【154話】前途多難
一斉に飛びかかった団員たちは、それぞれ手にした武器を振りかぶった。
目だけを動かし全ての動きを瞬時に読み切ったロディアは、微かに身体を動かしただけで攻撃を躱すと、武器も持たず、相手の急所を的確に拳で突いていく。
片や脳を揺らされ、片や金的をくらい、まず二人が倒れた。
残りの団員は何をされたかも理解できず、無意識の内に距離をとっていた。
「え、ロディア……?」
「クラスこそGのままだが、奴とて瓦礫深淵を体感した冒険者。自分に何が必要かを察すれば、レベルは必然的に向上する。何より貴様と奴とではココのデキが違いすぎる」
頭をコツコツと叩いたムザイが不敵に笑った。
ランドで働き始めてからの短期間で、これほど人が変わるものかと冷や汗を垂らしたウィルは、我が妹ながらと脱帽するばかりだった。
「これまでの私は、自分の力量を考えず、無謀な動きや行動ばかりに目を奪われていた。しかしそれは間違っていた。……アイツの戦いを見て心底それを思い知らされた」
軽く目を瞑り、いつかの獣人の姿を脳裏に思い浮かべたロディアは、目の前に立った二人の次の動きを予測した。
一連の動きから想像できるイメージを脳内で先行させ、取り得る範囲を全パターン弾き出せば、自ずと答えは露わになった。
「強引に振り下ろした剣先は、相手の足元で左前方へと方向を変える。しかしそれから先のイメージはなく、男の身体は思い切り右に流れる。……ふん、隙だらけだな」
相手が動くよりも早く、流れるように体を逸らした袖を剣先が通過していく。
エスカレーターに乗るよりも自然に剣先につま先をかけて相手の力を利用したロディアは、剣を振り上げた勢いのまま回転して相手の顔面をひと蹴りし、男を派手に転倒させた。
そして宙に浮いていた武器を奪い、倒れた相手の喉元に突きつけた。
「まだ続けますか。それとも、このまま串刺しにしてしまいましょうか」
残りの一人を牽制しながら呟いたロディアに両手を上げ、二人が敗北を宣言した。
「おぉ!」と沸く観客と一緒に手を叩いたウィルは、「あれ、僕の妹」と口々に自慢した。
「片がついたようだな。ウィルにモリシンとやら、どうやら共に行動するのはここまでのようだ」
一歩前へ出たムザイが瞬時に姿を消し、影に隠れて戦いの様子を窺っていた別の団員の背後を取り、首元に短剣を突きつけた。
「奴と私の二人、貴様のところでしばらく働いてやる。断るならばこのまま殺す。文句はあるか?」
冷や汗を流した団員の男は、無言で首を横に振った。
「良い返事だ。これから貴様らのギルドへ案内しろ。話を聞いてやる」
ムザイの様子を離れて見ていたモリシンは、呆れながら二本指を立て、OKと合図を出した。意味がわからずキョロキョロ辺りを窺っていたウィルは、「うん?」と首を傾けた。
「こっちはお姉さま方に任せておいて、俺たちはさっさと職人探しだ。ところでウィルとか言ったな、お前はどんなスキルが使えるんだ?」
モリシンが不意に話しかけた。
「ふん、赤の他人に教えるものか。そんなことより、僕はまだお前と行動することを許したわけじゃないんだからな!」
「そう言うなよ。それに、二人一組はおたくのお嬢様たっての希望だ。俺の指名じゃねぇ」
フレアの名前を出されて舌打ちしたウィルは、仕方なくモリシンの後に続き、街外れの一角へと移動した。
冒険者が集まっていたギルドキャンプとは一線を画し、本来のスクカラの街に住む人々の姿があるだけで、落ち着いたこぢんまりとした集落が存在しているだけだった。
「こんなところで何をするつもりだい」
「情報収集に決まってるじゃねぇか。他所のギルドが情報を提供してくれるとは思えねぇ。ってことは、地の者に話を聞くほかねぇだろうが」
なるほどとすぐに納得したウィルは、闇雲に住人に声をかけ、緊張感なく「職人さんがどこにいるか知っているかい?」と質問した。そのあまりの間抜けさ加減に、フレアとペトラの聡明さとは真逆すぎる男の行動に呆れ、モリシンは顔を右手で覆い隠した。
「大丈夫かこの男……。ただのバカはノーセンキューだぜ?」
ウィルの襟首を引っ張ったモリシンは、建物の影に男を引き込み、「闇雲に声を掛けるな」と耳元で呟いた。「どうしてだい?」と目を輝かせて聞くウィルに対し、モリシンは親指を立て、明後日の方向を示してみせた。
「うん? ……おやおやなんだい、随分とガラの悪い人たちのお出ましじゃないか」
モリシンが示した方向から、明らかに普通でない風貌の男が姿を現した。
さらに反対側からも別の男が現れ、二人を建物の間で挟み込んだ。