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悪役令嬢、ヒロインから奪い取った『逆ハーレム』のために魔王を倒す  作者: 小早川真寛
6.5章 不安によってかき立てられた愛の想い出
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人間に十五年を捧げた~エルフメイド・ヘレナ視点~

 ヘレナはリリィのベッドに勢いよく飛び込むと大きくため息をついた。本来ならば主人の寝台でメイドが寝ることは決して許される行為ではなかったが、彼女が抱える気持ちには十分見合う行為だった。


「やっぱりリリィ様なのかな……」


 十五年前からリアムの心が自分へ決して向けられないことをヘレナは理解していた。


 一方でヘレナは自分の美貌には一定の自信があった。美形が多いエルフの国でもヘレナが甘い言葉をかければ大半の男は振り向いたし、恋人に困ったこともなかった。だからこそ心のどこかで自分にもチャンスがめぐってくるのではないかと期待していた。


 その期待はこの数週間、さらに大きくなっていった。肝心のリリィが記憶を失ったからだ。単に記憶がないだけではく、本人は自称異世界から来た少女だという。ヘレナにとって、これは大きなチャンスだった。


 リリィは明らかにエドガーのイケメンぶりに色めき立ち、アーロンの肉体美に魅了され、ラルフの神秘的な雰囲気に魅せられてもいた。勿論、そのことにリアムが気付かないはずはないし、こっそりとショックを受けていることもヘレナは知っていた。さらに、リリィのことを知るのはヘレナとリアムだけということもあり、報告・連絡・相談と2人の接触時間が物理的に長くなっていった。出会った時のように。




 二人が出会ったのは、まだリアムが十八歳の時だった。ヘレナが奴隷商によって売り飛ばされそうになったところをリアムが助けたのだ。それでもヘレナは最初は


「こんな子供に何ができよう」


とリアムを馬鹿にしていた。ただ恩を返さずにリアムの元を去るのは気が引け、部下として雇ってもらうことになった。長寿のエルフにとって、人間の半生に付き合うことは時間的には大きな問題ではなかったからかもしれない。


 本当に軽い気持ちだった。『大きな恩を返したら祖国に帰ろう』と思っていたヘレナだが、彼の右腕として困難を乗り越えれば乗り越えるほど彼に惹かれていった。その際中、何度か熟練の技で誘ってみたが、まるでなしの礫だった。あまりにも反応が悪いので女にそもそも興味がないのかともヘレナは考えたが、リリィと会った時、その認識が間違っていたことに気付く。



 リアムは最初からリリィしか見ていなかったのだ。



 それは妙な話でもあった。リアムとリリィが知り合ったのはリアムが二十八歳の時だが、それ以前もリアムの視線の先には常にリリィがいるような錯覚をヘレナは時々覚えていた。


 例えばリアムが二十五歳の時、国庫の三倍にあたる私財を寄付したことで男爵の爵位を得たが、自治領を得るだけならば必ずしも必要な手段ではなかったはずだ。だが、爵位がなければ王都の学園に出入りするのも難しく、リリィと知り合うことすらできなかっただろう。


 これまでのリアムの奇怪な言動も「全てリリィに繋がっている」と考えれば説明がつく……そうヘレナは考えた。そこで


「最初からリリィ様に近付くのが目的だったんですか?」


とかねてからの疑問をリアムにぶつけたことがあった。すると


「リリィが女王になるのが目的だからね」


と答えにならない答えが返ってきた。


 その答えがヘレナにさらなる期待を抱かせた。もしリアムがゲーム盤の上の駒を動かすようにリリィに執着しているのならば、納得できる。政治という盤の上でのゴールが「駒の即位」ならば、後ろ盾のない第一王女は確かに魅力的な駒だ。リリィが女王なったら目的は果たされ、自分に振り返ってもらえるのではないか……とヘレナは淡い期待と共に『その時』を待っていたのだ。エルフであるヘレナにとって数年待つのはさ程大きな問題ではないのだから。



 ところが、今夜二人は百合の間に姿を消した。リリィは単なる駒では決してなかったのだろう。


「どこで打つ手を間違えたかな……」


 ヘレナはベッドの上でリアムとの想い出を一つ一つゆっくりと振り返る。


「そんなに致命的な悪手はなかったと思うんだけどな…」


 最終的にリアムの部下になったのがそもそも問題なのかもしれない……という結論に至りそうになり、ヘレナは首を振った。もし部下になっていなかったら、ヘレナが今抱えている思いは存在すらしなかっただろう。そう考えると、今以上に切なくもあった。


 年齢を重ねれば重ねる程、若い頃のように情熱的で衝動的な恋愛は出来なくなっていたが、だからこそ秘めた想いは大きくなっていることにヘレナは気付いていなかった。


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