サブキャラですが司令塔のようです
一方、イケメンとはいえ男性が五人も部屋からいなくなると、空気が少し軽くなるのを感じ、ベッドの上で思いっきり伸びをした。
「イケメンだったな~~」
と呟くと、どこからともなくメイド姿のエルフが現れる。
「お呼びでしょうか?」
いやいや、呼んでないよ……と思いつつも笑顔で
「大丈夫よ」
と精一杯品よく返事をするとエルフメイドは少し訝しげな表情を見せた。
「リリィ様なのでしょうか…」
素朴だが的確な質問に私は思わず、苦笑いを浮かべる。さっきのエルフ王子・ラルフの魔法ですら、バレなかった正体がにわかにバレそうになっている。
「なんだか記憶があいまいで…あなたの名前も分からなくて…、よかったら教えていただけますか?」
ラルフの言ったように『記憶喪失』という線で押し通すことにした私の言動をエルフメイドは、少しビックリしながらも信じたようで、軽く膝を折り
「失礼いたしました。私、ヘレナと申します。何かございましたら何時でもお呼びください」
と挨拶し、再び姿を消した。エルフって忍者みたいな動きができるんだな……と感心していると、今度はベッドの正面に位置する暖炉の横の柱がキーーッと音を立てて動いた。いわゆる隠し扉だ。
「おぉぉ!!」と歓声を上げるのを我慢しながらも映画のようなワンシーンに私は胸が高鳴るのを感じた。
そこから出てきたのはリアムさんだった。
全員を追い出してから部屋に戻ってくるとは、さすが年の功ともいうべきだろうか。悪だくみがバレた少年のように、へへッと小さく笑って私の側に歩み寄る。慣れた様子でベッドのふちに座ると、そのままベッドの中央に座る私とグッと距離を縮めた。
「大丈夫か?」
そう言って、彼は私の髪を撫でつけるともう片方の手で私の身体を抱き寄せ、唇を近づけようとする。外人風の二人ならば挨拶のような行動なのだろうが、元女子大生である私からすると彼は見知らぬオッサンでしかない。さらにこの雰囲気からすると、キスだけでは終わりそうにない気がして慌てて声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
私は間抜けな声と共に彼を両腕で押しやると、ひどくショックを受けたような表情を浮かべるリアムさんがいた。
「本当にリリィじゃないのか?」
あまりにも受け入れたくない現実を突きつけられたような表情を浮かべ、リアムさんは今にも倒れそうなぐらい真っ青な顔をしていた。
「ごめんなさい」
返す言葉がなく私は小さく俯く。変な言い訳をして墓穴を掘りたくなかったし、このショックを受けたリアムさんにかける言葉が、私には見つからなかった。
「いや、こちらこそ済まなかった」
少しすると色気を全く感じない軽やかな声が頭の上から降ってきた。恐る恐る顔を上げると、先ほどとは少し距離を離れた位置に笑顔で座るリアムさんがいた。
「リリィは時々、あの手この手であいつらを試していたから、今度もその手の悪戯なのかと思っていたんだ。ラルフが『記憶喪失』って言った時、悪だくみする時の顔をしてたから。勘違いしちまった」
確かに自分がリリィさんではないことがバレずに済んだ時、『イケメンハーレムを満喫しよう』と私は悪い顔をしていたかもしれない。
「それで一体、あんたは誰なんだ?」
その投げかけられた言葉と眼差しに強い怒りと信念を感じた。短い言葉だったが何故か、『この人には隠せない』という恐怖が私を支配し、正直にこれまでの経緯を説明することにした。
「なるほど……ゲームの世界ね…」
にわかに信じられないといった様子のリアムさんだが、少し何かを考えた様子でヨシッと何かを決意したようだった。
「じゃあ、あんたは他のメンバーの前では『記憶喪失』のリリィで通せ」
リリィさんに向けられた愛おしそうな雰囲気はなかったが、その言葉を信じていれば大丈夫かもしれない……という妙な安心感が不思議とそこにはあった。
「今、リリィの廃嫡を画策している奴らが大勢いる。そんな奴らに今の説明をしてみろ、すぐに幽閉されるか最悪殺されかねない。だから『記憶喪失』でいて欲しい」
『記憶喪失』でいることのメリットを分かりやすく説明され、私は、思わず「なるほど」と感心した。
「リリィさんと私が入れ替わるきっかけになった事件は、その誰かによるものってことですか?」
「まだハッキリとしたことは分からない。これから調べるが少なくとも事件の概要が分かるまでは離宮の中では『記憶喪失』。他の奴らには何もなかったフリをして欲しい」
「はい」と頷きつつも、リリィさんの置かれた立場が今一つ分からず歯切れの悪い返事となった。そもそもリリィというのが誰なのか私はハッキリと分かっていなかった。
『どきどきプリンセスっ!』は、学園を舞台にしたゲームで十五歳~十七歳までの三年間を過ごす中で、「学力」「体力」「芸術」「魔法」「気配り」などの各種パラメーターを上げ、ターゲットとなるキャラクターを攻略していく。主人公は地方の男爵令嬢ということもあり学園の寮で生活していたのだが、なぜかこの舞台は“離宮”になってしまっている。
私の疑問を察したのかリアムさんは重い口をゆっくりと開いた。
「リリィは王位継承権一位の王女だが、他にも兄弟はたくさんいる」
「え?兄弟?」
一人っ子の私からすると胸が躍るような情報に思わず身を乗り出したが、リアムさんは渋い顔をして首を横に振る。
「あんたが思っているような仲良し兄弟じゃなくて、母親違いの弟や妹達だ。表面上は穏やかに兄弟ごっこをしているが、あんたを何とか陥れようと日々、切磋琢磨していやがる」
「そんなに嫌われているんですか……」
少し悲しくなりしょぼくれると、リアムさんはハハハっと乾いた笑いを浮かべた。
「そりゃ、そうだろ。リリィが居なくなれば自分が王になれるんだぞ?俺が弟だったら、確実にあの手この手を尽くす」
「あぁ……」
と残念な気持ちが広がった。異母兄弟とはいえ、どこかで仲良くできるのではないか……という淡い期待があったが、『王位』が存在する以上、周囲の期待も加わりなかなか難しいことなのかもしれない。