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第15話 「来ちゃった」 そうですか。



「来ちゃった」


 一瞬そんなテンプレなセリフが脳内に浮かんだ。


______________



 ここはフランシスコ子爵邸、先日の手紙の内容を受け、身形(みなり)をしっかり整え、馬も洗って失礼の無いように子爵邸を訪れた。もちろん門の前でレイエスさんが門番に身分を告げ、許可を得るという普段なら省略されている手続きをしての、正式な訪問である。


 そして通された応接間、子爵とその客人がソファーに座って待っている。レイは子爵の後ろに立ち、こちらに軽く微笑む。その恰好は聖職者が着るような、清楚で清潔感溢れるワンピースの修道衣。


「何て可憐なんだろう!」そう思ったかもしれない・・中身がオッサンだと知らなければ。


 自分達とは子爵を挟んで反対側のソファーに座るのは、見たところ20代前半位の超絶なイケメン。

 後ろでユキがプルプル震えてるのが解る、だれにも止められない状況であれば、拳を降り下ろしながら「YES!!」とか叫んでいたであろう。


 何かキラキラしてる。トレーディングカードだったらSSRとか神話レア、カードショップでは随分良い値が付くだろう。


 そのキラキラした誰かが言った「余はアルカン・ウルス・アダムス、アダムス王国第一王子である!お主がレイエス・・・エフリエス家を継ぐ者であるな?」


「ハッ!、エフリエス・バタ・レイエスと申しますアルカン殿下」


 慌ててレイエスさんが答え、(こうべ)を垂れる。


 自分と子胥さんはこっちの作法とかも良く分からないので、そのまま後ろに立っていた。


 って言うか、ホイホイ出歩いたらマズイんじゃ無かったのか第一王子。


 まあ、やはり一般的ではないようで、フランシスコ子爵の顔にも疲れが見える。護衛の騎士たちも若干苦笑いと言った所だろうか。


 その王子は現在アーリー卿に対する不満をぶちまけていた。


「余とカレン姫との間には確かな愛情が有る!この話はどう考えてもおかしいと思って聞いてみれば、やはりあのストックランドの愚か者が1枚噛んでいるというではないか!そもそも・・」


 ああ、コレ長くなる奴だ。


 しかし、自分で「確かな愛情が有る」とか言っちゃうんだ。この「自分は愛されてる」って確信してるところとか凄い自信だな。しかもそれがサマになっているという。


 うーむ、流石リアル王子様。


 王子様の愚痴はまだ続いている、よほどアーリー卿が嫌いみたいだ、と言うかこの国の人は宗教上の理由で、死霊術師系のアーリー家のイメージ自体最悪だったんだっけ。


 それからややあって、やっと落ち着いてきた王子様が何を提案したかと言うと。


「とにかく姫と直接連絡を取りたい、自分が書く手紙を密かに姫に渡し、返事をもらってくる任務を誰かに頼みたい」と言う事だった。


 「誰かに」とか言ってるけど、これってぶっちゃけ指名依頼だよね?


 カレン姫に直接会うという事は、ブラウンウイック王国での土地勘は勿論、王宮の部屋割りや屋内の構造の把握、後「王女と実際に会った場合、悲鳴を上げられたり助けを呼ばれたりしないだけの面識が有る」という部分でレイエスさん以上の適任は居ない、だけどレイエスさんは現在お尋ね者である、敵勢力に見つかった場合のリスクは計り知れない。

 

 それでもレイエスさんは言った。


「そのお役目、是非とも(わたくし)に」


 レイエスさんとしても自国の様子は気になるだろうし、アダムス王国(こっち)に来てから情報収取やらの地味な作業が多かったのもあって、フラストレーション溜まってたんだろうなぁ。



 その後王子は「手紙を用意する」と言って席を外し、応接間には自分達とフランシスコ子爵だけが残った。フランシスコ子爵が大きなため息をつく。


「あの方も普段はもっと理知的で、理想の殿下なのだが、一度思い込むと猪突猛進と言うか・・・いきなり訪問されたのが殿下だと分かった時は、肝が冷えたわい」


 フランシスコ子爵が疲れたように(こぼ)す。


「それだけカレン姫の事を大事に思っていらっしゃるのでしょう、私も手紙を預かり次第動けるよう考えておかなくては」


 レイエスさんがリーダーで、後は戦闘要員の古代中国組(子胥・レイ)、諜報要因のローニー・・と言った所かな?

 神官か回復役が欲しいならユキにも行ってもらうとして、自分は行っても足手まといだろうし、子爵邸で事務仕事でもしていた方が良いかな?


 そんなような内容を提案した所、真面目な顔のレイエスさんにガッシリと肩を掴まれた。


「そんな事言わないで下さいよ、私たちは運命共同体でしょう?」


 そう言うレイエスさんは笑顔なのだが全く目が笑っていない。

「笑顔とは本来攻撃的なモノである」って何かで読んだ気がするけど、納得してしまうほど壮絶な笑顔だった。

 そしてスッと顔を寄せると、小声で囁いてくる。


「コウ殿、何一人で留守番しようとしてるんですか」

「いや、自分行っても役に立たないですし、むしろ足手まといじゃないですか」


「私に一人であの方々の相手をし・ろ・と?」


 痛い、レイエスさん!指が、肩に食い込んでる!もげちゃう!もげちゃうぅ!!


 え?レイエスさんってこんなキャラだっけ!?


「決して離さない」と言う意思を感じる握力で肩を掴まれながらレイエスさんの言葉を聞く。


「子胥殿とレイ殿の能力については疑いようも有りません、しかしコウ殿が居てこそあのお二方が生きるのです!それともあの破天荒な方々の相手が私とユキに務まるとでも?」


 レイエスさんは必死だ、上手くやっているように見えたし大丈夫だと思うんだけどな・・・それはそうと気になる部分が有ったので、自分はそっと訂正した。


「レイエスさん・・・」

「何ですか?」


「どちらかと言うと、ユキも()()()(がわ)です」

「なお悪いっ!!!!」


「って、え? ユキですよ? あっち側って・・・」


 ああそうか、レイエスさんはまだ気づいてないんだな・・・今も部屋の隅で控えているユキ、その綺麗な立ち姿はまさしく上級メイドとか有能秘書のそれだ。


 だが、今ヤツの脳内では、現在進行形で自分とレイエスさんが「顔を寄せ合い、ナイショ話♥」(あいつの目にはそう見えている筈だ)しているのを見て祭り状態だろう、考えたくも無いが・・・


 間違いない、この寒気と鳥肌がそう告げている。


 それでもユキの凛とした(たたず)まいは崩れない、もうここまでくると「猫かぶり」と言うより「擬態」に近い。

 例えるなら「()()と言う名の天敵から身を守るための生命としての本能」とかその類。


 あれ?何だろう、今ちょっとユキに親近感が湧いた気がする。


 ユキはこちらを向くと、ニコリと微笑んだ。それは他の人には何の変哲もない笑顔に見えるが、自分にだけ例の気持ちの悪い笑顔に見えるという、良く解らない特性を持っていた。


 前言撤回。


「そんな意味の解らないスキルを取得するんじゃない!!!!!!」


 相変わらず、頭に「?」マークをくっつけているレイエスさんを生温かい目で見つつ、世の中には知らない方が良い事も有るんですよ、、と。


 そして自分はもう其の頃には戻れないんだと、悲しい気持ちになった。


 うん、後でユキは1発(ハタ)いておこう(理不尽)


 そんな訳で、ブラウンウイック王国潜入の任務に同行することになりました。

 役に立たないと思うんだけどなぁ・・・・


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