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エピローグ:岸壁の港町へ

 ――。

 グリンツ氏とロステル氏、そしてドウツキが寝静まった後、私は静かに外の景色を見つめていた。


「ニューロちゃんに似て、優しい子だね」


 ふと、クローディアが頬杖をついて、ドウツキを見ていることに気が付いた。私は静かに同意の頷きを示した。


「ええ。それに、トールに似て勇気があり、よく思考します」

「なんだか二人の子どもみたいだね」


 彼女が慈しみの眼差しでドウツキを見て、微笑んでいる。私が片方の手の指で頬を持ち上げて、共感を示すと、彼女は私にも笑いかける。しかし、次に彼女が眠るドウツキに向けて見せたのは、彼女が真剣に物事を考える時の思案の眼差しだ。


「ニュース聞いたよ。彼と一緒に行動しているのは、やっぱり……まだ彼が狙われるかもしれないからだね?」

「それがないとは言いません」

「いつまでも隠せるわけじゃないよ」

「……ええ」


 私には言わなければならないことがある。しかし、まだドウツキに語るには、私の回路が追い付かない。躯体は恐怖で震え、緊張で強張る。真実を語るに邪魔な感情を追い払うことが、私にはできない。


「ただ、極めて人間的な、兄としての矜持とやらに動かされているのも事実です。そればかりではありません」

「気持ちは分かるけど、辛くない? 弟が死んでいくのを看取る旅なんでしょ、それ」


 クローディアは私のトランクを見た。その中にある弟たちの名簿のことを言っているのだと私は理解する。


「そうですね。思うよりは堪えます」


 私を基本として製造されたMid_Birdの名を冠した弟たち。それは、改造によって長く稼働してきた私よりも、はるかに脆い。死体の消息や伝聞を掴めればまだよい方で、もう長いこと行方知れずの者もいる。それを思うと、プログラムは私に深い悲しみを提示する。


「けれど、私がしたくてしているのです。気にしないでください」


 私の視線の先にはドウツキが眠っている。クローディアは彼と私を見比べる。


「そっか。……あたしね、みーくんが誰かを連れて歩いているって知った時、正直ほっとしたんだ」


 彼女は私を見て、にっと笑う。女性の中に、少年少女のような無邪気さの詰まった笑みは、彼女特有のものだ。


「ほんと一時期のみーくん、怖かったよ。あれはあれでかっこよかったけど、あたし、今のみーくんの方が好きだよ」

「ありがとうございます」


 私は努めて平坦な声を出した。


「あっ、照れた?」

「照れていません」

「照れたでしょ」

「顔を見ないでください」


 私はクローディアのように、感情を出すことが得意ではない。そこに自分に備えられた人間性を感じるというのもある。が、自分の回路から、どのように表現していいか分からない衝動が沸き上がることが苦手だ。私の回路というものは、私という自我を超えた反応をする。すべてをおとぎ話のアンドロイドたちのように、論理的に済ませることができない。それが、たまらなく辛いことがある。

 そう、グリンツ氏にクローディアを操られ、ドウツキを機能停止寸前に追い込まれた時のように。あるいは、弟たちを看取ってきた時や、関係者が危機に陥った時のように。

 誰より私は人間でありたくないと思うのに、私はこんなにも人間に似ている。機械になりきれない。非情に徹しきれない。こころが、動いてしまう。それを誰かに見せるのが、辛い。


「……大事にしなよ。二人の忘れ形見」

「そうします」


 淡々と告げる私を、クローディアはただただ、ドウツキを見るのと同じ慈しみの眼差しで見ていた。


「そろそろかな」


 彼女の言葉で外を見ると、岸壁の合間に階段のように作り上げられた都市が近づいてくるのが見えた。あれこそ、『岸壁の港町』。宇宙を漕ぐ船でやってきて、魔法と機械を融合させた、人間たちの拠点。何も変わらぬ様子に、私は安堵し、口を開く。


「――ドウツキ、もうすぐ着きますよ」


 今日も岸壁の港町の潮風は、眼下の草原を揺らしている。

第二章はこれで終了になります。第三章もよろしくお願いします。

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