お茶会イベント発生のようです
ゲームでは絶対存在しなかったエンディングだが、『逆ハーレム』をリリィさんが満喫していることは理解できた。そこで気になるのがメインヒロインの存在だ。結果として彼女がゲームクリアに失敗した結果が現在ということなのだろう。
・ピンクの髪
・小動物のような可愛い瞳
・地方男爵令嬢
第一王女としての公務をこなしていれば、何らかの形で出会えるのかもしれないが、もしかしたら実家がある地方に帰ってしまっている可能性もある。もしかしたら、彼女も転生者かもしれないし、どうしてこうなったのか教えてもらえるかもしれない。ただ大きな問題は名前も分からないヒロインをどうやって探すかだ……。
「どうしたものかしらね…」
自室のテラスで朝食後の紅茶を飲みながら、そんなことを考えているとフワリとバラの香りが広がった。
「おはよう。昨日は眠れた?」
振り返るとそこには爽やかな笑顔を浮かべたエドガーがいた。彼の手にはブーケではなく切りっぱなしの白いバラが数本握られていたが、それすら絵になっている。
「おはようございます」
私は椅子から立ち上がり、うやうやしく挨拶をした。本来のマナーは分からなかったが、この王子様のような彼を前に座って挨拶するだけでは申し訳ない気がした。
「今朝咲いたばかりのバラ。よかったら飾って」
エドガーから手渡されたバラからは、より濃厚で上品な香りが漂ってくる。
「バラと一緒に登場するなんて王子様みたい」
思わず苦笑すると、エドガーは少し照れたようにはにかむ。その笑顔に見とれると同時に、この人と幼なじみという記憶を持つリリィさんがひどく羨ましくなった。
いつの間にか花瓶を用意していたヘレナにバラを渡すと、入れ替わるように別のメイドがサッとエドガーのためにティーカップをテーブルに用意する。何人いるのか知らないが、本当に多くのメイドがこの離宮には存在した。
「そういえば今日の王妃のお茶会、僕も一緒に参加していいって本当?」
何のことか分からず私は思わず小さく首を傾げた。
「王妃のお茶会のこと、リアムさんから聞いてない?」
想像と異なる反応だったのだろう…エドガーは不満そうにそう尋ねる。どうやら今日の午後、王宮で義理の母である王妃主催のお茶会があり、私も招待されているらしい。普段ならば数人のメイドと共に参加するだけなのだが、事件のこともありエドガーが同伴することになったという。
「ドレスは白藍のやつがあったよね。それにしたらどうかな?さっきのバラを髪に飾ったら、とても生えると思うんだ」
なるほど…と感心しつつも、生花をヘアアクセサリーにする技術がない私は思わずヘレナを見ると『大丈夫です』と言わんばかりに小さく頷いた。さすがヘレナだ。頼めばドレスすら午後までには作ってくれそうな安心感がある。
「そういえば、お茶会で注意しなければいけないこととかある?」
これは重要な質問事項だ。もしかするとメインヒロインの存在を知ることができるかもしれない。しかしエドガーから返ってきた返答は、全くの期待外れだった。
「う~~ん。美味しくお茶とお菓子をいただく…ぐらいかな?」
おそらく子供の頃からテーブルマナーを厳しくしつけられてきた彼にとっては“お茶会”など大した問題ではないに違いない。
「どなたが参加されるかなどは…」
「王妃様と第二夫人から第五夫人までが参加すると思うよ。あとは…ちょっと分からない」
やはり全く参考にならない回答に頭を抱えたくなった。そんな私の心中を察したのか、出かける準備をする前にヘレナが懇切丁寧にお茶会のシステムについて説明してくれた。
「お茶会では主催者が一番奥の席に座り、その左右順々に身分の高いから座られます。今回のお茶会は王妃様と側妃様達、そのご子息らが集まる小規模なものとなりますので、王妃様の隣にリリィ様がお座りになると思います」
紙に書かれた簡単な配置図に「なるほど」と感心させられた。
「一応、リリィ様の体調が優れないことは先方にも伝えておりますので、ご安心ください。それぞれが自身の勢力を誇示し、立ち位置を確認するためにもたれた場です。何も言わずにニコニコされているだけで大丈夫でございます」
マウンティング大会が開催される女子会の王宮版みたいなものなのだろうか…。
「でも、それならエドガーと一緒に行ったら変じゃない?」
女子会に彼氏やパートナーを連れて行ったらひんしゅくを買いかねないし、次回から誘ってもらえないことだって多々ある。特にエドガーのようなイケメンなど、マウンティングするために連れてきたと思われかねない。
「大丈夫でございます。今回は第三夫人のお嬢様の婚約者様を紹介されるというのが主な目的となっておりますので、ご婚約者様のためにも男性パートナーは連れていかれた方がよろしいかと」
確かに女子だらけの中で男性が1人いてはさぞ居心地が悪いに違いない。その婚約者の話し相手としてエドガーを連れて行くという名目にもなるのだろう……。
そんなことを考えているうちに目の前の大きな鏡に清楚で品のある美少女が映し出された。元々美人なリリィさんだが、今回のヘアメイクにより気の強さが緩和しつつも、華やかな雰囲気を感じさせる美人にランクアップしている。
「ヘレナは何でもできるのね…」
ただ感心しているとヘレナは「ありがとうございます」と深々と頭を下げて、その場を去っていった。もしヘレナがいなかったら、おそらく私は確実にゲームオーバーになっていたに違いない。