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複数プレイよりも大切な用事があったようです

 シリルの部屋へ向かう廊下をリアムさんと一緒に歩きながら、私は酷くソワソワしていた。


「手と足が同時に出ているぞ。何緊張してんだよ」


 彼の言うように酷く緊張もしているようだ。


「だ、だって……」


「顔も真っ赤だし……今日はやめとくか?」


 止めるという選択肢があることに初めて気付き、大きく頷きかけた矢先に廊下の先からシリルが走ってくる姿が見えた。長いローブをパタパタといわせながら、満面の笑みで近づいて来る彼に今さら「帰る」とは言いづらかった。


「ま、すぐ終わると思うから、辛かったら言え」


『やっぱり三人でするのは辛いんですね…』と言う前に、シリルさんが「こんばんは!」と声をかけてきた。


「遅かったから迎えに来ちゃいました」


 よほど私達が来るのが嬉しかったのだろう。全身から笑顔が溢れ出しているような錯覚にとらわれる。三人で過ごす夜をこんなに楽しみにするなんて、なんという変態だ……。


『人は見かけによらない』


という教訓を胸に、時間が過ぎるのだけを待とうと私は決意した。



 しかし案内された部屋は、私の考えが杞憂だったことを物語っていた。部屋のいたるところに本が積み上げられており、床には紙が乱雑に捨ててある。机の上には実験道具のようなものもあり……セクシーとはかけ離れた空間だった。


「ついにできたんです!」


 彼はそのゴミ山のような机の上から一枚の魔法陣が書かれた紙を取り出した。


「できたか!凄いぞ」


 リアムさんは渡された紙を手にして、大げさに感動し、シリルさんは半泣きになって「ありがとうございます」「ありがとうございます」と感謝の言葉を伝えている。


「えっと……それ……なんですか?」


 私の間抜けな質問に、初めて二人はハッと振り返った。


「あぁ、そうか。そうだよな。すまん」


 リアムさんは自分に納得させるかのようにそう頷きながら、私に紙に書かれた魔法陣を見せた。


「シリルが離宮に来てから、ずっと移転魔法の研究をしてもらっていたんだ」


「あの魔法陣を使って移動するやつですか?」


 王妃様のお茶会や王城に行った時に神殿で使った魔法陣のことだろう。


「そう、それだ。現在、地面に掘られた魔法陣を使って移動しているが、神殿がないと移動ができないだろ?だから紙などにあらかじめ魔法陣を書いておけば、スクロールとして移転魔法を使えるんじゃないかって、話していたんだ」


「私がこの離宮に来ましたのも、リリィ様とリアム様から離宮で自由に移転魔法の研究ができるというお誘いがあったからなんです」


「それで二人で来るようにって言ったのね!」


 大きな心配事が一つなくなり、私はホッと胸をなでおろす。しかし二人の興奮は未だ冷めやらないらしく、あれやこれやとスクロールについて語り合っていた。


「で、どうやって使うんだ?」


「まずあらかじめスクロールに移転魔法のために必要な魔法陣とゴール地点の座標を記入しておきます。その上に移動させたい物や人を乗せ、第三者がスクロールに向かい呪文を詠唱することで移転させることができます」


「今までは移転先にも魔法陣が必要だったが、やはりそれは変わらないのか?」


「よくぞ聞いてくださいました。そこが一番の課題でした。正直なところスクロールから神殿に移動するのはさほど大きな問題ではありません。任意の場所から任意の場所へ移転できることが必要だと考えました」


 魔法陣がある場所にしか移動できないならば、現状では魔法陣のある神殿へしか移動できずスクロール化する魅力は半減するかもしれない。


「このスクロールは指定した移転先の座標に自ら魔法陣を描き、その場所に移転することが可能になっております」


「お前凄いぞ。本当にすごい!」


 リアムさんはシリルを抱きしめ背中をバンバンと大きくたたいた。


「つきましては神官長の件も……」


「もちろんだとも!なぁ?リリィ」


 勿論私は首を傾げる。そんな約束をしていたのだろうか……。


「この研究ができたら、リリィが女王になった時、シリルを神官長にするって約束したんだ」


 焦れたようにそう言うリアムさんに私は新たな疑問が生まれた。


「こんな凄い研究していたら、自動的に神官長になれそうな気がするんだけど」


 日本でこの技術が発明したならば、ノーベル賞もビックリの研究結果に違いない。インフラが根底から覆るわけだから、革命児としてあがめられるに違いない。


「おそらく私が今、学会で発表しようものならば、貴族出身の神官らが手柄を横取りするに違いません」


「シリルは地方の平民の出なんだが、“神童”と絶賛されるほどの頭脳明晰さが話題となり、王都の神官学校から入学の誘いがあり首席で卒業したんだ」


「凄いじゃない!」


「そう……凄いんだよ。こいつは。首席で卒業した生徒は王宮もしくは王都内の神官として働くのが普通なんだが、こいつに用意されたのは辺境の地にある神殿での仕事だった」


 リアムの隣で悔しそうに俯くシリルさんの気持ちが痛い程伝わってきた。


「そこでお前と俺で離宮にこないかって誘ったんだ」


「うん。それなら絶対、神官長だね!だってこれがあれば、リアムさんが海賊行為しなくて済むんでしょ?」

                                          

 魔物の存在が原因で貿易ができなくなり海賊行為が横行したというならば、このスクロールがあればすべて問題が解決するに違いない。


「だーかーら俺のは海賊行為じゃないって言ってんだろ!?どっちかっていうと救済活動だ!」


 ムキになって怒るリアムさんが面白く、久しぶりに色々なことを忘れて思いっきり笑ったような気がした。


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