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悪役令嬢、王妃へも『ざまぁ』するようです

「スタンリー男爵の船は私も拝見いたしましたが、武装はしておりませんでした」


 少し不思議だったが、これは事実だった。三艘ある全ての船に大砲などは装備されておらず、よく難民を救えたものだ……と感心したほどだ。


「確かにスタンリー男爵は陛下から私掠免許はいただいているようでございます」


 海賊行為が合法化される根拠として『私掠免許』というものを国が非公式に発行しているらしい。これがあると海賊として、この国の軍から捕縛されることはない。


「ですが、今回は私掠ではなく難民の救助を目的とした航海でございました」


 離宮でリアムさんが提案してくれていた説明を私はすらすらと述べると、女王陛下は「それならよかった」と安堵の笑みを浮かべて見せたが、心の中では地団駄を踏んでいるに違いない。顔が少しひきつっているのを私は見逃さなかった。


「しかし元々、海賊業を営んでいらっしゃったお方が王族の一員となるのはいかがなものでしょうか?」


 最前列にいた初老の男性が声を上げる。彼の素性を詳しくは知らないが、その場が静まり返ったことを考えると、よほど偉い人なのだろう。


「陛下もまだお若い。儀式をせずに女王を擁立するよりも、王妃様の第一王子様が成人されるまで待たれては」


 国王をふと見ると確かに30代半ばぐらいで、まだまだ引退するには若すぎるという印象も受ける。しかし初老の男性の言葉に国王は明らかに不機嫌そうだった。


「王女様しかお生まれにならなかったために法を改正し、儀式を撤廃してまで女王擁立の制度を整えましたが、現に王妃様だけでなく側妃様方にも王子様は誕生されました。いま一度、ご一考されるべきかと存じ上げます」


「ですが宰相、そう簡単に法を改正する……というのも問題ではないでしょうか」


 側にいた男性がそう声を上げた。


「ヨーク公爵のご子息殿も確かリリィの婚約者であったな」


 国王がおもむろにそう投げかけ、ようやく彼がエドガーの父親だったことを思い出す。


「昨年、婚約者として離宮に入らせていただきました。リリィ様からもご寵愛をいただいており、仲睦まじい姿を度々拝見しております」


 そんな事実はないが、どうやら彼は私達の味方なのだろう……。あえて否定はせずに話の流れを傍観することにした。


「そんな子供じみた理由で、代々続いていた伝統を廃止せよ、とヨーク公はおっしゃるのか?」


 宰相はさも馬鹿にしたようにエドガー父を睨む。


「あれは……ただの儀式にしか過ぎないよ」


「陛下まで!!何を寝ぼけたことを!!」


 宰相は顔を真っ赤にしてダルそうにそう言った国王をしかりつける。


「魔王を倒した者が即位できるという法すら残っている状態で、魔王討伐の儀式を行わないで就任する女王がどれほど国民から軽んじられることか」


「神殿に行って聖剣をもらうだけなら、ここで聖剣を渡してもさほど変わらないではないか」


 宰相の剣幕にも負けず淡々と国王は反論した。


「お世継ぎが王女しかおらず、危険が伴う儀式ができないならば仕方ございません。ですが、王子が産まれ儀式ができるならば、その者を王にするのが道理ではありませぬか」


「それでは私がその儀式を行えば、問題がないのでしょうか?」


 私の発言に宰相は勢いよく振り返り、その場がザワザワと騒がしくなった。私の発言を声高に否定したのは、玉座にいる国王だった。


「ダメだ。危険すぎる。私が儀式を行った時よりもさらに魔物は侵略してきている。あの神殿ですらどうなっているか分からない」


 国王が立ち上がるようにしてそう言うと、会場は再び静まり返る。


「陛下、大丈夫でございますわ。都合がよいことに私には五人の婚約者がおります。私一人では難しいかもしれませんが、彼らがいれば大丈夫でございますわ」


「ほう……ちょうど儀式の際に連れて行く“仲間”の人数と一緒ではないですか。随分、ご準備がよろしいようで」


 宰相の嫌味を聞き流しながら、私は再び国王に向かって嘆願した。


「もし私めの心配をしてくださるならば、即位した後のことをお考え下さいませ。大切な儀式も疎かにした女王として王族の名を汚すだけでなく、ここにいる皆も私を慕ってはくれないでしょう」


「婚約者らは……スタンリー男爵は、そのような危険な橋を渡ってくれるのか?」


 何とかして反対する糸口をつかみたいのだろう、国王は必死の形相でリアムさんに話を振るが彼は問題ないとばかりに大きく頷く。


「私はもちろんでございますが、離宮の婚約者らはリリィ様のためでしたら、命を投げ出す所存でございます」


「相手は海賊ではなく魔物なんだぞ?」


「確かに陛下が即位された時代と比べますと、北の神殿もだいぶ危険が迫っていると聞いております。ただ私は、リリィ様のためにお仕えするよう“さるお方”から言いつかってますので……」


「さるお方……?」


「さるお方でございます」


 リアムさんは、“さるお方”の名前を出さなかったが、その一言で国王の顔色が変わる。今までの焦りは消え、静かな不安と諦めの表情が見えた。


「分かった。リリィの儀式を行うとしよう」


 大きなため息と共にそう言うと、国王はスクッと立ち上がる。


「本来より予定を早め一ヶ月後に行いたいと思う。それまでに関係各所は準備を行うよう」


 それを合図に部屋からバタバタと半分近くの人が姿を消し始める。どうやらそれが、この会の終わりの合図だったのだろう。国王は玉座から降りるとそのまま私達の元へ近寄り、耳元でささやくように語りかけた。


「リリィ。そなたには私は何もしてやれない。今回も安全に即位させたかったのだが……本当にすまぬ」


 初めて近くでみる国王は少しやつれていたが、やはり金髪のイケメンだ。さすが美少女・リリィさんの父親…と感動させられる。勿論、そんな表情は一つも出さず代わりに無邪気な笑顔を見せた。


「とんでもございません。私の我ままをお聞きくださり、本当にありがとうございます」


「一つだけ忠告させて欲しい。形式的な儀式とは言え、本当に危険な場所だ。心して行って欲しい」


 そう言って私の肩に乗せられた国王の手は酷く重いような気がした。

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