イケメンエルフ登場のようです
ゲームの中では神秘的なキャラクターとして登場したラルフだが、実際に目の前に現れるとその存在感は圧倒的だった。ラルフがベッドに近づくと、サッと側にいたイケメン達が場所を空ける。「エルフの王子」というだけあり、ハーレムの中でも別格の存在なのだろう。彼はベッドの縁に腰を下ろすとゆっくりと両手で私の顔を包んだ。
「今日もお美しい。今日、私が贈った花々もリリィ様を前には恥じらいを見せるというものです」
王族特有の言い回しなのだろうか、ラルフはそう言いながら私の髪を手に取り愛おしそうに撫でる。
「少々お調べいたしますので目を閉じてくださいませ。ひんやりとしますが、痛くはありませんから」
言われた通りに目を閉じるとスーッと冷たい空気が私の周りを包むような感覚を覚える。これが魔法なのか…と感心をしていると温かい空気が再び周囲に漂うのを感じた。
「もう目を開けていただいて大丈夫でございます」
そう言われ、目を開けると額にシワを寄せて難しい表情を浮かべるラルフがいた。色白なラルフの額に浮かび上がるシワは、初めからイケメンを形成する要素として存在していたかのように美しかった。完璧なイケメンとは正にこのことだ…と少々驚かされるが、小さな不安も同時に感じていた。
ラルフには私がリリィではないということがバレているのではないだろうか…と。
何かを考えた表情を見せたラルフだが、少しすると心配そうな表情を浮かべるイケメン達に笑顔で振り返り、ベッドから立ち上がった。
「今、リリィ様に呪いの類がかかっていないかお調べしましたが、そのような痕跡はございませんでした。倒れた際に後頭部を打たれたとのことで一時的に記憶が混乱していらっしゃるだけではないでしょうか」
その見解にイケメン達の顔が一様にパッと明るくなり、私も内心ひどく喜んでいた。
私がリリィさんではないことがバレたならばこのイケメン達は、本来のリリィさんを取り戻すために、ありとあらゆる手段を尽くしかねない。もちろん元の女子大生の生活に戻りたいとは思っているが、もう少しイケメン達との幸せな時間を楽しんでからでも遅くないような気がする。
「でも僕の名前も忘れているんだけど……」
そう心配そうに質問したエドガーをラルフは少し意地悪く笑った。
「確かに一番リリィ様と長くいらっしゃったエドガー様ですからね。心配されるのは当然です。ただ200年以上生きている私からしますと、十年も二年も大差ないような気がするのですがね」
そう言われ明らかにムッとする様子を見せたエドガーに、なるほどと感心させられた。イケメン達はリリィさんに対しては絶対的な愛情を見せる一方、決して一枚岩ではなくこうして嫌味を言いあったり、自分の立場を主張しているということに気付かされた。
「まぁまぁ、ラルフもエドガーもリリィが心配しているだろ」
そういうとリアムさんはチラリと私の顔を覗き込むと、にっこり小さく微笑み安心したような表情を見せた。
「明日からは公務に茶会、夜会…忙しいからな。心配なさる気持ちは分かるが、今はゆっくりと休ませてあげましょう」
リアムさんの言葉にみんなは渋々といった様子でベッドの側を離れる。
「後で花を持たせる」
黒髪イケメン・アーロンがそう言って私の手の甲に軽く唇を押し当て離れると、負けじとメガネイケメン・シリルが
「私は詩集をお送りいたします」
と張り切る。それをエドガーが
「頭を打った人間に詩集っていうのはどうだろう?俺はリリィが好きな菓子を用意しよう」
とからかい、ワイワイと楽しそうに部屋を全員が出て行った。その様子は部活終わりの男子高校生達を見ているようで、仲間外れにされたような少し寂しい気持ちに襲われる。