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 大日本帝国陸軍三万人、シャム王国軍二万人、そして私達ポルトガル領ティモール警備隊二千人は、フランス北部はソンムで計画されている大攻勢の時、一団として運用することが決められていた。

「借り物の軍でありますな」

 岡市之助中将が苦笑する。

「それも仕方あるまい」

 チャクラポン・プワナット元帥が岡中将をたしなめる。

「物資の消耗ものすごいですからねえ」

 私が言うと、二人は深々と頷いた。


 いつの間にか『アジア兵団』と呼ばれるようになった私達三カ国の武装は、ほぼイギリスからの支給品だった。

 拳銃、小銃、サーベルに銃剣、大砲に機関銃に馬車。ナイフにスコップにガスマスク。

 自国から持ってきているものは軍服と軍靴。あとは大日本帝国陸軍の日本刀と警備隊の迫撃砲本体一〇〇門位なもので。その迫撃砲だって、アジア兵団の合同訓練だけで弾薬が足りなくなり、弾薬と本体の生産を宗主国ポルトガルにお願いしているという有り様なのだ。

「で、予定通りいくと思うか?」

「無理でしょ」

「無理だと愚考するであります」

「だよな」

 アジア兵団上層部のソンム攻勢に関する意見は一致していた。

「移動弾幕射撃か? あれオスマン軍にやられたが、塹壕陣地がしっかりしていればほぼ無意味だったぞ?」

 プワナット元帥が、実戦経験から来る説得力に溢れる言葉を告げる。

「あれって『先鋒の前進に合わせて砲撃地点を前進させる』訳だけど、弾幕自体がばらけるものなのに、どうやって先鋒に合わせるつもりなのか謎ですよね」

「一方的な航空優勢を取れば可能性はあるでありましょうが……」

 私と岡中将も、机上演習やそれぞれの経験から分かっていることを言う。

「つまり、『移動弾幕射撃』よりも良い戦術があるなら、突出し過ぎない程度に実行する方が良さそうですね」

「ほう」

「あるのでありますか?」

 プワナット元帥と岡中将が私に注目する。

「一応、理論だけはイギリスとフランスに上げたものが、ね」

 その戦術は。

「敵を混乱させることを目的とした砲撃を、短時間、強烈に行った直後に歩兵で突撃。敵の抵抗の激しいところはひたすら迂回して、弱点を突破し続けて補給の続く限りひたすら前進する。後ろに回り込まれた陣地は補給と連絡が途切れることで、勝手に崩壊して後退するか降伏するかする」

 名付けるならば。

「敵の防御の穴に浸透していくから、『浸透戦術』ってところかな?」

「浸透戦術……」

「浸透戦術か……」

 二人は顔を見合わせる。

「それが連合軍に採用されていない理由は?」

 プワナット元帥が尤もな問いかけをする。

「『前線で兵を率いたことのないアジア人が何を言ってる!』だってさ」

 そう吐き捨てると、二人はなんとも言えない表情を浮かべた。

「弾丸は人種を選ばないのでありますよ……」

 岡中将がぼやく。日清・日露戦争に従軍した方が言うと説得力が違うね。

「だが、それは効果的だろうな。我らだけでもやろう」

 プワナット元帥はワクワクした表情で言う。

「待つのであります! ただやるにしても工夫は必要であります!」

 岡中将が嬉しそうに言う。

「敵を混乱させることが目的なら、夜にやるのが手っ取り早いのであります! 本官は、未明からかわたれ時の実行を推奨するであります」

「ソンム攻勢は明け方からの予定だっけ?『夜討ち朝駆けは武士の習い』とは聞くけど」


 本当にやる?


 尋ねると、二人は心底嬉しそうに頷いた。

「我々は何の期待もされていない。後詰の印象からしてそうであろう?」

「我らをアジア人だからと期待していない連中に一泡ふかせてやるのであります!」

 二人の目は爛々と輝いている。そうだ。

「ヨーロッパ人達にアジア人を認めさせるために、私達はここに来たんですもんね」

 私達三人は頷く。

「よしやろう。責任は私が取る」

 そう言うと。

「いや、本官が取るのであります!」

 と岡中将が言う。

「面目上のアジア兵団の団長は、本官であります。ならば、責任を取るのは本官の仕事」

「いや、我が取る」

 プワナット元帥が割り込む。

「我はこれでも王族だ。国際的な発言力は、我が最も持っている。連合軍も、責任を負わせやすかろう」

 まあ、こうなるのは分かっていた。

 責任を取る、ということは、その名誉も得ることだからだ。国際的な発言力が欲しくてやって来た私達なんだから、この名誉は何よりも欲しい。

「ならこうしよう。私達三人で、それぞれ責任を取るのです」

「ほほう?」

「最後まで話を聞いてね? まず、この作戦の先鋒は私達警備隊が務める。この戦術のための訓練をずっとやって来たからね。中堅の突破口を維持するのは日本陸軍。これは数が必要だし、そこそこ前に出る必要があるから。シャム陸軍は後詰。とはいっても、私達は精々五万ちょっとしかいないから、すぐ出番が来るよ? で、文句を付けられたら『私達三人の発案』ってことにすればいい」

 二人は私の提案を咀嚼し。

「……いいのか?」

 プワナット元帥が発言する。

「その戦術では、警備隊は全滅するぞ?」

 塹壕戦の厳しさを知るからこその発言だろう。でも。


「構わない」


 私は即答する。

「私達警備隊は、死にに来たの。死んで、故郷の自治を得るために来たの。だから、何の問題も無い」

 二人は絶句した。

「……意見はない? なら、これでいこう」

 そう私は纏めた。

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