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悪役令嬢、甘い誘惑に打ち勝ったようです

「もう止めるか?」


 その声は微かな囁きで、抱きしめられている私にしか届きそうになかった。


「こんな辛い思いをお前には、もうさせたくない。お前が望むなら全部止めてもいい」


 確かにもう逃げ出したかった。私のエゴで人が死ぬなんて想像していなかったし、アーロンを失ってまで達成したい何かがあるのかすら分からなくなっている。できることならば、何もかも止めてアーロンにすがって謝罪し続けたかった。


「何度も言ったが、俺は別にお前が女王になってもならなくてもいいんだ。側にいられればそれでいい」


「でも……それじゃあ、リリィさんの願いが……」


 ここで「止めたい」と言ってしまいたかったが、これまで彼女が全てを犠牲にしてきて望んだ「女王」の地位を手放すことになる。


「俺はリリィじゃなくて、お前を愛している。リリィの願いは叶わないかもしれないけど、俺はお前の願いを叶えてやりたいんだ」


 リアムさんの胸の中という場違いなほどに温かい空間に、思わず『止めたい』という言葉が喉まで出かけて、一瞬我に返る。



 リリィさんなら、どうする?



 おそらく彼女ならリアムさんにこんなことは言わせないのだろう。女王になるためにはアーロンの死ですら、彼女は乗り越えるだろう。そして「リリィより愛している」と言ってくれたリアムさんだが、彼が今もなおリリィさんの気高さに惹かれているのは分かっている。


「大丈夫よ。もう少しじゃない」


 必死で口角を上げてリアムさんに笑顔を向ける。これ以上彼に嫌われたくなかった。




 体を離そうと彼の左腕を掴んだ瞬間、手のひらに違和感を覚えた。服の上からだが鎖帷子でも着ているかというぐらい硬い。慌ててもう片方の腕を掴むとその違和感はない。


「これ……」


『どうしたの?』と言いかけた私の口を彼は右手でさっとふさぐ。


「魔法を定期的に使わなかったら……こうなった」


 そう言ってリアムさんは左手の皮手袋を外す。マントで隠すようにされていた左手だが、よく見ると鱗のようなもので覆われている。薄暗い廊下を歩いていたこともあり、シリル達は気付かなかったのだろう。


「最初にここに訪れた時に魔物にかみつかれたんだ。色々な回復魔法を試しているが……」


 そう言って何か呪文を唱え、自分の腕にかざすが汚れは消えても鱗自体は消えない。


「効果はない。他の連中に知られたら混乱すると思うから黙っていてくれ」


 ただならぬ雰囲気に涙も止まり「分かったわ」という言葉しか出てこなかった。『きっと王宮に戻れば解決方法はある』全く確証はなかったが、私は自分にそう言い聞かせ、ぎりぎりのところで平静を保った。

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