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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

退屈。ボトルメール。

作者: くろすふぉーど。

駄文定期。

 愛知県Y町の海辺、そこには太陽の光を反射しチラリと輝くガラス瓶が地平線へと消えていくのをじっと見つめる一人の女性の姿があった。何かしら病を患っているのだろう、特に外傷は無くしかし清潔色のする病衣を着付けた女性は暫くガラス瓶の行方を目で追って、唐突にほうと一つため息をつくと、帰路に就いた。この一連の行動は女性にとってここ最近の些細な娯楽であった。

 つい四半期程前代わり映えのしない入院生活に時間を持て余した女性は遂に我慢の限界を迎え、病院近くの海を見に一人海辺に繰り出したのである。さて着いたは良いもののやることもなく女性は呆然として、押しては返す波を眺めていた。小一時間ほどたちふと波打ち際に流れ着いた一本のガラス瓶に気が付いた。女性は数分ガラス瓶を何とはなしに注視するハッと豆鉄砲を打たれたかのような間抜けな顔をした。女性は今より一刻程の暇をつぶす良案を思いついたのである。

 女性は早速病院に戻り、売店で一本のシャープペンシル、そして一冊のノートを購入し海辺へと急ぎもどった。海辺につくと女性はノートを開き、今日の日付、一日の出来事、そして最後の行に

「宜しくお願いします。」

と殊更大きな文字で書き記すと少し考え、ノートを丸め、自身の髪留めのゴムで括り、流れ着いたガラス瓶の中に詰め入れたのだ。そう、ボトルメールである。女性はノートの入れられたガラス瓶を満足げに見つめると海に投げ入れた。女性は波にさらわれ沖に流れていくガラス瓶を暫く眺めると、一つ息を溢し、病院に帰っていった。女性にとってガラス瓶が誰かの手に届こうが届くまいがどうでも良いことなのだ。なんせ誰かに届いたとしてそれを知るすべを女性は持ち合わせていないのだから。届いて名も知らぬ誰かの退屈しのぎになれば良し、届かずともこの一刻程はここ数年で最も心躍る時間になったので其れも良し、女性は思った以上に楽しい時間を過ごせ、大満足であった。

 それから1日空き、その日も女性は時間を持て余していた。そんな中ふと一昨日の出来事が頭に浮かび、海辺に行けばまた新たな暇つぶしが見つかるのではと考えつき、早速と海辺に繰り出していった。海辺に着いた女性は驚きにアッと声を上げ一目散に波打ち際に向かった。そこには海に流されていった筈のガラス瓶が転がっていたのである。

 もしや返事が書かれているのではと大慌てでノートを取り出して見てみる。しかし、やはりそこには何も返事が書かれていなかった。女性は少しがっかりとしていた。それというのも女性はこのノートに対し、非日常的体験を与えてくれるかもしれないと無意識に期待していたのだ。

 しばらくし、女性は気を取り直してノートに新しく今日の出来事書いていった。どのような理屈かはわからないが、海に流したガラス瓶が戻ってくるというなら、試しに戻ってこなくなるまで日記として続けてみようと考えたのだ。女性は万が一自分以外の者にこのノートが渡った際のことを考え、ノートの右半分を開けることで交換日記の体を取ることにした。そして女性は日記を書き終えると、ガラス瓶に元のようにし、また海に流した。

 ガラス瓶が流れていくのを見送ると、女性は楽しそうな笑みを浮かべながら帰路に就いた。女性の心内が先日まで抱いていた退屈感はもう綺麗さっぱりと消え失せていた。


予定は未定。

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