悪役令嬢なのに逆ハーレムを手に入れたようです
エドガーがリアムさんを押し出すようにして帰ると同時にアーロンからは豪華なブーケ、シリルからは詩集、ラルフからはエルフに伝わる香油が贈られた。それら全てを受け取り、ひと段落すると私はいそいそとベッドから抜け出した。私にはやらねばならないことがあった。
リリィさんのビジュアル確認だ。
周囲のイケメンの反応を見ると元の女子大生である私の姿のまま転生したわけではなさそうだ。リリィさんの存在が分からなくても、もしかしたら見た目が分かれば誰か判明しそうだ…と鏡がないか部屋を探した。
正直に告白しよう。そのビジュアルにはかなり期待していた。
視界に入るだけでも手足は長く細く、肌はとても白くきめ細かい。髪も手入れがいき届いた綺麗な黒髪だ。なによりあのイケメン達の溺愛ぶりをみると『美少女』の可能性がかなり高いに違いない。なんてラッキーなのだろう…と思った矢先に窓に映った自分の姿に思わず言葉を失った。
そこにはゲーム内最大の敵・悪役令嬢の姿があったからだ。
スラリとした10代後半ぐらいの少女で、目鼻立ちは整っており一般的に美女なのだが、少し目がキリっとしすぎている気がする。大切に温室で育てられたというより、断崖絶壁に咲くようなそんな逞しさが感じられた。黙っていれば美人というキーワードがピッタリの彼女は、ゲーム内でエドガーの婚約者として登場し、ありとあらゆる手段を使ってヒロインを貶めようと画策する。
婚約者を寝取られそうになったら、当然といえば当然の対応かもしれないが、何故かエドガー以外のキャラクターを攻略する際も執拗にヒロインに嫌がらせをしてくる。おそらく主要キャラクターごとに悪役を作るのが面倒で、彼女に悪役を一手に担わせていたのだろう。
主要キャラクターの攻略に成功すると、彼女のこれまでの悪事が暴露され、各キャラに合わせて国外追放、修道院送り、死刑と様々な罰が与えられる。各キャラ攻略の度に毎回登場する悪役ということもあり、その後のハッピーエンドが待ちきれず毎回飛ばし読みしていたキャラでもあった。
「そう言えばリリィとかいう名前だったような気もする」
しかし、何故ヒロインではない彼女が逆ハーレムエンドを満喫しているのだろうか……。新たな問題の発生に私は思わず頭をかかえた。ふと、ヘビーユーザーである智子の言葉を思い出していた。
「ゲームの最難易度のエンドと言われているのが『逆ハーレムエンド』なの」
パラメーターを最大値まで上げつつ、登場人物全ての好感度を上げると『逆ハーレムエンド』に突入することができるらしい。
「もう、このエンドが感涙ものでね~。本当にオススメだよ」
と彼女は激しく勧めていた。正直そこまでゲームをやりこむ熱量はなく「ふ~ん」と聞き流していたが、どうやら私はその『逆ハーレムエンド』にいるようだ。ヒロインですら四苦八苦して手に入れる『逆ハーレムエンド』とやらを、このリリィさんは“悪役令嬢”でありながら、どうやって手に入れたのだろうか?そして『感涙もののエンド』とは既に終わってしまったことなのだろうか?
「こんなことなら適当じゃなくて、ちゃんとゲームやっておくんだった」
尽きない疑問に頭を抱えながら、若干ウザく感じていた智子がここに居てくれたら、どれ程心強いかと……願わずにはいられなかった。
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