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【133話】背中に感じる鼓動


「そうだ、そうだった! それだよエミーネ、僕の魔法、僕のスキルは犬男によって見事に封じられていたんだ。そうだ、思い出したよ!」


 猜疑心(さいぎしん)に沈んだ目で疑うエミーネは、荷物の中から小さな冊子を取り出すと、パラパラと(ページ)を捲り、わざとらしく何かを確認した。そしてコホンと咳をしてから、ウィルの頭にチョップした。


「何をするんだいエミーネ?!」

「そんな都合の良いスキルや魔法があるはずないでしょ! 魔法なら魔法、スキルならスキルを封じる手段は確かにある。けど、そこまで長時間封じ続けるなんて不可能よ。そんな馬鹿げた手段が使えるなら、ウチの魔術院で働いてほしいくらいよ。世界がひっくり返るわ」


 エミーネに全否定され肩を落としたウィルは、だったらと一旦保管庫を出て、てんやわんやで目を回していたミアを掴まえ戻ってきた。そしてすがるようにミアの肩を揺らし、涙ながらに質問した。


「なぁなぁミア君、僕は確かに魔法を使うことができたよね?! キミも僕が魔法を使う姿を見たことがあるだろう?!」


 ブンブンと前後に揺らされボブルヘッドのように頭を揺らしたミアは、いよいよ目を回してひっくり返った。ここの人たちは本当にどうなってるのよと呆れるエミーネをよそに、どうにかミアを叩き起こしたウィルは、改めて質問をし直した。


「ミア君、ちゃんと思い出してよ! 僕は確かに魔法を使うことができていたよね?」

「なんなんですかぁウィルさん、そんなおかしなこと聞いてぇ」

「僕が魔法を使っている姿を、ミア君は見たことあるよね?!」


 顔をしかめて「う~ん」と悩み始めたミアの様子に、エミーネの顔が再び曇った。


「どうしてそこで迷うんだい?! ほら、いつもウチのモンスターたちをコピーしたり、管理したりしていたじゃないか!」


 何かを思い出してミアがポンと手を打った。


「確かにぃ。そんなこともあったかもしれませんねぇ、ホントだぁ」


 寝ぼけたようなミアの台詞に、エミーネの顔がさらに曇った。


「そんな曖昧なこと言わないでくれたまえ! あの子たち二人に話が聞けない今、キミだけが頼りなんだよ、頼むからちゃんと答えてくれたまえ!」


 ミアが入ったことで、さらに混沌とし始めた場の雰囲気に耐えられず、ヤクザのように顔をしかめたエミーネがドンと地面を蹴った。怯えたウィルとミアがスッと背筋を正し直立すると、両目を見開き言った。


「もういい、聞いた私が馬鹿だった。これ以上無駄な時間は使ってられないわ。……帰る」


 それだけは、それだけはと泣いてすがる無様なウィルを眺め、ほのぼのと楽しそうに笑っているミアは、のほほんとエミーネに手を振りながら、「また遊びにきてくださいね~」と言った。


「遊びにきてなんて悠長なこと言ってる場合じゃないよミア君! エミーネが帰っちゃったら、僕らの魔道具完成は失敗したも同然なんだよ。僕ら二人じゃどうにもならないことくらい、キミだって理解してるだろう?!」


 現実逃避していた魔道具開発の完成という言葉を出され、ミアの頭に衝撃が走った。

 半ば半死人のようにボーッとしていた記憶がはたと戻り、突然愚者丸出しの顔でエミーネの足にしがみついた。


「え、エミーネ様ぁぁ、どうか、どうか私どもにお力添えを、お力添えをぉぉ!」


 急に態度を変え、涙と鼻水を振り乱し懇願するミアに不気味さを覚え、ゾゾゾと血の気の引いたエミーネは、怯えながらミアを振り払った。しかしゾンビのようにまとわりつくミアに巻き込まれ、エミーネは足を掴まれたまま倒れてしまった。


『あ゛あ゛あ゛あ゛、お、お、お、お助けお゛お゛お゛お゛』


 ミアと同じようにウィルも逆の足にしがみつき泣きじゃくれば、いよいよエミーネも観念するしかなかった。しかし残って作業をするにしても条件があると二人を正座させたエミーネは、とにかく魔法を使えるようになるのが急務だと説教した。


「でもぉ、確かにウィルさんは魔法を使えていた気がしますよぉ。冒険者ランクだってFですし、簡単な魔法くらい使えなきゃおかしいですよ~」


 だからここで採用されたんだと胸を張るウィルに対し、エミーネは改めて腕組みしたまま男の姿を上から下まで見直した。


「どうしたんだいエミーネ、この僕がそんなにイイ男かい? 照れちゃうなぁ」

「……さっきウィルは、犬男さんが『自分の力を封じている』なんて言っていたけど、私と会う前と後で、何か大きな変化はないの。例えば身体的な変化とか、思考の変化とか」

「変化かい? 変化、変化……、…………、うん、ないね」

「本当にちゃんと考えてる?! 少しはあるはずよ。スキルが使いにくいとか、魔法が使いにくいとか、そんな単純なことでもいいから挙げてみて」

「う~ん、そうだね。強いて言えば、適当に魔法を唱えようとすると、具現化するタイミングで体内で全部弾けてしまう感覚というのかな。そんな感じで魔力が消えてしまうんだ」

「消えてしまう? 魔力の体動は感じるのに? だとしたら……」


 (おもむろ)に背後からウィルに手を回したエミーネは、火弾(ファイア)を使ってみてと指示した。背中にエミーネの胸が当たり気が気でないウィルは、バタバタ慌てながら火弾(ファイア)を唱えた。しかし炎は出ず、やはり内部で掻き消されてしまった。


「おかしいわね、確かに魔力は動いてる。なら今度はもっとゆっくり、丁寧に流れが追えるように魔力を動かしてみて」


 顔を真赤にしたウィルは、胸の前で両手を組み、恐る恐る火弾(ファイア)を使ってみた。すると滑らかに移動した魔力は見事に手首を通過し、小さな炎がボトッと地面に落ちた。


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