第5話 移動、人馬一体+1
伍子胥さんの時代だと戦争でもまだ騎兵と言うものは居なくて、馬に引かせた戦車に乗るのが一般的らしいので「何で伍子胥さんナチュラルに乗馬できるの?」と言う突っ込みが有るかとは思いますが「出来るんです」と言う事でお願いします。
解析の後はこれからの行動について話し合った。
まず目指す先はフランシスコ子爵領。
現領主のフランシスコ・ド・ジャンゴ卿とレイエスさんは祖父の代から付き合いがあるそうで、「フランシスコ子爵家は敬虔なカーセン教徒が多く死霊術師系のアーリー家を毛嫌いしているので、必ず力になってくれると思います」というのがレイエスさんの考えだ。
「日中はゴースト系アンデットからの襲撃を警戒する必要はありませんから、できるだけ距離を稼ぎましょう」
目的地であるフランシスコ子爵領までは、およそ徒歩で6日程の道のりだと言っていた、結構あるな。
「公共交通機関は無いんですか?例えば乗合馬車の様な・・」
「あると思うんですけど、良く分からなくて・・・いつも使っていたのは自領の馬車や馬だったので・・」
あー、そういえばレイエスさん貴族とか言ってたし筋金入りのボンボンなんだな。ちなみに所持金を聞いてみたら金貨で20枚程度だと言っていた、物価と比較すると日本円なら20万円前後ってところか、ちなみに銀貨が1000円、銅貨が100円だ、うん分かりやすい。
まあ使いやすい所を1単位とすると、自然と似てくるんだろうね。元世界でも1ドル=1ユーロ=100円位だったし、、まあ為替相場で多少の違いは出るけど。
そうこうしている内に夜が明け、辺りが明るくなり始める。
「どうでもいいが腹が減ったな」
子胥さんの言う通り自分も結構おなかが減っていた。今いるのは川沿いに有る農家の倉庫の様な場所で、町までは少し距離があるらしい、お金に余裕はあるみたいだし、とりあえず町に向かおう、もちろん変装はは必須で。
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街中に着いた時には多くの人が働き始める時間になっていて、商店等も店を開け始めていた。
その内の一軒、喫茶店の様なお店では、モーニングの様なものをやってるみたいだ。
「取り敢えずここでいいですかね、朝ごはんやってるみたいですし」
「私は食えれば、どこでも構わん」
「お任せします」
お任せしますって・・・お金持ってるのレイエスさんだけなんだけどね。
「じゃあここにしましょう」
パンとハムとチーズ、それにミルクが付いたモーニングプレートを人数分頼む、ついでにフランシスコ子爵領へ短期間で行く方法についてリサーチ。
子爵領に行く馬車は無いみたいだけど馬のレンタルが有るみたいだ、自分は乗馬なんて出来ないけどね。
まあその辺は飯を食べながら話そう。
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「・・・と言う訳で、馬をレンタルできれば歩くよりずっと早く目的地に着けると思います、ただお金はかかると思いますが・・・」
ザ・シンプルな朝食を食べながら二人に提案する。
「ほう、なにをモタモタしているかと思ったが、情報を集めておったか、中々に出来るではないか」
「今は一刻も早くフランシスコ子爵領へ行くことが先決です、出来る事はすべてやってください」
一応二人からの反応は好感触、まあ復讐者としてのスキルが「カップル爆破」というテロリスト認定スキルしかない自分としては、こういう細かい所で役に立たないと、完全に役立たずになってしまう。
一応所属は総務課ではあったけど「人手が足りない」という理由で飛び込み営業モドキもさせられた、それが今役に立った。
当時の上司に感謝・・・何だろう、感謝したくない。
そして、喫茶店で聞いた馬蹄宿に向かった訳だが・・・
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「一頭しか居ない?」
「へえ、普段はこんなことは少ないんでやすが、行商人の馬車の車軸が折れたとかで・・荷馬代わりに馬を借りたいという依頼がありまして」
タイミングが悪かったようだ、普段この馬蹄宿では馬のレンタル用に7頭の馬を繋いでいるが、其の内の6頭が貸し出し中だという。
「子胥さん、3人乗りとかは流石に無理ですよね?」
乗馬とかの知識は全く無いが一応聞いてみる。
「まあ出来ない事は無いが、長くは走れぬ上に馬が潰れる」
そんな事を馬蹄宿の親父さんが許す訳も無い。
「レイエスさん、魔法で空とか飛べませんか!?」
無理を承知で聞いてみる。
「無茶言わないでください、飛べるなら最初から飛んでますよ!私にできるのはせいぜい「浮遊」位です!」
ああ、浮くことは出来るんだ。
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そこからの質問タイムだ。
「その浮遊を長時間維持することは出来ますか?」
レイエスさんの答え=YES
「フランシスコ子爵領に行くため出来る事は全てやる」で間違ってませんよね?
レイエスさんの答え=YES
と言う訳でこうなりました。
「どうしてこうなったんですか!!!!」
「止めてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
時間は少し遡る。
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いま馬には自分と子胥さんが乗っている。
自分は乗馬はしたことないので、バイクの二人乗りと同じだと思って、子胥さんの後ろに乗ろうとしたら怒られた。
「コウ殿は騎馬が出来ぬのであろう?無理はせずに前に乗れ」
物語のお姫様が前に乗るように、後ろは騎馬スキルが無い人が乗れる様な場所では無いらしい。
前に乗った自分を後ろから抱きすくめる様に子胥さんが騎乗、「ふふ、お主、役得だのう?」とか言われるんだけど・・・
いや、確かに乗った瞬間は何か良い匂いするし、背中に「当ててんのよ」的な感触が有るしで、「えー、まいったなー」って感じだったけど。
耳元、吐息の感じられる距離で、姿が見えない状態からバリトンボイスによる「ふふ、お主、役得だのう」に鳥肌がっ立った!!!!!
ええ??性別もシチュエーションも合ってるのに、何でこんなに寒気がするの?
生前、アニメの声優ファンの同僚が「アニメにおける声の重要性」について熱く語っていた事があった、「何をいい年して」と馬鹿にしていたけど。
ゴメン、声って結構重要かもしれない・・・
と、そういう訳なんだ。
「そういう訳なんだ。じゃないですよ!ほぼ説明になってないじゃないですか!!!!」
こんな状況でも律義に突っ込んでくれるレイエスさん、やっぱり良い人だ。
つまり何をやったかというと、自分と子胥さんが馬に二人乗りする、そして「浮遊の呪文を唱えて宙に浮いた状態」つまり重量ゼロ状態のレイエスさんをロープで結んで引っ張れば良いんじゃないかって事で、それを実行してみた、そしてそれは今の所上手くいっている。
「上手くいって無いですから!」
「痛い!馬が蹴り上げる砂利が地味に痛い!」
ロープの長さは2メートル程有るので馬に直接蹴られることは無いんだけど、走っている馬が蹴り上げる砂利や土が散弾銃のようにレイエスさんを苛んでいる。
ゴメンそこまで考えが回らなかった。
「シールド的な魔法で何とかなりませんか!?」
「何でも魔法で何とかなると思わないでください! 今防護を同時展開して、もし浮遊が切れたらどうするんですか!!!」
この方法はレイエスさんが浮遊しているから移動手段として成り立っているわけで、レイエスさんが浮いていなかったらタダの「西部開拓時代の処刑」である。
「あ、子胥さん、そこ右です」
「右だな?」
「うわぁぁぁ!危ない!今、擦りましたよ!?」
Y字路を高速で曲がって行くと、慣性の法則によってレイエスさんだけが大きく外側に膨らんで立木にぶつかりそうになったが、運よく躱せた様だ。
「レイエスさん、気絶だけはしないで下さいね」
「そう思うなら止めてください!!」
この調子なら思ったよりも大分早く子爵領に到着できそうだった、あと2日くらいだろうか?
「ひいぃぃぃぃ!」
まあ、そのなんだ。あと2日、頑張れレイエスさん。