第13話 様々な懸念 ・・・・そしてブレないユキ。
子爵邸に着いた自分達は、例の応接間に通される。
レイエスさんがソファーに座り、自分と子胥さんがその後ろに立ついつものフォーメーション、レイはレイエスさんの隣のソファーに腰掛け、ユキは部屋の隅に控えた。
常識的だ、忘れてたけどユキは能力も高いし、普段の行動は割とまともなのである。
待つこと数分、子爵が入ってくる。
立ち上がろうとするレイエスさんを手で制すると、ソファーに座るなり話し始めた。
「早速だが・・この間捕らえた盗賊については、金で雇われただけのゴロツキどもだという事が分かった。今回の政変とは何の関係も無い」
「予想通りですね、それでも雇ったのはアーリー卿の手の者なのでしょう」
「恐らくな、レイの事は知られては居なかった筈だが、子胥殿かコウ殿のどちらかでも攫えれば、手札が増えると思ったのではないか」
まず前回捕らえた盗賊達の事に対する事を、捕らえた盗賊から聞き出した情報に推測も交えて話していく。
そしてブラウンウイック王国に放っていた密偵から得た情報。
レイエスさんの実家であるエフリエス伯爵家は事実上の取り潰しだが、連座によって血縁にまで類が及んだりと言う事は無いということ、領地は他の貴族に与えられるのではなく、一時的に国に返還された形となり、ブラウンウイック王家から代官が派遣されていて大きな混乱は無い事等が伝えられる。
レイエスさんは無念そうではあるが、もっと最悪な事態を予測していた為か、少し安堵したようだった。
「あと少し気になる噂が有る、レイエスも知っているであろうが、わが国『アダムス王国』のアルカン王子とブラウンウイック王国の王女カレン姫は婚約関係にある訳だが・・・その婚約が近く破棄されるのではないかと言う噂が有るのだ」
「そんな馬鹿な!アルカン王子とカレン姫は年も近く、幼少のころから気心も知れていて仲睦まじい事は内外にも知れています。しかもこの婚姻は両国の関係を深め、軍事的にも平和に貢献する重要な婚姻ですよ!破棄などありえない!!」
レイエスさんが思わず腰を浮かせ、声のトーンを上げる。
子爵はレイエスさんに座るよう身振りで伝えると、少し渋面を作って言う。
「あくまで噂だ、今の所はな」
「今の者たちが返ってくるのと入れ替わりで、同数の密偵を放っている。この先も逐一報告は有るだろうが、今はこんな所だ」
そういって子爵が話を切り上げようとした時だった。
「そのアーリー卿とやらに近しい身分の高い者で、独身の男、または最近になって急に離縁した男は居るか?、居るならばそちらの動きも探った方が良い」
子胥さんだった。
「私も同意見です」とレイも続く。
なぜ・・と言いかけたフランシスコ子爵だったが、ハッとしたような表情を浮かべると「・・・いやまさか、、だが可能性は・・いや、アーリー家ならやり兼ねん、、なぜ言われるまで気付かなかった!?」
「子胥殿と言ったな、礼を言う、確かにその通りだ。私は早速手の者を動かすゆえ失礼する」
子爵は慌ただしく席を立ち、2時間ほどの会議は終わった。
自分達は頭を下げ子爵に謝意を表し見送ると、屋敷への帰途に就いた。
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帰り道、レイエスさんが「先ほど言われたことは・・・」で始めた質問に、子胥さんとレイが代わる代わる答える。
要約すると・・・
「つまり、『婚約を解消する』と言う事はその姫とやらに別の使い道が出来たという事であろう?」
「そして話を聞いた限り、アーリー卿とやらが裏で動いていると仮定して一番都合のいいのは、『その姫と、自分か血縁の者を結婚させて、その姫以外の王族を始末する』事です、そうすれば黙っていても国が手に入りますからね」
「まあ王族の婚姻関連の話が出たら真っ先に疑う所だな」
「常識ですね」
どこの世界の常識だよ!!
古代中国組の殺伐とした常識にドン引きしていたのは自分だけでは無かった。
「さすがにそれは・・・」あまりにも畏れ多いとか、主家に尽くすのが臣下の役目とか、ボソボソ言っていたレイエスさんだったが、そのレイエスさんの言い分は子胥さんの
「レイエス殿、お主謀略には向かんな、人が良すぎる」
の一言で切り捨てられた。
むしろレイなどは「フランシスコ子爵や、アーリー卿とやらも含めて、この世界の人達は少々考え方が綺麗すぎますね。清流派と言えば聞こえはいいですが、清濁併せ呑まねば生き抜けませんよ」とか言ってる。
現代日本の感覚だと、今説明されたアーリー卿のやり方は十分「酷い」って感覚なんだけど、子胥さんたちの言うレベルでの「清濁併せ呑む」の「濁」の方の内容が怖くて聞けないんですが。
って言うかレイにとってはアーリー卿ですら「綺麗すぎる」のか・・・子胥さんはまあ「復讐者」だからともかく、レイって、真っ当な召喚で呼び出されたいわゆる『勇者枠』なんじゃなかったっけ?
黒すぎるんだけど。
でもコイツ神聖属性なんだよなぁ、思わず遠くを見つめる自分に馬を寄せる影が一つ。
「コウ様」
ユキだった、いつになく真面目な顔でそっと耳打ちして来る。
「レイ様って・・・凄いですね。あの幼いヴィジュアルで、ソプラノとアルトの中間の様な色気のある声なのに、あの物言い、、正直ゾクゾクしっぱなしで・・・♥」
・・・何故それを、今俺に言う?
しかも、いかにも「重大な報告が有ります」みたいな雰囲気で耳打ちする内容なのか?、、そ・れ・が!
ユキのほっぺたを捩じり上げて黙らせると、何を勘違いしたかニヤニヤしている子胥さん達に追い付く為シルキーズを急がせた。
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それから数日は何事も無く過ぎた・・と言っても細々した事は色々あったが。
例えば軽く戦闘訓練をしてみて「コウ殿には戦闘の才が無い」と子胥さんとレイが太鼓判を押してくれた事。
いや解ってたけど。
今度子爵家で事務方の人間を探していないか、真面目に就活するべきなんだろうか?
その中でもレイエスさんは貰った資金をもとに、色々動いていた様だ。
まずは子爵家とは別の、レイエスさん個人の諜報員を配下に加えた事。
自分たちに紹介されたその男はローニーと名乗った。
頬に大きな傷が有るのが特徴の、凄みのある壮年の男で「盗賊の親玉」と言われれば納得してしまう様な風貌だが、「信頼できる男だ」と子爵からの信頼も厚い人物だそうだ。
だけど話してみると意外と気さくなオッちゃんで
「例の盗賊騒ぎの時の跡片付けには俺も駆り出されたんだけどよぅ、どうすりゃあんなヒデェ事になるんだ?」とか、「若いのから年増まで、美人に囲まれてて羨ましいと思ってたが、おめぇも苦労してんだなぁ」とか、まあ色々話し相手になってくれた。
特に後半の事、、やっと分かってくれる人が出来たのがとても嬉しかった。
ヴィジュアル面でもやたら美男美女が多いメンツの中で、普通~やや下レベルの仲間と言う事で、自分のローニーさんに対する好感度はかなり高まった。
・・・とりあえず、それを敏感に察知してハアハアしているユキは、後頭部を一発スリッパで叩いておく。
そのローニーが今回屋敷に来ているのは、レイエスさんへの報告。
「子爵邸にお忍びでの来客が有る模様、レイエスさんの件にも関係が有る可能性が有り、注意されたし」と言うのがその内容だった。
レイエスさんは即座に何かあればすぐに逃げられるような準備をして、さらにはローニーに子爵邸の動きについて監視を命じる。
「フランシスコ子爵が敵に回る事はまずないとは思いますが、、まあ念のためです」
少し疲れた表情のレイエスさんは無理に笑いながらそう言った。