幼なじみキャラの愛が重いようです
「なんか寂しいですね……」
私の思い描いていたイケメンハーレムとは、異なる現実に言葉をこぼすと慌てた様子でリアムさんが私の両肩に手を置く。
「大丈夫。俺はリリィの味方だ。リリィが王に即位できるよう最大限努力するつもりだが、個人的には即位しなくたっていい。夫にだってなれなくたっていい。ただ側に置いてさえくれたらいいんだ」
そう肩に置かれた手は、先ほどのように熱はこもっていなかったが、妙な安心感を覚えた。それを確認したくリアムさんの手を取ろうとした瞬間、勢いよく窓が開いた。
「記憶がないからって適当なことを吹き込むなよ!!」
そう言ってリアムさんから私を引き離すようにベッドに駆け寄ったのはエドガーだった。髪は乱れていたし、辺りは薄暗かったが相変わらず王子オーラを全身から放っていた。
「あ~~~こんなことだろうと思ったよ。危ない危ない」
エドガーの登場に少し困惑したようにリアムさんはベッドから降りる。
「ちょっとはリアムさんにも華を持たせてやろうと黙って聞いていたら…。リリィ騙されるな。リアムさんだって夫の座を狙っているんだからな」
そうなのか?…と思いつつ、リアムさんを見ると「とんでもない」といった表情を浮かべて、手と首を同時に横に振る。
「いやいや。こんな年上で身分の卑しい私めが夫になろうなどとは、夢にも思っておりませんぞ。商売をさせていただけるのであれば、愛人であれ小間使いでも構いませんよ」
リアムさんの口調は少し芝居がかっていたが、エドガーは得意げな表情を浮かべた。
「まぁ、リアムさんは商売第一だからね」
「そうなの?」と私が聞くとエドガーはニヤリと満足そうに微笑む。どうやら、このエドガーはあまり物事を深く考えない性質なのだろう。リアムさんから本心を聞き出せたという満足感で上機嫌だ。
「リアムさんは商人から貴族まで上り詰めた豪商ってことで、宮廷では話題の人でもあるんだよ」
なにやら言葉にとげがあるような気がしたが、ふと視線をリアムさんに向けると無言で苦笑を浮かべている。
「それより約束したお菓子」
目の前に差し出された小さな小箱に私は思わず、わぁっと小さな歓声を上げた。まるでオルゴールのような細工が施された小箱はお菓子を入れるにはもったいな過ぎる程豪華だった。
「昔からよく一緒に食べていたんだけど…覚えている?」
ゲームでそんなエピソードがでてきたっけ……?
特にエドガーに思い入れがなかったので、スチールが登場するイベント以外彼に関する強烈なエピソードの記憶がない。ただゲームでは、あくまでもヒロイン視点なのでエドガーと第三者の想い出に対する知識がないのは当然かもしれないが……。仕方なく「ごめんなさい」と俯くとエドガーは慌てた様子で、私の手を取った。
「ごめん。そんな気持ちにさせるつもりはなかったんだ。気にしないで。さ、開けてみて?」
そう言われ、小箱を開けるとそこには小さな小粒のお菓子が四つほど並んでいた。バレンタインデーでしか買わないような高級チョコレート箱詰めといったところだろうか。エドガーはその一粒手に取り、そのまま私の口に放り込んだ。案の定、チョコレートの甘さとナッツ類の香ばしさが口の中に広がった。
「リリィは泣き虫でいつも泣いてばっかりいたんだけど、僕がこれをあげるとピタッと泣き止むんだ」
思い出をかみしめるようにして語る彼は今のリリィさんではなく、幼いころの彼女を見ているようだった。おそらくハーレムにおけるエドガーの最大の強みは、他のメンバーにはない彼女との想い出なのかもしれない。
「だからね、大人になってもリリィが泣いていたらいつでも食べさせてあげられるように何時でも用意しているんだ」
そう自慢げに言われ、初めてラルフが嫌味を言った気持ちが少し分かったような気がした。