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王妃の謝罪、開戦の合図のようです

 ラルフが要塞で「大変なことになったかもしれない」と言った真意を理解したのは、次の日の朝だった。


「リリィ様、国王様からお呼び出しのご連絡がありました」


 百合の間から自室に入るなり、ヘレナは一通の手紙を差し出してきた。


「お父様から?」


 まだ見ぬ父親からの呼び出し上を確認すると、先日の砲撃について王妃が謝罪をしたいと書かれていた。


「王妃が謝罪ね……」


 手紙を後ろから覗き込んだリアムさんが、そう言って小さく唸る。以前よりも自然と距離が近くなっていることが少しこそばゆい。


「なんで?間違って攻撃しちゃったんでしょ? 謝罪してもらうのが普通じゃない?」


「まぁ、普通はそうだな」


 リアムさんはそう言うと、ソファーの上に座り小さく考え込むような様子を見せる。彼の考えていることが分からず、私は彼の横に座りその横顔を覗き込んだ。


「どういうこと?」


「魔物が明らかに船に乗っていたなら分かるんだが、普通に人間が乗っている船を攻撃するか? 要塞からだって確認しようと思えば見えたはずだ。もし海賊船だとしても、入港してから捕縛されるのが一般的だ。それなのに問答無用で攻撃してきたってことは、王妃は分かっていて攻撃したんだろうな……と俺は思っていた」


「え、なんでそんなことするの?」


「お前の一番の後ろ盾が俺だからだろ。財政的にも俺が居なくなったり俺の船団がなくなったりして、収入源が断たれればリリィにとって大打撃とみたんだろうな」


「でも変よね?」


「何がだ……」


「私の後ろ盾がなくなったぐらいで、王妃様の息子が王になれるの?」


 王妃が私に対して単なる嫌がらせをするにしては、度が過ぎている。彼女の目的は息子の即位だろう。しかし王妃の息子は第一王子だが一歳になったばかりだ。年齢的には第一王女の私を筆頭に、第二王女から第六王女まで存在する。つまり順位的には七番目でしかないのだ。


「それとも順々に罠にでも嵌めていくつもりだったのかしら……」


 手間はかかるが第二王女以下全ての王女を殺したり、失脚すれば可能性がないわけでもない。そこでリアムさんは、再び唸る。


「そうなんだよな……。やることがお粗末というか、回りくどいというか。時期が遅すぎる気がするんだよな」


 ようやくリアムさんの悩みを理解できたが、悩み自体を解決することはできずに私も小さく考える。


「失礼でございますが。リアム様もご用意をされてはいかがでしょうか?」


 そんな私達を見下ろすようにヘレナがそう言った。


「俺?」


「はい。こちらの手紙には被害にあわれたリアム様もご同席するよう書いてございますが」


「まぁ、確かに私が被害者というよりリアムさんが被害者だもんね」


「面倒なことになったな……」


「ま、ガッツリ賠償金ふんだくってこようよ!」


 王妃の意図はハッキリと分かりかねたが、悩んでもことは始まらないのでとりあえず笑顔を作ることにした。


 

 『王妃様からの謝罪』というので、国王と王妃の2人だけが待っているのかと思っていたが、案内された玉座の間にはズラリと貴族らしき人々も集まっていた。ザワザワと騒がしかった玉座の間が、私とリアムさんの登場に一瞬にして静まり返り、代わりに無遠慮な視線を投げかけられる。


「やっぱりな」


 私の隣でリアムさんが、そう小さく悪態づいたが、表情はにこやかなままだ。なるほど、動じるな……ということだろうか。


「国王様並びに王妃様、本日はお招き頂きありがとうございます」


 国王と王妃の前まで行き片膝を曲げながら優雅に挨拶をすると、国王は「わざわざ、すまんな」と言って片手で顔を上げるよう合図する。


「先日の件で今日は王妃が謝罪の場を設けて欲しいとのことでな」


 国王は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべており、あまり好ましくない話が待ち受けているのがようやく分かった。


「リリィ様、スタンリー男爵、本当に申し訳ございませんでした」


 隣にいた王妃が片膝を床につけ心から申し訳なさそうに謝罪をする。正直、意外だった。これだけ人が集まった中でプライドの高い王妃が頭を下げるとは思っていなかった。


「昨日の一件、何者かが私の名前を語り、スタンリー男爵の船舶を襲わせたようでございます。後から惨状を聞きまして、慌ててこのような場を国王様に設けて頂きました」


 なるほど……その路線でくるのかとチラリとリアムさんを見たが、張り付いたような笑顔を浮かべるだけで、特に口を開く様子はない。


「王妃様、お顔をお上げくださいませ。王妃様は何も悪くないではございませんか。それに王妃様からの仕打ちではないと知り安心いたしました」


「リリィ様、本当にお優しい……。船に乗っておられたというスタンリー男爵にはお怪我はございませんか?」


「不幸中の幸い、大怪我を負った人間も死人は出ておりません。船も1隻沈んだだけですのでご安心下さいませ」


「まぁ、船が……」


 王妃様の悲鳴のような声に周囲もザワザワと騒がしくなる。


「失礼ながら!スタンリー男爵の船は元々武装されていたとか……」


 私達の後ろに立ち並ぶ貴族の中からふとそんな言葉が投げかけられる。国王は相変わらず不機嫌そうにするだけで止めもしない。それを見て、別の声が上がった。


「スタンリー家は、かつては海賊として略奪を繰り返していらっしゃったと伺いますが、砲撃されても致し方ないのでは?」


 勝手な言い分にムッとして思わず振り返りそうになったが、リアムさんがそっと背中に手を回しそれを制止する。


「要塞の衛兵達もそのようなことを申しておりましたが、本当かしら?」


 心底心配したような表情を浮かべ王妃様は私へ視線を移す。なるほど……王妃の意向がようやく理解でき私は大きく息を吸った。


 第2ラウンド開始ということですわね。

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