逆ハーといえば複数プレイが定番?!のようです
「隣国の紛争問題も解決するって……女王の仕事なのかぁ~~~」
昨日、ラルフの申し出を「考えておく」と保留にしたが、あの工房で働かされている彼らのことを考えると何とかしないわけにはいかなくなったのが現状だ。ただあまりにも知識がなさすぎるので、ラルフのいたエルフの国について歴史だけでも調べようと離宮にある図書室を訪れたのだが、ここに来て新たな問題が発生した。
地理感覚も歴史感覚もないのだ。
幸い字は読めるが、地理と歴史を1から勉強するのは、だいぶ骨が折れそうな作業だ。再び大きなため息をついてしまう。
「おや、珍しい。何かお探しですか?」
そう言って本棚と本棚の間から現れたのは、メガネイケメンのシリルだった。両手には大量の本を抱えていたが、近くの机に置くと私の隣にサッと座る。
「エルフの国についてですか……あぁ、ラルフ様の?」
「ええ。難民のことでお困りだったようだから、調べてみようかと」
「それでしたら、こちらの本がオススメですよ」
シリルはテキパキと数冊の本を図書室から集め、私の前に置いてくれた。
「お詳しいんですね」
「まぁ、この図書室使う人なんて私ぐらいですからね。庭のようなものですよ」
離宮の中でほぼシリルと出会ったことがないのは、彼が図書室にこもっていたからなのかもしれない。
「もしよろしければ、他にも本をお探ししましょうか?」
「あの…難民の奴隷問題についての本はありますか?」
あぁ、とシリルは頷くと、先ほど持ってきた本のうち1つを私の前に広げる。
「我が国で奴隷制度がスタートしたのは今から50年前のことと言われています。主に交易を行っていた北方のテスカ港が……」
ここですね、と地図が描かれたページで『テスカ港』という場所を指さす。
「ここが魔物であふれるようになり、思うように貿易ができなくなった時代がありました」
「ま、魔物が出るの?!!」
魔法が使える時点で、ここは過去なのではなく全く別世界なのだということは分かっていたが、魔物まで出てくることに驚かされた。
「そりゃ、出ますよ。我が国の辺境の村々でも時々魔物がでて、村が一つなくなるってこともありますからね」
「え、大丈夫なの?」
「そのために辺境の警備を固める軍隊などもございますので、大丈夫ですよ」
気軽に魔物が出入りできるわけではないことを知り、一安心するものの城壁から出てしまうと思わぬ危険が潜んでいることに驚愕させられた。
「そこで我が国は海賊行為を容認するようになりました。他国の船や商船を襲い、そこから得た物資を他国に輸出するようになったのです」
「そんなことをしたら国際問題になるんじゃないの?」
「もし他国に“海賊”として捕まった場合は、『勝手にやったことだ』と国は切り捨て、捕まらず貿易ができた場合は利益の3割を国が手にしていたようです」
「凄い悪知恵が働くというか、せこいというか……」
「なかなか手厳しい。そのうち奴隷船を専門に襲う集団が出てきまして…あぁ、リアムさんの御父上もこの一人といわれています」
再び私は驚きの声を上げる。
「リアムさんが?!」
「オヤジがだよ」
いつの間にか現れたリアムさんは、そう言って私を睨みつけるように見た。
「オヤジの代までは奴隷船を襲って奴隷売買を行っていたが、今は難民や移民としてわが領地で保護してやってるぞ」
「あぁ!だから、ラルフさんのお店で嫌味言われたんだ」
昨日の慇懃無礼な店員の態度の理由がようやく理解できた。彼の仲間がおそらくリアムさんの父親によって売買されたことがあるのだろう。私の言葉にリアムさんは苦虫をつぶしたような表情を浮かべた。
「簡単に言うと、そうして我が国でも奴隷売買が定着するようになったわけです。ただリアムさんが他の海賊と違うところは、奴隷を売買するのではなく、領民として働かせ巨万の富を得ている点です。市民権も得られますしかなり好待遇なようですよ」
シリルの言葉にリアムさんは「どうだ」と言わんばかりに頷いて見せる。
「国が海賊行為や人身売買を認めているってことは、問題はかなり根深いってワケね」
私は大きくため息をつくと、シリルはにっこりと微笑んだ。
「簡単に説明しましたが、こちらの本もなかなか興味深いことが書かれていますのでよろしければお読みになられてはどうでしょう」
手渡された本を見ながら私は少し懐かしいような気持ちが自分の中であふれているのを感じた。
「私、シリルさんとこうやってよく図書室でお会いしていました?」
シリルは少し残念そうな表情を浮かべて首を横に振る。
「私は他の婚約者とはちょっと扱いが異なりましたからね」
その言葉の意味を理解できず思わず見返すと、シリルさんは思い出したように手をポンと叩いた。
「そうそう。今晩は私の部屋にいらしてくださる予定だと思うのですが、よろしければリアムさんと一緒にいらしてください。お目にかけたいものがあるんです。あ、私は準備があるので、これで」
再び本を抱えながら慌てて図書室を出て行くシリルさんをあっけにとられながら見送り、ふとリアムさんを見ると今にも泣きだしそうな顔をして私を見ていた。
「ちょ、ちょっと……お父さんのことを悪く言ったのはごめんなさい。でも……悪気はなくて……」
慌てて弁解をするが、リアムさんは大丈夫と言わんばかり手で私を制止し、そのまま図書室を出て行ってしまった。二人が立ち去った後に私は大きな問題に気付いた。
「三人で……?!」
色々なことを決意し、婚約者達と一緒に夜を過ごすことも納得したはずだったが、いきなり三人で…というのは少しハードルが高すぎるのではないだろうか。シリルだけでなくリアムさんもそのことに異論はなかった、という点で既に三人は経験済みなのだろうか。
「さすが悪役令嬢。そして逆ハーレム」
私は本日最大のため息を図書室の天井にむかってはきかけた。