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【128話】意思確認


 漏れ出た光は秒ごとに広がり、ドラゴンの足元を照らしていく。

 意味もわからずその光景を凝視したドラゴンは、全てを忘れたようにかがみ、自分の足先に短い前脚で触れた。


 ひび割れた地面がパカッと裂け、地面全てを光が覆い尽くした。そして光は、その上にある全てを飲み込み、空気を曲げるような音を立てて覆い被さった。



 一瞬だった ――


 地中から這い出た巨大なナニカが、地面に佇む巨大なドラゴンを、パクンと丸飲みにした。

 地面全体を覆っていたのは巨大なナニカの口で、バクンと閉じた口に飲み込まれ、ドラゴンは一瞬にして闇の奥へと沈んでしまった。


 イチルに抱えられ、眼下に広がる異様な光景を眺めていたムザイとロディアは、迂闊に呟いた自分たちの言葉を恥じ、口を噤んだ。あと数秒逃げるのが遅れていれば、自分たちもあの巨大なナニカに丸飲みにされていたと悟り、額から流れ落ちる汗を止められなかった。


「最初っから何かおかしいと思ったんだよな」


 嘆くように呟いたイチルの言葉に、たまらずムザイが聞いた。


「なんだよ、アレは一体なんなんだよ?!」

「こんなに入り組んだおかしなダンジョンなのに、なぜかこの場所だけはモンスターたちが寄り付かなかった。瓦礫深淵ディープラブルの入口でありながら、どれだけ先へ進もうと、冒険者たちの望むものは見つからない。……そりゃそうだよな、みんながみんな、目の前にあったはずの異変を何事もなく見逃してたんだから――」


 再び巨大な口を開けたナニカは、飲み込んだ全てに満足したように、「グギャー」と鼓膜を(つんざ)く叫び声を上げた。両耳を閉じた四人は、閉ざされた空間の天辺で、地面から顔を覗かせる真緑色の化け物を見下ろした。


「まさかメルカバー(ここ)()()()()()()()()()だったなんて……。そりゃ何千年もクリアされないはずだよ。こんな条件、馬鹿げてて普通の奴らじゃ絶対気付かないもん」


 どうやらイチルと同意見であるザンダーが呟いた。頷いたイチルは、眼下で眠そうに佇む巨大なモンスターを警戒しながら付け加えた。


「俺たちがずっと中立地点だと思っていたこの場所。そいつはたんなる冒険者の休憩場所じゃなくて、このダンジョンの主がいる場所だったようだな。他のモンスターどもは、どこかで本能的にわかっていたんだろう。ここは絶対に足を踏み入れちゃいけない空間だと」


 カエルのような巨大な頭をしたモンスターは、身体を半分地面の下に埋めたまま、目玉だけで頭上の四人を覗き見た。しかしまだどこかフラフラと安定せず、固まっていた身体をほぐすようにグログロと喉を鳴らした。


巨大頭蛙ジャイアントヘッドフロッグ、どうやらメルカバー深淵(しんえん)の主であり、この領域のボスだな。しかも最悪なことに、俺たちは図らずも主の間に足を踏み入れてしまった。もう逃げることはできそうもない」


「なッ?!」とロディアとムザイが言葉を詰まらせた直後、大口を開いていたフロッグが長い舌をピュンと発射した。そして一番楽な敵であろうムザイとロディアの身体に巻き付け、恐ろしい力で引っ張った。


「アガッ?!」


 舌には魔力無効化の力が込められており、成す術なく引き込まれた二人が飲み込まれていく。しかしフロッグが口を閉じる目前で、イチルが舌を一閃し、二人を助け出した。


「グハァッ! あ、危な、かった……」


 一瞬にして飲み込まれそうになった二人が、あまりのレベルの違いに呆然とする中、瞬時の判断で救出したイチルは、ピョンピョンと壁を蹴り飛び上がると、二人をザンダーに預けてふぅと息を吐いた。


「冒険者が冒険者たるため、まず始めに覚えること。その一、不用意にダンジョンの主に接触しないこと。(ぬし)は特殊な領域を持っていることが多く、最悪の場合、主を倒すまでダンジョンを出ることができない。その二、ダンジョンに深入りしないこと。初めて入るダンジョンは、自分の思っている以上に危険でトラップも多い。極力無駄な行動を慎み、目的だけを遂行すること。その三……」

「もういい、結局何が言いたいんだよ!」


 ムザイが間に耐えられず口を挟んだ。イチルはバツが悪そうな顔をして言った。


「俺としたことが、初歩中の初歩を全部破っていたなぁと。いや、案内人(アライバル)をしていた頃は、そんなことなかったんだぞ。……最近ずっとランドでサボってたからさぁ」

「どっちにしても、もう選択肢は一つっすよ、師匠。ダンジョンに深入りして、不用意に主に接近しちゃったら、どうなるんでしたっけ?!」


 二人を抱えたザンダーが、びくともしない天井の結界に触れながら、冷や汗を流し付け加えた。


「どうやら進むことも逃げることも無理そうね。困った困った」


 中立地点の地下に眠るフロッグとの戦闘条件が、『フロッグの餌となるモンスターを帯同すること』だったのだと悟ったイチルとザンダーは、図らずも自分たちが主の間に入っていたことに気付いていた。こうなってしまえば、結論は二つに一つしかない。

 フロッグに敗れて永遠の藻屑と消えるか、フロッグを倒しダンジョンを脱出するか、の二択である。


巨大頭蛙ジャイアントヘッドフロッグは本来ならSランクのモンスターですけど、アイツは普通のサイズじゃありません。この地下で何千年も成長し続け、恐ろしいサイズに膨れ上がった化け物になってます。特S……、下手するとSSランクのモンスターになっているかも?!」


 ザンダーの言葉を否定できず目を細めたイチルは、未だ眠そうに底で顔半分を出した状態で佇むフロッグを見つめた。


 どうやらまだ半覚醒状態のフロッグは、寝ぼけたように口の中のドラゴンを咀嚼しながら、次の餌となる魔力の塊を、ボーッと目で追っているようだった。


「ザンダー。お前、奴とヤッてみたいか?」

「やってみたい……と言いたいとこっすけど、正直勝てる気しないっす。というより、まさか僕らアライバルが、(ぬし)と戦うなんて想定してないっすもん」

「しかし俺たちの誰かが奴を倒さないと、ここから出ることはできない。しかも境界を閉じられちまったから、仲間を呼ぶことすらできねぇときたもんだ」


 引きつった顔のムザイとロディアを一瞥し、イチルは二人にやらせてみるかと思案した。

 しかしどれだけ考えたところで勝つ絵は想像できず、仕方ないかとため息をついた。


「……なぁ三人とも。一つ確認させてもらえるか」


 イチルが三人にだけ聞こえるような小さな声で尋ねた。


「これからここで見たこと、()()()()()()()()()()?」


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