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【132話】重要なこと


「確かにそうだ。叩いて小さくするだけなら、攻撃手段や威力の高い冒険者の方がよっぽど加工するのに向いてる。なのにそれをやらねぇって……」

「うん、きっと私たちの知らない方法があるのよ。そしてそれを実現するためには、私たちの目の前にあるものを全部使わなきゃいけない」


 二人は寝息を立てる子供たちやモリシン、そして食事準備とこれまでの疲れで目を開けたまま死んだように倒れているミアを見つめ、イチルとゴルドフが用意した環境を頭の中で小分けに細分化した。


「ちょっとずつわかってきたぜ。どうやら肝は()()()()()()。そんなとこか?」

「だね。死ぬほどご飯が食べられる……って。やっぱりアイツ、することがホント人でなし」


 皆が寝ている間に試してみようと、モリシン以外が背を向けて眠っている隙に、思いついた方法をコソコソとすり合わせた二人は、同時にコクンと頷き、手袋を深くはめ直した。


 メタルの山の上から一番小さい欠片を手に取ると、二人羽織のように重なった二人は、自分たちの魔力全てを手袋へ集中させ、それをそのままメタルにまとわせた。


「イメージはさっき伝えたとおりだ、いくぜ!」

「わかってる。ペトラちゃんこそ、しっかり魔力を定着させてよね!」


 手袋の上から魔力をまとわせたメタルを撫で、周囲に力を馴染ませながら薄く均等に伸ばしたペトラは、それらが飛散してしまわぬよう、魔力をテープのようなもので囲うイメージで塗り固めていく。その様子を見ていたモリシンは、すぐに怪訝な表情へと変わり、蚊の鳴くような声で「おいおい」と呟いた。


「なるべく薄く包んでよね。そうでないと、あとで検証しにくいんだから」

「わぁーってるよ、でもそんな簡単じゃねぇんだって!」

「あぁ、そうじゃないよ。ほら、そっちまだ出っ張ってる!」

「うるせぇな、今やってるとこだろ、ああっ!」


 ペトラの手が弾かれ、メタルにまとわせていた魔力が散り、消えてなくなった。

 同時に「あーもう!」と声を上げた二人は、しっかりしてよねと口論のように言い争っていた。

 しかしモリシンと寝たふりをしていたゴルドフだけは、目の前で起きた事実に驚愕していた。


「いやはや、数日前に魔法を覚えたガキが、もう魔力の形成と定着だぁ? ……普通に生きてるこっちが馬鹿らしくなるね、ホントに」


 思わず顔を隠したモリシンは、胸元から取り出した固形食材を握り、二人と同じように魔力でコーティングを試みた。しかし手を離した状態で安定させるのは至難の業で、二人よりもずっと早くパンと弾けて消えてしまった。


「タイプにもよるが、手練(てだれ)の冒険者でもなかなかそうはいかんぜ。まぁ俺は……、細かな制御が得意な部類じゃねぇから仕方ねぇけどもさ。にしても……なんなんだ、このガキ二人は」


 モリシンが隠れて呟いている間にも、魔力が尽きた二人はバタッと床に倒れて転がった。

 肩で息をする二人を頭上から覗き込み、モリシンは「そろそろ仕事だな」と寝ていた面々を叩き起こし、パンパンと手を叩いた。


「さ~てそろそろ飯の時間だ。さっさと食わせてくれ、ほれほれ準備だ!」


 モガモガとアンデッドのように口を動かすミアを立たせ、早くしろとモリシンが急かした。鼻提灯を作りながら半分寝たまま食材を握ったミアは、カクンカクンと揺れながら「へい」と返事をした。


「こりゃあ、うかうかしてると俺まで地獄に落とされそうだ。ったく、運が良いんだか悪いんだか」



 ―― こうしてフレアとペトラが新たな試みに取り組み始めた頃、隣の保管庫で作業を続けていたウィルとエミーネは、順調だった序盤のスピードを失い、ドヨンと沈んだような空気に陥っていた。


 それもそのはずで、エミーネ主体で進めた枠組みの完成までは完璧だったものの、肝心なウィルの持ち場を前に、再びの停滞は起こるべくして起こっていた。


「ちょっとウィル。アナタね、またそんないい加減なことを言い出すわけ?」

「いやだからねエミーネ、何度も言うけど、本当に僕は魔法が使えるんだ。使えるんだけども!」

「けども何? だったら早く使ってみせてよ。いつまでそうやって私を馬鹿にすれば気が済むわけ」

「僕がキミのことを馬鹿にするはずないじゃないか。本当に本当なんだって、信じてくれったら!」


 最後の詰めであるはずのウィルのスキルと魔法は、ダンジョンから戻っても不自由なままだった(同然だが)。しかし理由を知らない二人は、この期に及んでなぜ魔法が使えないのか言い争いをしていた。


「アナタねぇ、自力でベアーを倒したって言うけど、本当は嘘なんでしょ!」

「嘘じゃないさ。歯向かうベアーを、風のように颯爽と倒した僕の勇姿、エミーネにも見せたかったなぁ」

「どうだか。私は倒したベアーの姿も、ウィルが実際に戦った姿も見ていないもの。私が見たのは、ダンジョンの奥でボーッと歩いてたボロボロの姿だけですもんね!」


「そんな~」と泣きついたウィルは、離れてよと突き放すエミーネに甘えて喉を鳴らした。


「でもやっぱりおかしいわよ。だって、あの時もウィルは今と変わらなかったはずでしょ。それなのにおかしなスキルは使えていたし、今だって凝視(スナイプ)は自由自在なわけでしょ?!」


 凝視(スナイプ)という単語を聞き、「あれ?」とウィルが首を傾けた。

 そして最も重要な事実を思い出した。


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