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 『クリスマス休戦』の時、塹壕を越えた私達はものすごく怒られた。それはもう司令部はカンカンで、打ち捨てられていた死体を処理していなかったら軍法会議にかけられていたであろうほどだ。


 という訳で、しょんぼりしつつも翌日から手足を切り落とすだけの簡単なお仕事に従事する。

 戦況は連合軍が微妙に負けていて、一進一退しながらじりじりとパリへ押されている。

 特に効いたのはドイツ軍の毒ガス攻撃だ。この攻撃はハーグ陸戦条約に違反している。けれど、話を聞いていると先に毒ガスの開発を始めたのはフランスな上に、ドイツが毒ガスを使ってすぐに毒ガスで報復攻撃をしている。だからか、どちらが悪いという話ではないように感じる。

(ドイツに先に使わせて、汚名を着せたんだろうなあ)


 それはさておき。

 押されている、ということは撤退している訳で、私の仕事の中には負傷兵を野戦病院もしくはそこまでの運搬手段まで運ぶ、というものがある。

 つまりまあ、情報伝達のミスで何度か戦場に立った訳だ。銃剣突撃をサーベルで迎え撃つこと六回。拳銃の存在を覚えていた二回。そのうち七回ドイツ軍は足を止め。そのうち五回、私の活躍によりドイツ軍の突撃が止まった、ということにされた。『ドイツ軍は植民地人の、それも女に負けるぞ!』という典型的なプロパガンダだ。

 『オフィシエ』という『レジオン・ドヌール勲章』を貰ったけれど、付けると目立つので念のための遺品のひとつとして預けている。

 一方のドイツだけれど、何を思ったのか『ルシア・ベント大尉が勲章を貰うのは当たり前のことだ』とした上で。『その武功敵ながら見事也』と『プール・ル・メリット勲章』を私に寄越してきた。

 スイス経由で送られてきた青い勲章を前に『牧歌的な戦争だなあ』と現実逃避した私は悪くない。


 ともかく。

 敵味方の両方から勲章を貰うという偉業を成し遂げた私は、まだ戦場に来ないポルトガル本国から『警備隊少佐』に昇進させた、という連絡を受けた。

 仲間を率いて戦っていないのに昇進してしまった私は悩んだものの、負傷兵の手足を切り落としていたらそんな悩みはどこかに行った。

 その仲間だけれど、医療部隊の補助としてやって来た八人のうち、今も生存している五名が、先日イギリスから『ミリタリー・メダル勲章』を、私が『ミリタリー・クロス勲章』を貰った。補助役達は塹壕の中でドイツ軍の突撃を狙撃で何度か迎え撃ったので、まあ納得だけれど。案の定全員遺品用にと預けているのが笑える。

 これだけ勲章を乱発しているのは、それだけの激戦が日々繰り広げられていることと、そうでもしないと士気が維持出来ないからだろう。けれど、前線では勲章なんて何の役にも立たないため、有り難がる兵士は少数派だった。

 私達は『国際的な発言力を手に入れる』ために遥々ヨーロッパまで来たので、その目的を果たしつつあると喜んでいるけれど。


 そんな一九一五年末。ポルトガル領ティモール警備隊のフランスの後方警備に当たる人数が二〇〇〇人(!)を越えたある日。私はフランス軍令部に呼び出され、とある面々と会談することとなった。


「大日本帝国陸軍遣欧州軍司令官、岡市之助中将であります!」

「シャム王国陸軍遣ヨーロッパ軍司令官、チャクラポン・プワナット元帥だ」

 ……もう滅茶苦茶だよ。大日本帝国が第一次世界大戦のヨーロッパ戦線に陸軍を派遣なんてしてないはずなのに。

「……ポルトガル領ティモール警備隊遣ヨーロッパ隊隊長、ルシア・ベント少佐です」

「武勇はアジアまで聞こえているのであります!」

 そうキラキラした目で見ないで岡中将。本当、大したことしてないんだから。

「それを言うなら、シャム王国陸軍の活躍もめざましいものでしょう?」

 シャム王国陸軍は二万人の兵士でスエズ運河をイギリス軍と共に防衛し、オスマン軍の侵攻をはね除けたことで一躍有名となっていた。

「そうでもない」

 プワナット元帥は困った表情で答える。

(なるほどね)

 その表情に、私は悟った。

(私と同じで、プロパガンダに使われたのね)

 それならこの表情も納得のものだ。

「それでも、ほぼ全員がヨーロッパ流の戦闘を経験しているのは、この中でシャム王国陸軍だけです。ティモール警備隊なんて、ほとんどが後方で警邏に従事していましたので。ご指導よろしくお願いします」

 頭を下げると「任せろ」とプワナット元帥は頷いた。

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