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【153話】腕試し


 三人が喧嘩をしているうちにも、トゥルシロ国のギルド関係者としてパナパ内に足を踏み入れた二組は、入口の街であるスクカラを訪れていた。


 スクカラには動乱の中心となっている五国の他にも、各国の補助という名目で派遣されたギルドや団体が所狭しと詰めかけていて、さながら一大拠点と化すほどの人々が入り混じっていた。


 街からパナパの中心部までは、距離にすれば百キロほど離れていた。しかしそれでもパナパ地下のダンジョンによる影響は及んでおり、周辺には通常考えられないようなレベルのモンスターがうろつき、高ランクの冒険者といえど気を抜く余裕がないほどだった。


「それにしても……、なかなかな事態だぜ。見ろよ、強国グンゼルのギルドまで出張ってやがる。隙さえあれば、一口噛んでやろうって魂胆がミエミエだぜ」


「グンゼルだけではないさ。見たところ、周辺国ほとんどの主要ギルドを代表する面々が拠点を張っているようだ。自国の防衛よりも優先しているところをみるに、退魔宝具というものは相当な代物のようだ」


 モリシンとロディアの会話に頷いたムザイは、目立たぬようにフードを深く被ったまま、御旗をかざし、すれ違っていく各国の戦士をやり過ごした。


「随分と態度がよそよそしいな、どうかしたか?」

「これでもそれなりに知れた名だ。仕事柄、恨み言の一つや二つは買っている」

「へ~、本当にアサシンだったんだな。とても子供に魔法を教えている人物とは思えない変わりようだな」


 嫌味混じりなロディアの言葉に舌打ちし、完全に顔を隠したムザイは、モリシンの背後に回りってから「さっさと歩け、でくの坊」と肘で押した。


「俺に当たるなよ。うん、……おい、ありゃあ何だ?」


 前方方向に人集りを見つけ、四人が立ち止まった。人波の向こうでは、ガチガチと金属がぶつかりあうような音が響いており、野次馬根性丸出しのウィルは、さっさと人垣を掻き分け前へと這い出た。


「おぉ、これは何事だい?」


 人々の視線の先では屈強な冒険者たちが列をなして集合していて、さらに先では武器を手にとった複数人の男女が入り乱れて戦闘を繰り広げていた。

 野次馬たちは「そこだ」だの、「落とせ」だのと口々に歓声を上げ、冒険者たちに発破をかけていた。


 応援している観客の一人にウィルが「これは何をしているんだい?」と尋ねた。


「冒険者募集の入団テストに決まってるだろう」

「入団テスト?」

「ここには各国の冒険者ギルドが集まっているからな。フリーの冒険者は、今回の件に直接関わっている国の臨時ギルド団員として雇われた上で仕事をもらうのさ。コッチの方もそれなりにいいからな」


 観客が指で金のマークを示し、「アンタも挑戦するかい?」と聞いた。

 タイミングよくウィルに追いついたモリシンは、「俺たちはパスだ」と申し出を断った。


「なんだい、挑戦してみればいいじゃないか。それともキミは自身がないのかい?」

「俺とテメェは職人を探すのが仕事だろうが。この場合、挑戦は俺たちでなく彼女らがすべきだ」


 そう言ってロディアの腕をとったモリシンは、周囲にアピールするように手を掲げた。なんのつもりだとロディアは慌てたが、「身体が戻ったかどうかのテストにはちょうどいい」と嫌らしく言った。


「おうおう、飛び入りで挑戦かいお嬢さん。いいぜ、さっさと準備して中へ入んな」


 人々の圧を背に受け押し出されたロディアは、準備万端で身体をよじる団員たちの視線を一斉に浴びた。一組前に試されていたであろうボロボロの冒険者を輪の外へ捨て置いた男たちは、指の骨を鳴らしながらロディアに近付いた。


「入団条件は、どんな方法でもいい、俺たちを屈服させてみろ。時間は無制限、悪いが死んでも文句はいいっこなしだ。こんな場所だからな」


 たったそれだけの説明を終えて身構えた四人の団員たちは、人の壁に背を向けてロディアを取り囲んだ。もはや逃げ場もないロディアは、「最近こんなことばかりだな」と苦笑した。


「お、おい、我が妹に何をさせる気だい?! こらゴリラ男、これ以上ロディアの身に何かあってみろ、お前を八つ裂きにしてやるからな!」

「ふん、黙って見ていろ愚かな兄。奴はもうお前の知っているひ弱なGクラスの冒険者ではない」


 モリシンに組み付くウィルにグイと肘で示したムザイは、腕組みしたまま「どれ」と頷く。

 仕方なく呼吸を整えたロディアは、スッと目を閉じてから「野獣(ビースト)」と呟いた。


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