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 一九一四年六月二十八日日。オーストリアはサラエボで、オーストリアハンガリー皇太子であるフランツ・フェルディナントとその妻ゾフィー・ホテクがボスニア系セルビア人の青年に暗殺された。

 このニュースが飛び込んで来てからのポルトガル領ティモールの動きは速かった。

 まず領内から協商軍への『義勇兵』を募り。これに五百名が志願。そのうちの警備隊員一〇〇名は『長期休暇』を取り、警備隊員以外に銃を扱える五十名と共にパーム油を詰め込んだ輸送船に乗り込んでヨーロッパを目指す。

 この、七月二十日の出発の際。演説を頼まれたので、下手くそな演説もしてみた。




『親愛なるティモールの同志よ。まず君達には言っておかねばならない。

 これから行く先にあるのは、泥と『死』だけだ。名誉も、華々しい戦いもありはしない。ただ殺し、殺されるためだけに、我々はヨーロッパまで行くのだ。

 それでも同志達よ。胸を張れ。顔を上げろ。


 我らの血と屍の上に、我らの旗は翻るだろう。


 これまで故郷のために流れた血と涙を引き継ぐのだ。

 これまで故郷のために倒れた先祖を越えていくのだ。


 そのために! 同志達よ!


 死んでくれるか!?


 殺してくれるか!?


 無名の存在として、名誉無く消えてくれるか!?


 我らの屍の上に! 故郷は独立する!


 そのために! 死ねるか!?』


 ここで、見送りの人を含めて、耳が痛い程の歓声が上がった。


『よろしい! ならば死のう!


 故郷よ! さよならだ!


 次会うことがあれば、我らの旗を掲げてくれ!』


 大興奮のまま、私達は港を出た。




 故郷に残る三五〇名の志願兵は銃の扱いや応急手当を学び、第二陣として準備をしてもらう。

 次にフランスと連絡を取り合い、一五〇名の『旅行者』の受け入れの許可をもらう。ちょっと戦場へ旅行に行く人達だ。何も間違ってはいない。

 あっさりと許可は貰うことが出来、私達は無事インド洋を進み、七月二十八日のオーストリアハンガリーのサラエボへの宣戦布告をもって、私達は『旅行者』から『同盟国への援軍』となり、正式に階級を名乗れるようになった。


 インド洋上にて。八月二日。私達は予想もしていなかった人達と合流した。

「大日本帝国海軍第二特務艦隊司令官、佐藤皐蔵大佐です」

「シャム王国陸軍遣ヨーロッパ軍司令官、チャクラポン・プワナット元帥だ」

 ……なんか歴史が変わっている気がする。

「……ポルトガル領ティモール警備隊遣ヨーロッパ隊隊長、ルシア・ベント大尉です」

 これでも、『ヨーロッパに行くなら見栄が必要だろう』と中尉から昇進したのに。片やアジアの大国大日本帝国ご自慢の艦隊の司令官、片やアジアの数少ない独立国の王族となれば、見劣りも甚だしい。一応ポルトガルの貴族の家系らしいけど、彼らの前には霞んでしまう。

 彼らと握手を交わした後、私達は雑談に興じる。

「しかし、あなた方の国程発展していれば、しがらみも多いでしょうに。中々素早い動きですね」

「ああ。それは君達のお陰だ」

「私達の?」

 プワナット元帥の言葉に首を傾げる。思い当たる節がなかったからだ。

「佐藤大佐とも話していたのだがね。君達ティモールの人々が、植民地人でありながら遥々ヨーロッパまで行くのだ。その理由に予想が付いた途端、乗らねばと思った訳だ」

「アンジェロ・ベント総督はやり手のようですね」

 なるほど。彼らとその関係者は気付いていたのか。

「君達は、中央同盟と協商国の戦争が長引いた上で協商国が勝つと踏んだ訳だ。そうなると、たとえ少数といえど、義勇兵を早期から派遣していた実績は無視出来なくなる。そうして国際的な発言力を得るつもりなのだろう?」

「ご明察です」

「それに、君達の宗主国ポルトガルはまだ動いていない。なのに植民地の方が速く動いたとなれば、ポルトガルの評判も落ちる。そうして狙うは、独立もしくは自治権の拡大。違うか?」

 これは言い逃れ出来ないようだ。

「その通り。私達は、自治権の拡大を目指して義勇兵となりました」

 本当は独立が目標だけれど、下手なことは言えないのでそういうことにしておく。ここは故郷じゃないからね。

「国際的な影響力は私共大日本帝国も欲しいものですので、こうして足の速い艦隊だけでも、と派遣することにした次第です」

「それに我がシャム王国も便乗させてもらった訳だ」

 流石このヨーロッパ列強が世界を支配している時代の有色人種の国家運営に関わる人達だ。前世の記憶なんてインチキで戦っている私とは役者が違う。

「これはうかうかしていられませんね。頑張らないと」

「それはこちらの台詞ですよ」

 佐藤大佐の言葉に笑いあうも、内心は冷や冷やしていた。

 これは、私達の発言力が予想以下になるかもしれない、と。

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