隠しキャラを攻略していたようです
“リリィ”として記憶を取り戻した私は、『逆ハーレム』を経てたどり着ける「ユーゴエンド」を目指していたことも思い出した。
ゲーム内で最難関といわれる『逆ハーレムエンド』だが、本来の目的はイケメン達をはべらすことではなく、真の隠しキャラ“ユーゴ”とのエンディングを迎えるために存在するルートらしい。学園で幼い時一緒に過ごし、十三歳の時に失踪したユーゴ。そのため十五歳から十七歳までの三年間の学園生活を描いた『どきどきプリンセスッ!』の学園生活には、モブとしてもユーゴというキャラクターは登場しない。
本来のゲームでユーゴは、男爵令嬢のヒロインと結婚することができないことを悲嘆して魔王を倒しに行く。そんなユーゴと再会するためには、『戴冠の儀式』を行い魔王城に行くしかない。そのためにヒロインは『逆ハーレム』を作るのだ。エルフの王子であるラルフが存在することから、それより優位に立とうとエドガーが王位継承権を主張。戴冠の儀式に同行するメンバーにヒロインが加わり、魔王城でユーゴと感動の再会を果たす。
そんな筋書きだったことを智子が教えてくれた。
悪役令嬢として断罪されたくないと思った私は、この隠しキャラ・ユーゴを攻略することにした。ヒロインの攻略対象と仲良くなろうとするから問題が発生するのだ。
ただ普通に攻略しては、やはり断罪イベントが発生してしまう可能性があったので、そもそもユーゴが失踪しないように画策した。同じ寮に住んでいるという地の利を活かしヒロインよりも幼い時一緒に過ごしてしまえば、ヒロインと恋に落ちる瞬間も生まれず、身分差を悩んだユーゴが魔王城に行くこともなくなると考えたのだ。
全て計画のためだったが、気付いた時には、ユーゴを愛するようになっていた。
最初はベッドから出られない彼の境遇を利用して近づいたが、その博識さ、優しさ、瞳の美しさ、ふわふわとした茶髪、全てに惹かれていく。さすが隠しキャラといっても一応、攻略対象だ。
「リリィ、リリィ!」
と私の後を常についてまわり、片時も離れようとしないのは、時々うざかったが段々それすらも愛おしくなっていった。そのことで虐められることもあったが、ここで
「虐めた奴らを見返すために魔王を倒そう」
と変な気を起して欲しくなかったので全力で守った。するとさらに彼は妄信的に私を愛してくれるようになる。子供ということもあり「好きだ」「付き合おう」というような言葉は交わしていなかったが、確実に深い愛情が二人の間で育まれているのを感じていた。
ところがゲームの本来のシナリオの力とは凄いもので、全てが上手くいっていると思っていた十三歳のある日、ユーゴが目の前から姿を消した。何故か私が相手なのにも関わらず、魔王城に行ってしまったのだ。
彼に再会する方法を考えた時、『逆ハーレムエンド』の存在を思い出した。
ゲームのシナリオを大きく変えることができないならば、私が逆ハーレムを作り戴冠の儀式を行ってしまえばいい……と考えたのだ。もう少しまともな方法があるのかもしれないが、彼を失った絶望感の中頼れるのは『智子の知識』だけだった。