第一王女の権威、対外的にはかなり効果的なようです
「止めなきゃ……」
新たな砲弾を充填しようとする兵士に向かい駆け寄ろうとした瞬間、強い力で腕を引かれる。
「砲兵に言っても無駄だよ。着いてきて」
ラルフはそう言うと数基ある砲台の後ろをすり抜け、数段高い場所を目指す。そこには指揮官らしき人が大声で「撃て!!!」と砲撃を指示している。
「何をしている!!!」
いつもの穏やかなラルフからは信じられないような大声がその場に響きわたり、全員がこちらに視線を向ける。指揮官の手が止まり、攻撃が一瞬にして止まった。
「あちらの船舶を第一王女様のものと知っての狼藉か?」
「あの海賊船が……でございますか?」
明らかに狼狽した様子の指揮官の言葉に内心、同意してしまった。確かに見た目は決して王族が乗るような煌びやかな船ではない。
「左様。秘密裏にわが祖国の同胞をお救いいただいたのだ。王女の旗は出ていないが王女の婚約者も乗船しております」
ラルフの言葉にあたりはザワザワと騒がしくなる。指揮官は顔面蒼白になり、冷や汗が吹き出しているのが少し離れた場所からもハッキリと分かる。
「お言葉ながら! 王妃様からのご命令によるものでございます」
指揮官の様子を見かねたのか、その隣にいた騎士が声を上げる。
「王妃様?」
ラルフの形の良い眉がピクリと動く。自分の言葉に自信を得たのか騎士はさらに言葉を続けた。
「魔物が船を操って入港するから、攻撃するようにと下命があり、それに従い攻撃した次第にございます」
ちらりとラルフをみると顔面蒼白になっている。王妃様の命には、やはり逆らえないのかもしれない。そんなラルフに代わり私は一歩前に出た。
「なるほど。王妃様とは行き違いがあったようです。しかし、あの船は確かに全て私のもの。救援を出していただけますわよね?」
「しかしっ、もし魔物がいたならば……」
なお食い下がろうとする騎士を私は思いっきり睨みつけた。
「全て私が責任を負いましょう。またあの船には某国の貴人も乗船しております。これ以上攻撃を続けられるようならば、国際問題にも発展しかねませんが……その責任はお取りになられますの?」
『国際問題』という単語が出た瞬間、騎士の顔面も白くなる。指揮官は意を決したのか唸るように「かしこまりました」と言うと慌てて救援を出し始めた。慌ただしく兵士が行き交うようになり、ホッと胸をなで下ろす。
「ラルフ、本当にありがとう」
改めてラルフに振り返るが、ラルフの顔は未だに顔面蒼白だ。
「大変なことになったかもしれない」
そう言って形の良い顔を歪めていた。
ラルフのいう「大変なこと」が若干気になったが、私は目の前の人々を助けることが先だ。硬直しているラルフをその場に残し、私は神殿へ全速力で向うと前方からヘレナが走ってくる。いつもは冷静なヘレナの顔に薄っすらと焦りが見えるような気がした。
「リリィ様、お怪我はございませんか?」
「大丈夫。それより救助された人達を神殿へ誘導するから、離宮のホールで手当てするよう指示してもらえるかしら」
「かしこまりました。リリィ様はどちらへ?」
ヘレナは珍しく私の腕を強くつかむ。決して言葉にしないが『行くな』というメッセージが込められている気がした。
「大丈夫。もう砲撃は終わったし魔物だっていないわ。みんなを神殿に案内するだけよ」
「さようでございますか……。決して無理はなさらないでくださいまし」
私はできる限りの優美な笑顔で彼女に微笑み、再び港へ全速力で走った。
案の定、救援された人々が多すぎて、要塞の人間だけでは手が足りていないようだ。
「怪我人を神殿へ案内していただけるかしら? 私の離宮で収容させていただきます」
近くにいた数人の衛兵に声をかけると、「かしこまりました!」と直ぐに怪我人や救助された人達を誘導してくれた。どうやら先ほどの指揮官とのやり取りを見ていたに違いない。
本当は大声でリアムさんの名前を叫びたかった。「大丈夫、ここにいる」と安心させて欲しかったが、第一王女として私は必死に笑顔を作り、
「もう大丈夫よ」
「私の離宮へいらしてね」
と救助された人々に声をかける。不思議なもので、私が落ち着けば落ち着くほど人々は安堵の表情を浮かべた。
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