第12話 ユキ「コウ様が乗馬するだけのkenzenな回です」
「心から心酔」って、「腹痛が痛い」みたいでおかしいかな?って思いましたが、他の表現が思い付かなかったので、そのまま採用しました。
ほか文章がガバっている所があるかも知れませんがご容赦下さい。
「はっはっは、やるではないか!!」
子胥さんの嬉しそうな声が屋敷に響く。
「身の回りの世話をする為のメイドが「コウ様専属になりたい」などと声を上げるなど、聞いたことが無いぞ!、一体何をしたのだ!?」
と子胥さんが笑う。
レイも「子爵殿に宛がわれたメイドを、心から心酔させて自らのモノにするとは・・少々コウ殿に対する認識を改める必要が有りそうですね」とか言ってるけど。
いや・・・自分は「別にBL趣味でもちゃんと働いてくれるならいいよ」って言っただけなんですがね。
そして、からかう様にとんでもない事を言う。
「我らも、今世では女子であるし、気をつけねばならぬな」
「確かに、篭絡されては適いませんからな」
「それは無い!!!!」
いや思わず真顔で突っ込んだよ。
ユキ!そこで顔を赤らめてうっとりしない!!!!!
うう、変人3人相手に自分一人では突っ込み手が足りない、せめてレイエスさんが居れば。
だがこの状況でレイエスさんまで来たら、ユキに燃料を投下することに、くそう厄介な。
この4人で一体何をしているかと言えば、以前言っていた「乗馬の練習」である。
この前戦利品として獲た(略奪したとも言う)馬は、しばらく興奮していたがやっと落ち着いた。
その馬を「コウ殿の乗馬にするといいでしょう」と言ってもらえたので、遠慮無く貰うことにしたのだ。
予定では子胥さんとレイに教えてもらう予定だったが、専属メイドとなったユキがそこについて来た、それで経緯を説明した結果が、冒頭の子胥さんのセリフだ。
「あーもう、とっとと練習始めましょう」
投げやりに言うと、馬のもとに向かう。うん、いつまでも「馬」じゃあ可哀想だしコイツにも名前付けなきゃな。
ここ最近は子胥さんの前に乗ることもあったが、当然一人で乗る練習は初めてなので、「後ろからは近づかない」「乗る時に注意する事」とかの基本中の基本から。
そこから、子胥さんやレイに手綱を引いてもらい、アドバイスを受けながら、「とりあえず落ちないようにする」訓練。
ユキは遠くに控えてそれを見ている感じだ、一応ユキも乗馬は出来るらしい、チクショー、本当に乗れないの俺だけかよ。
「膝を締めて、背筋を伸ばせ」
今も子胥さんのアドバイスに従いながら、おっかなびっくり馬体にしがみついている。
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それからしばらくすると、何とか余裕が出てきた。手綱を自分で持ちゆっくりと歩かせる。(当然いざと言う時のためにサポート要員が馬に乗って控えていてくれるが)
ここでユキが謎の行動に出る。
自分の進路上に立って顔の前に掌を翳している。「何やってるんだアレ」、太陽が眩しい・・訳ではなく、手の位置からすると馬が見えないように視線を遮ってる様な・・・そしてユキの・・暗黒面に堕ちている時特有の気持ち悪い笑顔。
「ティンと来た」
多分あれだ、一時期「ニヤニヤ動画」で流行った「乗馬マシンに乗るだけ」シリーズみたいな感じか!、ユキの奇行の意味が解ってスッキリ、、、ん?
頬に一筋冷や汗が流れる・・・今見られてるのって、、俺だよな?
・・・・ヤバい何かゾクッとした、どうしよう。今なら女性の皆さんが「エロい目で見るな」とか理不尽な事を言う気持ちが分かってしまうかもしれない。
馬は真っ直ぐ歩いて行く。
正面にはハアハアしているユキ、俺はとりあえず手綱を操作し馬を停止、、
させる事無く、そのまま轢いた。
普通の馬ならば目の前に人が居たら止まるか避けるかするだろう。だけどこの馬は手綱から伝わる自分の意思を感じ取ってくれたらしい。利口な馬だ、褒めてあげよう、鬣のあたりをゆっくりと撫でてあげると、気持ち良さそうに嘶いた。
うん、こいつとは上手くやって行けそうだ。
「上手くやって行けそうだ」じゃないですよ!酷いじゃないですか!!
まさかそのまま直進してくると思っていなかったのか、何の抵抗も無く「ぷぎゅ」とか言って轢かれていたユキは、立ち上がって抗議する。
意外と元気だな。
「あいたたた、キュアー・ウーンズ!キュアー・ウーンズ!」ユキが何事か唱えると、ユキの体の打ち身や擦り傷が治っていく。あれがユキの言っていた神聖魔法か。
一丁前に神聖な白いオーラとか纏わせやがって・・・自分や仲間の傷を癒せるなんて凄い事だし、RPGでも回復役は必要不可欠なんだけど、このシチュエーションで傷を癒すユキを見ていると「何て無駄な・・・」と言う感想しか出て来ない。
と言うか、この世界で神聖属性の使い手を見たのは2人だが、それがレイとユキだった為、この世界の「神聖属性」に対するイメージは
「神聖の意味解ってる?、ねえ、ホントに大丈夫?」
と言う評価である。
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さて、乗馬の話だが、さっきの出来事で俺達(俺と馬)は通じ合った。
普通に歩かせて、自分が「右」と思えば右に、「左」と思えば左に曲がってくれる、ちょっと駆け足気味に走らせても不安を感じない。
「ほう、見事な物だな」
と、子胥さんが褒めてくれるほど自分の乗馬は上達した。
「よほどこの馬との相性が良かったんですね」とレイも褒めてくれるんだから、よほどなんだろう。
「コウ殿、そろそろこの馬の名前を決めたらどうだ」
子胥さんに言われて悩む、うーん、、今まで自分の子供どころかペットにさえ名前を付けた事など無い。
馬の名前ねぇ・・・ハイセイコーとかオグリキャップとかは有名だけど、競走馬と乗馬じゃ違うよなぁ・・・
「ちなみに二人の馬に名前は有るんですか?」
と聞いてみたら、「私の馬はリーフェリアと言う、古代に滅んだエルフと言う種族の姫の名前から取ったそうだ」と、子胥さん。
「私の馬の名前は「ウッドストック」、そのエルフの王都の名前だったみたいですよ?」
とレイ。
なるほど、2頭とも「エルフ」に因んだ名前なんだな、
しばし考える、、既に滅んだエルフに因んだ名前か・・・
そして浮かんだ名前、「お前の名前は「シルキーズ」だ!」
「ほう、良い名前だが何か謂れが有るのか?」
・・・深く突っ込まないでほしかったんだけど・・・
「自分の世界のエルフの遺跡の名前です」と言ったら納得してもらえた。
嘘は言って無い。
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それから数日を乗馬の訓練に費やした、前回の襲撃(盗賊もどき)の事も有って屋敷の近く、時間も明るい時間帯を選んだため、何か事件が起こることも無かった。
ただ筋肉痛が酷かったが、まあ乗馬って常にドラム缶に跨っているようなもんだからな・・・両足の付け根や太ももその辺がパンパンになって、練習の後などはプルプル震えて立つのにも苦労しするほど。
ユキが「湯上りにマッサージしましょうか?」と言ってくれたが、その時の顔がキモかったので遠慮しておいた。
・・・そろそろ突っ込み用にハリセンとか欲しいかもしれない。
そんな中、久しぶりに子爵邸から招集がかかる、何か新しい情報でも手に入ったか、それとも事態が動いたか。
やや緊張した面持ちのレイエスさんに続き、子爵邸に向かうのだった。