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【155話】秘密兵器は秘密裏に


「ここはいわば戦場。素性もわからねぇ怪しい輩は、こうして問答無用で狙われるのさ。それが職人を探しているとなればなおさらだ」


 トンファーに似た珍しい片手武器を装備した怪しげな男二人は、前置きもなく二人に襲いかかった。

 しかし武器に手もかけず腕組みしたままのモリシンは、ウィルに目配せして、「あんたの実力を見せてくれよ」とせせら笑った。


「まったく何様のつもりなんだろうね。僕はね、偉そうでむさ苦しい男が大嫌いなのさ。僕のようなスマートなヒューマンと正反対な、キミのようなね」


 身を屈めてカニのポーズを取ったウィルは、変体しないまま身体を固め、相手の武器を生身の腕で受け止めた。


「何ッ?!」

「こんな玩具で僕の身体を傷つけられるとでも思ったのかい。舐めてもらっちゃ困るよ」


 武器を弾き、固めた指先で相手の首元を突いたウィルは、続け様もう一人も同じように攻撃して気絶させ、建物の影にそっと寝かせて置いた。


「面白いスキルだな。獣化か?」

「気安く質問してくれるな、ムサヒューマンめ。僕はこの世界の頂点に立つ王になるんだからね、キミのような()()()()()が簡単に口をきいていい人物じゃないんだ。覚えておくといい」


 はいはいと返事したモリシンは、倒れた刺客の胸元を探り、持っていた備品に目を通した。

 簡単に身元を明かされてしまうあたり所詮は素人かと身分を示す所持品を燃し、ふぅと息を吐いた。


「どうやらナダンのチンピラらしいな。どちらにしろ、このレベルの輩を使わなきゃならないあたりに国力の程が知れるな」

「何もしていない癖に偉そうに語るな。やったのはこの僕なんだからな」

「いちいち突っかかるなよ。お前こそ考えなしに動き回る癖をどうにかしろ。それじゃあこれからいくら命があっても足りんぜ」


 嫌味を言うモリシンに腹を立てたウィルは、僕をバカにするなと地団駄を踏んだ。しかしそうしている間にも、先程の立ち回りをどこからか見張っていた輩が周囲を囲み、遠目に二人を見張っていた。


「……見られているね。どうするつもりだい?」

「簡単にバレちまうレベルの相手だ、放っておいて構わんだろう。しかしゾロゾロ連れて歩くのは面倒だな。……撒くか?」

「ふん、キミごと一緒に撒いてやる」

「生意気な。撒けるものなら撒いてみな」


 一斉に駆け出した二人が街の喧騒に消えていく。

 逃がすなという誰かの声をともに、いよいよパナパのダンジョン移設作戦が始まりを告げるのだった――


   ◆◆◆◆◆◆


 ―― トゥルシロ近郊 本部



「それで、お前らはこれからどうするつもりなんだ?」


 唐突に意地悪く質問したイチルに対し、フレアとペトラは互いに目を合わせてから、何かを予見したようにパチンと指を鳴らした。

 するとタイミングよく扉を叩く音がして、何者かが本部内に入ってきた。


「うん、アンタは確か……」


 全身を黒の燕尾服(えんびふく)(※のような服)で固めた老紳士が、頭を覆っていたハットを外し、ペコリと三人に一礼した。よぉよぉと挨拶したペトラは、フレンドリーに男とハイタッチしてから軽く会釈を交わした。


「またお目にかかれましたね、イチル殿」

「アンタは確か、魔術院で会ったエミーネさんとこの。どうしてここに?」

「そちらのお嬢さん二人にどうしてもと頼まれましてね。少しだけお手伝いをと」


 姿を見せたのは魔術院の用務員兼教諭のクレイルだった。

 フレアとも挨拶を済ませ、クレイルは持参した巨大な荷物を背中から降ろし、ドサッと置いた。どれどれと手もみしながら近寄ったペトラは、勝手に荷物のフタを開けて中を覗き込んだ。


「おいお前ら、また勝手に悪巧みしてるんじゃないだろうな」

「別に何もしてねぇって。ちょ~いとクレイルのおっさんに頼み事をしておいただけさ。お、これだこれ、あったあった♪」


 ペトラが荷物の中から勝手に取り出したのは、魔術院で使われている情報伝達用の小型端末だった。

 それは繋縛(コネクト)のスキルで繋がれた端末間であれば、他人に悟られることなく情報のやり取りができる便利な魔道具で、院で目にした二人はすぐに導入を決め、エミーネに依頼していた。


「相変わらず抜け目のない奴らめ。しかしそれにしては荷物が多いな。他に何が入っているんだ?」


 続いて巨大な荷物の中身をどうにか取り出したペトラは、ペシペシと外袋を叩きながら、わざとらしく背中に隠して勿体ぶった。しかしあまりに大きな中身の半分がペトラの小さな身体からハミ出しており、クレイルとフレアがプッと吹き出して笑った。


「コイツが今回のとっておきだぜ。毎度毎度、仲間はずれにされてる俺たちの心強い味方だ!」


 覆っていた薄袋を外すと、中からまた大きな箱が現れた。

 ペトラはそれを改めて二つに分解すると、手慣れた様子で中身を組み替えていった。


「ここをこうして、これをこうすればと。あとはコイツをウチの制御装置の波長と連携させて、こちょこちょしてやると……、よ~し、多分これで上手くいくはずだ」


 ペトラの顔三つ分ほどの箱が新たに二つできあがった。

 怪しげな風貌の箱からは、微かに魔力が滲み出していた。


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