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【124話】必死な二人


「ドラゴンの頭上に閃光弾を撃て!」


 突然聞こえた声に驚き、ムザイは思わず右目を開いていた。そこにはドラゴンの頭上に飛び上がったロディアがおり、「早くッ!」と言葉を荒らげた。


「閃光弾……? 照明(フラッシュ)の、ことか。そんな、もの、撃って、どうする」


 しかしムザイの右腕は、まるでひとりでに動くように円を描き、突進してくるドラゴンの頭上へ小さな玉を発射していた。待ってましたとばかり、ドラゴンの頭上で激しく回転したロディアは、その勢いのままオーバヘッドキックの要領で眼下のドラゴンへ向けて玉を蹴り落とした。


「……え?」


 美しい弧を描き反転した玉は、ドラゴンの頭上で爆ぜ、閃光となって弾けた。

 すると一直線に突進をしていたドラゴンが突然体勢を崩し、角度を数度下げた。そしてそのままムザイの足元へ突っ込むと、誰もいない壁に衝突した。


「な、……バカな、攻撃が、外れた?」


 体勢を崩したせいで壁に刺さったドラゴンがもがく中、空気の壁を蹴ってムザイに近付いたロディアは、右手の指先だけをどうにか動かし、ムザイを壁から引っ張り出した。

 しかしそれだけで限界を迎えてしまったロディアは、ムザイの肩にもたれかかるように顔から突っ伏し倒れた。


「お、お前……」

「まだだ。まだ勝負は終わっていない。最後まで諦めるな馬鹿野郎!」


 下唇を噛んだまま、死物狂いで顔を上げたロディアは、耳元へ顔を寄せ、「私を背負え」と指示した。それでも拒否しようとするムザイだったが、命を削り「早くしろ!」とダメ押しするロディアの迫力にやられ、仕方なく彼女を背負った。


「私はもう全ての力を使い果たし一歩も動けない。しかし頭の中だけなら、ムザイの五倍、いや、十倍は速く動ける。私の言うとおりに動け!」

「な、何をバカな……? Gランクの貴様が、私に指示など――」

「左前方より無数の鱗。閃光弾で左へ流しつつ、煙に紛れ、ドラゴンと距離を取れ!」


 全てが不服なムザイだったが、もはや迷っている暇はなかった。

 言われるまま照明(フラッシュ)を放ったムザイは、わざわざ視界を遮るように多量の煙を立てながら、前方左半分の視界を奪いつつ、煙の中に身を隠した。


「いや、無駄だ。奴は凝視(スナイプ)を使う。煙の中でも、私のシルエットを掴むことができるはずだ」

「あらそう、でもそれが何? ほらほら追撃がくるわよ。次は攻撃を躱しながら、閃光弾を煙の中にいくつか用意して!」


 鱗のカッターをどうにかギリギリのところで躱し、言われるまま無数の玉を煙の中に浮かせたムザイは、肩で呼吸しながら「次は?!」と叫んだ。


「自分でどうにかするんじゃなかったの?」

「そんなこと言ってる場合か。くそっ、アイツ、もう壁から出てきやがった」


 壁に埋もれたまま遠隔で鱗を飛ばしていたドラゴンが、体勢を整え再び飛び上がった。しかし二人は煙った壁際で身を潜めており、普通の目視では居場所がわからなかった。

 ならばとドラゴンが凝視(スナイプ)を使った。しかし煙の中には無数の玉が所狭しと浮いており、ムザイがどこにいるか、はっきりとはわからなかった。


『 ゴギャアアアアア! 』


 苛立ったドラゴンが、ならば全部撃ち壊すまでと、煙が漂う領域全てを破壊するため、再び助走をつけて羽ばたいた。その一瞬を見逃さないロディアは、ムザイの背中でニヤリと笑い、何かを耳打ちした。


「バカな?! そんなもの、上手くいくはずが……」

「必ずいくわ。さっきのアイツの動きを見て確信した。アイツは必ず私の思うとおりに動く」


 もう破れかぶれだと可能な限り照明(フラッシュ)の玉を作ったムザイは、無数に揺れる影の中で身を隠した。そして超スピードで接近するドラゴンをギリギリまで待った。そして――


「今よ、一番大きな玉をこの場で爆発させるの!」


 ボンッと音を立てて照明(フラッシュ)が爆ぜた。

 眩い光を放った玉は、煙をまるでスクリーンのように利用し、中に無数の怪しい影を作り出した。


 その光景を目の前で見たドラゴンは、思わず翼を折り曲げて速度を落とした。しかし止まり切ることはできず、そのまま照明(フラッシュ)の海へと突進した。


 ドラゴンの身体に触れた照明(フラッシュ)が次々に爆ぜ、煙と(おびただ)しい光を放った。次第に膨らんでいく怪しい影は、巨大なモンスターのように形を変え、ドラゴンの頭上にもくもくと広がった。

 スピードを落としていたことで、ドラゴンは衝突することなく反転し壁を蹴った。しかしぶつかったはずの二人に触った手応えがなく、キョロキョロと首を振ったドラゴンは、凝視(スナイプ)で二人の行方を探した。


「ふむ、やはりな。実力はまだまだでも、脳ミソ()()ならムザイを余裕で飛び越える。もしその二人が組めば――」


 呟いたイチルがクククと笑った。

 消えてしまった二人はどこだと、ドラゴンがさらに激しく首を振った。しかし一向に姿を現さず、全ての煙が消えても姿はどこにも見当たらなかった。


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