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我らの旗を掲げよ  作者: ネムノキ


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14/14

終わり、そして始まり

 『バッキンガム条約』にて、ドイツ賠償金の千五百億金マルクのうち、ポルトガルが〇,八パーセント、ティモール自治領が〇,二パーセントを受け取ることとなり。またその後の交渉で、賠償金の代わりに工業製品の物納を可としたことから、ポルトガル本国の工業事情が改善され。ティモール自治領も、やっと工業に手を出せるようになった。

「ティモール自治領の国旗、こうなったんだ」

 ティモールに帰還する船は、賠償金代わりの工業機械とドイツ人の技師も乗っている。この工業機械が、ティモールの未来を作ると思うと、嬉しくなると同時に悲しくなり、胸が締め付けられる思いがする。

「……これが結果、よね」

 第一次世界大戦中、ティモールが派遣した軍人は延べ二千三百人。生還したのは百二十人。

 ティモール遣ヨーロッパ部隊は全滅し、代わりに故郷は自治権の大幅な拡大に成功した。

「これで、良かったんだ」

 私は、一室に積み上げられた、同胞の入った沢山の箱を前に、そう言うしかなかった。

 残念なことに、ひっじょーに残念なことに、私は戦死出来なかった。生き残ってしまった。「私も死ぬ」と言って彼らを死地に追いやったのに、おめおめと生きて帰ってきてしまった。

 私は、死ぬのは怖くなかった。同胞を死なせる訳だから、死ぬのは当然だと思っていた。なのに生きている。それが辛い。

「……情けないなあ」

 故郷に帰れば、私はこう指差されるだろう。

「あいつのせいで、同胞は死んだんだ!」

 ……ああ、そっか。同胞を煽動しておいて、そう糾弾されるのが怖いから、私は死ぬつもりだったんだ。生き残るのが嫌だったから、死ぬように戦えたんだ。

「ハハッ」

 なんて醜い女なんだ、私は。自分が嫌になった。


 ティモール最大にして唯一の国際港であるディリ港に、船が接岸した。

「……よし」

 石を投げられてもいいよう、私は覚悟を決めて甲板に出た。

「……え?」

 私は、目の前の光景が信じられなかった。

「嘘」

 ディリ港は、同胞達で埋めつくされていて。誰も彼もが笑顔で。


 ――そして、赤と黒に、白い星の我らの旗が掲げられていた。


「っ!」

 涙が溢れそうになる。赤地の左端を占める、黒い三角形。それを囲む黄色に、黒い三角形の真ん中にある白い星。

「旗だ」

 そう、それは紛れもない。

「我らの旗だ!」

 ヨロヨロと私がタラップに立つと、溢れんばかりの歓声が、爆発したみたいな喜びの声が、私を包み込んだ。

「ああ……」

 皆笑顔だ。

「ああっ!」

 泣いている人も多いけれど、皆笑顔だ!

 うずくまり、泣きたくなるのを必死でこらえ、ぼやける視界に手すりを頼りに、タラップを降りていく。その先には。

「お父様」

 父のアンジェロが、今にも泣き出しそうな表情で立っていた。

 どちらともなく駆け出し、お互いを抱き締める。苦しくなる位に抱き締めあい、父は言う。

「こんなに傷だらけになって!」

「うん」

「無茶して!」

「うん」

「よく帰ってきてくれた!!」

「う゛ん゛!」

 涙が溢れるのを、私は隠さなかった。今だけは、私のために泣きたかった。

 どちらからか、抱き締める力を緩め、お互い顔を見合わせる。父の顔は、初めて見るグシャグシャな泣き顔で、きっと私もそうなんだろう。

「おかえり、ルシア」

「ただいま!」


 まだ、油断は出来ない。歴史は大きく変わったけれど、この平和は二十年も保てば良い方だ。

 だけれど、ティモールはなんとかなるだろう。いや、私がなんとかする。私達がなんとかする。

 今まで倒れてきた同胞の血と屍の上に翻る、赤と黒に白い星の旗。この旗のために倒れていった同胞のひとりに、私はなるのだ。

 この旗が未来永劫掲げられるよう、私はこれからも戦うのだ。


「いい旗だね」

「だろう?」

 父と私は、泣きながら笑いあった。





            『我らの旗を掲げよ』 完

という訳で、『我らの旗を掲げよ』完結です。

読んでくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] まろでぃさんの紹介サイトから来訪し、読了しました。 楽しく読ませて頂きありがとうございます。
[一言] これは予期せぬ第2幕が欲しいですね。 いわゆるギレンの野望シリーズをやっている感じになりますわ。歴史が変わって、ティモールが世界の覇権を・・・ゲフン この後のWW2での立ち回りが気になります…
[良い点] 名誉なく死ね、そして故郷の独立の礎となれ、という演説がカッコよかったです。熱いですね
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