最終話(前編)
リリィとユーゴの亡骸を前に側近であったアデラインは、涙一つ見せず困ったものを見るような表情を浮かべた。
「……百年も人を想い続けるって気持ち悪いぐらいの愛情ね」
アデラインはそう言って、地面に倒れたラルフに近づく。魔力を使い過ぎたのか、ラルフはまるでミイラのような亡骸になっていた。
「なんで止めなかったんですか?!アデラインさんなら止められたじゃないですか」
声高に抗議をするリアムに、アデラインは呆れたような表情を浮かべる。
「魔王が止められなかったのに、なんで側近の私が止められると思うの?」
「俺は知っています。アデラインさんは俺なんかよりも遥かに魔力に長けていた。次期魔王の話がきたのだって、“年功序列”なんかじゃない。実力が認められていたんだ」
「ちょっと、なんの話しているの?」
「俺、ユーゴなんです」
とんでもない事実にアデラインは耳を疑った。
「嘘……」
「嘘じゃない。沼地で助けてくれた時、自分が次期魔王候補だって話してくれたじゃないですか」
誰にも話したことがない事実を聞かされ、アデラインはようやくその事実を認め始めていた。
「同じことが繰り返されるのは分かっていたけど、アデラインさんなら止めてくれるって思っていたのに……」
「だって……リリィが私に転生するのを止めたら、私が私じゃなくなっちゃうから。そしたらユーゴを沼地で助けられなくなっちゃうから」
今度はリアムが告げられた事実に耳を疑う番だった。
「アデラインさんは、リリィだったのか……」
フラフラとアデラインに近づき、リアムはその事実が夢ではないかと確かめるように彼女の手を取った。
「嘘……だろ?」
「私も信じられない」
おずおずと抱擁する二人だが、少ししてその温もりにそれぞれの本来の姿を感じ取り、ゆっくりと腕にかける力が増す。
「会いたかった」
「私も会いたかったよ……」
アデラインは思わず涙がこぼれそうになり、ハッとある事実に気付き、リアムから身体を離す。
「ラルフもだけど、あんたも大分気持ち悪いわよね。十三歳の少女の弱みに付け込んで……」
リアムはその言葉に顔を真っ赤にして抗議する。
「俺からは手は出してないし、リリィが泣いて迫るから悪いんだろ」
「それでも諭して関係を持たないのが大人でしょ」
「いやいやいや、あれは無理だった。それに関係を持ったのだって十八の時だろ?ギリギリ大丈夫だぞ」
アデラインは侮蔑の視線を送りながら、相手を困らせるレベルで迫ったことを思い出し、たまらず笑い声をあげた。
「こんなに近くにいたんだね。バカみたい」
「アデラインさんだって、なんで自分がリリィって言ってくれなかったんだよ」
「ここでリリィに再会させてあげたかったんだよね。色々大変だったのに十九歳も年上のおばさんがリリィでしたって言われたら可哀想でしょ」
「そんなことない。すごい綺麗だと思っていたし、密かに憧れていたよ。ここに残るのを決めたのだって、アデラインさんがいるから……って下心もあったし」
リアムはそう言うと、アデラインの髪を手に取り小さく唇を落とす。
「『尊敬しているけどそんなんじゃない』って言ってなかったけ?昔から思っていたけど、リアムって本当に調子いいわよね……」
「まんざらじゃないだろ?」
いたずらな表情を浮かべるリアムにアデラインは、もう、といって抱きつく。再び二人が視線を交わした時には、先ほどまでの軽い雰囲気は消え情熱的なものに変わっていた。自然と唇が重なり合い、お互いの存在を確かめあうように何度も何度も唇を重ねた。