した。
まったくと呆れながら天を仰いだロディアは、どこか嬉しそうに頷く女に先に行けとアゴで指示してから、素軽く飛び上がった女を追ってキャンプを出た。
身のこなしから、それなりのランクに位置する冒険者に違いないと目星を付けながら、ロディアはキャンプの屋根を蹴り踏みつつ質問した。