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【104話】フレア・ペトラ編その15


 姿を見せたのは、結わえられた髪のぼんぼりを頭にのせ、視覚拡張器(※眼鏡のようなもの)をした小さな女だった。


 力仕事でもしているのか、繋ぎの汚れた作業着を着た女は、目の前に立つ背丈が倍ほどもあるモリシンに気後れすることなく、「どのような御用件で?」と質問した。


「女、のドワーフ。いやしかし、なぜこんなところにドワーフが」

「なにアンタ、お客さんじゃないの。……って、あれ嘘。もしかして、上の泉の水、なくなってない?!」


 モリシンを押しのけ穴の上を見上げた女は、水がなくなった様を確認し、「あちゃ~」と顔を抑えた。困惑する三人+一匹をよそに、「ま、仕方ないか」といい加減に切り替えた女は、パッと態度を改め皆を中へ招いた。


「まぁまぁ、とにかく入んなさいな。話はそれからそれから!」


 全員の背中を押して中に入れた女は、パタンと扉を閉めるなり、「いらっしゃいませ」と挨拶し会釈をした。


「いらっしゃい?」と首を捻る三人をそのまま強引に奥へと誘い、女は雑然と並べられた作業用の道具箱を品なく足で端へ寄せながら、ホコリまるけの一角に壊れそうな椅子を並べて座らせた。


「これなんなんだよ。ダンジョンじゃなかったのか?」

「こっちはダンジョンのつもりで入ったんだ、ドワーフ女がいるなんて聞いてねぇ」


 ペトラとモリシンが口論している間に、さっさと魔法で湯を温めた女は、使われていなさそうなコップにクク湯を注ぎ、引きずって運んできた小さな台の上に乗せ、人数分を並べた。


「粗茶ですがドゾ~。ウチの純水使ってるから美味しいよ、味わってみ」


 ニコリと微笑んだ女に言われるまま、フレアがコップに口を付けた。

「おい」と警戒するペトラとモリシンが目を丸くする中、一口ゴクンと飲み込んだフレアは、パァと顔を明るくし「美味しい」と顔を赤らめた。


「だしょ~? ウチの純水はそこらのもんとわけが違うわけ。親方が開発した濾過(ろか)装置の力は絶大よ!」


 腕まくりして力こぶを作った女は、もっと飲んでとフレアのコップに湯を足した。しかし流石に黙っていられず、隣に座っていたフレアとモリシンが同時にツッコミを入れた。


「いやいやいや、そもそもお前誰だよ?!」

「いきなり侵入者に茶を勧めるダンジョンなどあってたまるか!」


 二人のツッコミにポカーンと口を開けた女は、少し考えを巡らせ、ポンと手を叩き、結わえられていた髪紐を解いた。

 手入れの届いていないパサついた茶色の髪が、肩に触れると同時、爆発するように四方八方へ広がった。そして数秒後、アフロのようにサイズを増した髪をポンポンと丸く揃えてから、キッと表情を整えて言った。


「これでよろしいでしょうか?」


『何が?』という全員の疑問が扉を通り越し森へ抜けていく。

 しばし無の時間が続いてから、仕方なくフレアが手を挙げて質問し直した。


「あの、こちらはどういった場所なのでしょうか。私たち、ここがダンジョンだと思ってやってきたのですが、どうやら様子が違うようでして」


 ポーンポーンと頭の形を整え、女はまたフレアの質問を咀嚼し噛み砕いた。

 そして粉々に噛み砕き、すり潰し、完璧に濾過するところまでサラサラにした上で、全てをポーンと投げ飛ばして言った。


「ハハハ~、そうだったんすか、大変すね~」

「いや、ですから大変とかではなく……」


 フレアが困惑の色を隠せずにいると、また奥からガタンと音が鳴った。

 ペトラとモリシンが警戒して身構えるが、音の主はまるで無警戒に四人を覗くなり、躊躇なく怒りの雷を落とした。


「ゴォラァ、チャマル、お前また上の水瓶(みずがめ)干からびさせやがったな、今度という今度はただじゃおかねぇぞバカタレ!」


 三人の肩がビクッと震えた。しかしそれ以上にビシッと背筋を正した女は、「すみません()()!」と目を瞑りながら反省の弁を述べた。


「ったく、テメェはいつもそうだ。事あるごとに水を切らしちゃあ、簡単に作業を止めやがる。それじゃ大事な商品もすぐダメに……って、誰だお前ら?」


 奥から姿を現したのは、チャマルの髪をさらに倍ほど膨らませたような頭をした男のドワーフだった。

 種族特有の筋骨隆々の肉体はそのままに、ジャラジャラとした金属製の装備を全身に身に着けた髭面の男は、値踏みするように三人を眺めてから、「もしかして客か?」と確認するように言った。


「あ、あの、私たち、ここがダンジョンだと思ってやってきたんです。ですが、どうもそうではない様子で」

「ダンジョン……? おいチャマル、いつからウチはダンジョンになった」

「なってませんよ。急にどうしたんですか。あ、親方もそろそろ歳のせいで頭が……」


 ゴツンとチャマルの頭を殴った親方は、フレアの前に立つなり「ウチのバカが失礼を」と侘びた。


「残念だが、ウチはダンジョンでなく()()だ。こうして数百年、この地で酒を作り続けておる」


「そうであります!」とチャマルが敬礼しながら叫んだ。

 親方がもう一発チャマルを殴る間にも、(おもむろ)に目つきを変えたモリシンがフレアと親方の間に割って入った。


「いやいや、残念なんて思うはずがねぇ。俺たちは、そもそもこの地にあるってぇ酒を手に入れるためにやってきたんだ。ここが酒屋であって、一体誰が困ろうか。だよな♪」


 見るからに機嫌が良さそうなモリシンがペトラに話を振った。しかしそれを余裕で無視したペトラは、それならそれで話が早いとゴルドフの瓶を取り出した。


「そういうことなら話が早いぜ。実はこの瓶に入るだけ酒がほしいんだ」


 瓶を受け取った親方は、その瓶の形状と、それを持つペトラの顔とを見比べながら、これまでにない険しい顔をして言った。


「オメェ……、コイツをどこで……?」


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