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王妃によるヒロイン『ざまぁ』のようです

 定刻通りに始まった茶会には、推定ヒロイン・シャルルも同席していたが、一瞬たりとも私を見ようとはしなかった。リリィさんのしたことを考えると当然といえば当然の対応ともいえるが、これだけあからさまな敵対心を向けられたのは、この世界にきて初めてのことだったので軽く落ち込む。


「そういえばオリヴィア様のお嬢様も十五歳になられますわよね?」


 第三夫人・ライラ様の娘の婚約者が紹介されたところで突如、第二夫人であるイザベラ様が口火を切った。


「はい。アデルは今年で十五歳になります」


 オリヴィア様と呼ばれた第五夫人は、少し遠慮気味にそう答えたが、終わらないうちにイザベラ様が


「じゃあ今度のお茶会ではアデル様の婚約者様をご紹介していただけるのかしら?」


とたたみかけた。この世界では十六歳で婚約者を発表し、十八歳で結婚するのが一般的なようだ。婚約者はリリィさんのように後から決めるケースもあれば、産まれたときから決められている場合もあるらしい。


「お恥ずかしいお話ですが、まだお相手がおりませんの…」


と困ったように答えたオリヴィア様だが、その隣にいるアデルの瞳が「しめた」とばかりに光ったのを私は見逃さなかった。


「私には正式な婚約者はおりませんが、リリィお姉様の前で婚約者を紹介しましたら、取られてしまいますので別の場所で紹介させていただきますわ」


 これが言いたくておそらく彼女はシャルルを王妃のお茶会に呼んだのだということに初めて気付かされた。勝ち誇ったようにそういったアデルの言葉に「あら、残念」と小さく王妃様が呟いた。言葉の端々に静かな怒りがこもっているのに気付いたのは隣にいた私だけではないはずだ。その場にいた夫人達の顔が一瞬にしてこわばるのが分かった。


「でも、そのお話、ぜひ聞かせていただきたいわ。王宮だけでも色々な噂が飛び交っていますけど、両方の言い分をうかがう機会なんて滅多にないでしょ?」


 王族が人様の婚約者を寝取るような真似をすれば、大きなスキャンダルとして扱われるのは当然だろう。おそらくアーロンが離宮に来た当初は、この話題で持ち切りだったに違いない。


「リリィ様がお嫌でなければなんですけど、いいかしら?」


『いや』とは絶対に言えないような威圧感と共に、そう聞かれ私は力なく「はい」と返事をするしかなかった。


「リリィ様はディースターヴェク家のご子息と夜会で知り合われたと伺いましたが」


 この話題を待っていたとばかりにイザベラ様が身を乗り出すようにして、そう質問した。


「ええ。確かに」


「どちらの夜会でお会いになられたの?」


 イザベラ様の隣にいたライラ様も目を輝かせて私の答えを待っている。私は少し考えるふりをしながら『最適な答え』を考えていた。



 ベストな答えはシャルルとアーロンが婚約する前の時期だ。



 しかしそもそも婚約していたという事実すら知らない私には、その答えが分かるはずもない。もしヘレナがこの場所にいてくれたら、『最高の答え』を用意してくれるのに……と隣のエドガーに視線を移すと、彼は小さくウィンクをした。


「半年前コックス家で開かれた夜会でのことですよ。本当は僕が同席するはずだったのですが、あいにく家の用事で行けず…目を離したら婚約者が増えておりました」


 自虐を取り入れたエドガーの回答に笑いがワッと起こり一瞬空気が和らぐ。おそるおそるアデルを見ると、物凄い形相で私を睨みつけており、『最適な答え』だったのか疑問になってきた。


「シャルル様がご婚約を発表されたのは、確か…」


 第二夫人・イザベラ様が指を折りながら逆算していると、噛みつくようにアデルが


「その翌日のことでございます!」


と答えた。ギリギリ『最適な答え』に近いが、『最高の答え』には程遠かったことが直ぐに分かった。さすがエドガークオリティである。


「でも出会ったという点ではシャルルの方が先なんです。三年前、近衛隊の模擬試合でアーロン様が活躍している姿を見てから、ずっとお慕いしていたんです」


 思い出したように涙を流す従妹の隣でアデルは顔を真っ赤にし、半分立ち上がりながらそう説明する。やはり入学早々、アーロン一目惚れイベントをこなしていたのだろう。


「八歳以上も歳の差があることから最初は反対されたのですが、両親を説得してようやく婚約の話までこぎつけた矢先に、お姉様に取られてしまったんです!」


 どうやってもリリィには分が悪い話を聞き終わり、私は頭を抱えたくなった。半ば諦め気味に、ここでの裁判長である隣の王妃様を見ると、意外にも涼し気な表情でアデルを見ていた。


「リリィ様はディースターヴェク家のご子息と愛し合っていらっしゃるのでしょ?」


 王妃様はゆっくりと私を向くと、そう聞かれた。やはり「はい」としか答えられない威圧感と共に…。


「それを親の力で邪魔するというのは…どうかしら?」


 とんでもない理論だが、この短い意見にガラリと私に対する風向きが変わった。


「オリヴィア様のご実家の噂は最近、王宮にも届いておりますわ。領地だけでなく国の政治にも発言力を持たれているとか」


 第四夫人・マデリン様が含みのある笑顔をオリヴィア様に向ける。


「領地で魔力を含む貴重な鉱石が出てきたと伺いましたわよ」


 扇越しにそう言ったイザベラ様の表情は見えなかったが、意地の悪い笑顔がその裏に隠れているのは明白だった。


「私の実家は公爵家ではありますが、オリヴィア様のご実家のような財力がないばかりに、やはりここでは肩身の狭い思いをしておりますわ」


 乗り遅れまいと第三夫人・ライラ様もそう言葉を続け、


「でも真実の愛はやはり何ものにも勝りますのね」


と結論付けると、他の夫人方も「ええ本当に」「その通りですわ」と称賛の声を送った。


「よかったわ。お二人の話が聞けて。ね、このお話はもうお終いにしましょう。せっかくのお祝いの場なのですから」


 そういって王妃様はゆっくりと持っていたティーカップをテーブルに置く。それが短い裁判の終結の合図となり、話題は再びライラ様の婚約者の話に戻っていった。ふとアデルを見ると顔を真っ赤にして俯いており、その隣に座るオリヴィア様とシャルルの顔は真っ白に固まっていた。


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