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【151話】突然の拒否


「コイツは『クープ』。パナパと同じ貴族が独立させたパターンの国だ。恐ろしい軍事力と金の力で一瞬にして国土の周囲に高い壁を築いたことでも知られている。領主のザジルは少々問題の多い人物でね。今回一番のトラブルメーカーになることだろうぜ」

「……やはりクープも絡んでいるのかい。一層面倒な話になってきたね」


 珍しく話に首を突っ込んだウィルに驚き、ペトラが「何か知ってんのかよ?」と尋ねた。


「クープは色々な隣国に喧嘩を売ってきた歴史があるからね。その昔、僕がいた国にも諍いを吹っかけてきたことがあったのさ。まぁ、返り討ちにしたけどね。ハハッ」


 そして最後にパナパの南東を示したモリシンは、それなりの国土を持つルカウの文字を指でなぞった。


「最後は『ルカウ』だ。ここは他国との関係を良好に保とうと務める中立国家でもある。むしろルカウがあるおかげで、他の国々がドンパチをしないで済んでいると言ってもいい。ナダンと同じく先々を考えた投資のようなものだという認識だが、本来の目的はわからない。何よりルカウは異常なほどの秘密主義国家だからな」

「はぁ? んだよそれ、意味わかんねぇし」

「そのまんまの意味だ。中立国家の立場を維持しながらも、他国に自分たちの情報を流すことは滅多にない。ギルドの大きさから主産業の大きさに至るまで、そのほとんどをよそに頼らず自前で成立させてるっていう珍しい国だ。そんなだから、他国も無闇に攻められねぇって寸法なのさ」


 簡単なあらましを伝え終え、モリシンが全員を回し見た。いよいよ引くに引けなくなりつつある現状に、各々の腹は仕方なくも決まりかけていた。


「それでモリシンよ、お前はどうするつもりだったんだ。この状態で勝手にドンパチを始めたら、それこそ多国間の問題になるだろうが」

「おっと、肝心な部分の説明をしていなかったな。ところでお前ら、この五つの国の間で結ばれた協定のことは知っているか?」

「知るわけなかろうが。私たちはゼピアの人間だぞ」


 それもそうだと概略図を開いたモリシンがムザイに紙を手渡した。たった数行でまとめられた文章を訝しがりながら見つめたムザイは、それを覇気のない声で音読した。


「ダンジョン駆除成功時における分配率は、最大50%を上限に出資比率に伴うパーセンテージ別に振り分けるものとする。……どういうことだ?」

「誰がダンジョンを解体したとしても、もともと振り分けられていた分け前の半分は保証するって意味だそうだ」

「五国のうち、どこがダンジョンを解体しても、元から得られていた分け前の半分は保証されるのか。ならば残りの半分はどうなるのだ?」

「そこは決まってねぇ。ってことは、わかるよな?」

「出し抜いた奴が総取り、というわけか」

「御名答。だからこそ、成功報酬の額も跳ね上がるって寸法だ」

「上手くいけば、ダンジョンをもらえる上に、報酬も上乗せされるということか。それはそれでなかなか面白い条件だな」


 ムザイの言葉に気を良くしたモリシンが「ガハハ」と笑った。しかし冷え切った倦怠期女性のような真顔でフレアが釘を刺した。


「簡単に言いかえれば50%分、少なくともナダン、ジャワバ、クープ、ルカウの四国に恨みを買うってことですものね。もしそんなことになったら、クープなんかはきっと、怒って乗り込んできそうですよね、ハハハ~」


 据わった目でフレアに睨まれたモリシンが黙りこくる中、いよいよ我慢できなくなったペトラは、溢れ出しそうなわくわくを足踏みに変換しながら言った。


「もう決まっちまったもんはゴチャゴチャ考えても意味ねーだろ。重要なのは、やるか、やらないかだったよな、フレア?」


 ムスッとして口を膨らませたフレアが仕方なく頷いた。バシンとモリシンの腰を叩いたペトラは、右手を突き上げながら、堂々と宣言した。


「よぉぉし、それじゃあいくぞ。パナパのダンジョンは俺たちがいただくぜ!」


 ウィルやモルドフ、そしてモリシンも勢いよく右手を掲げた。これでようやくスタートラインだなとイチルが息を吐いたところで、誰もが予想をしなかった人物が声を挟んだ。


「あの……!」


 手を叩き場を盛り上げていたペトラが不思議そうに眉をひそめた。ひとり険しい顔で(うつむ)いたその人物は、今にも泣き出しそうに肩や膝を震わせながら、力を振り絞るように言った。


「……私、…………パナパには行きません」


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